VSカエルナマズ 「んー……よく寝た…」 両腕を空に伸ばしながら、固くなった筋肉をほぐし、名前は欠伸を一つして息をつく。 一緒に寝たエースはまだ起きておらず、寝苦しいのか眉間にしわを寄せていた。 初めてのサバイバル、襲われるかもしれないといった恐怖があったが、エースと一緒に寝たおかげでいつも通りに睡眠をとることができた。 「少しは強くなったかなー」 ハルタをちょっとだけ助けた。 ライオンから危なかったけど、逃げ出すことができた。 睡眠もしっかり取ることができた。 心身ともに成長したなー。と自分で自分を褒めながらその場を立ち上がり、軽く身体を動かす。 空は少しだけ薄暗く、いつも起きる時間帯より早かった。 「ご飯の準備…。あ、その前に枝を集めてこよ」 すっかり消えてしまった火を起こすため、枝を探しにに森に一歩踏みいる。 周囲を警戒しながらさっさと集め、すぐにエースの元へ戻って、枝を積み重ねる。 その音を聞いて、エースも「うっ…」と声を出してゆっくり身体を起こした。 「おはようございます、エースさん」 「…………おー」 「いつもより早いですね」 「…そーか」 「よく眠れましたか?」 「眠れたような眠れなかったような…」 「どっちなんですか」 クスクス笑う名前を見て、エースは朝から複雑な気分になった。 名前はすっかり睡眠がとれたようだ。それは何よりだが、意識されてないと思うとちょっとだけショックを受ける。 それでも名前が自分を頼ってきてくれるのは嬉しいのだが。 ぼーっとする脳みそを起こすように頭をかき、名前が集めてきた枝に火をつける。 「まだ早ェが朝飯にすっか」 「はい!」 「昨日は肉食ったからな…。川あるし魚にしようぜ」 「でもどうやって?」 「名前ちゃん」 「…イヤな予感…」 エースが爽やかな笑顔を名前に向けて名前を呼ぶと、エースとは対照に名前は心底嫌そうな表情で視線を反らす。 しかし、すぐに顎を掴まれ、ぐいっと至近距離まで顔を近づけた。 「お兄ちゃんのお願い聞いてくれる?」 「い、イヤです…」 「末っ子に拒否権なんてねェんだよ」 「うわーん!」 名前が来るまで自分が末っ子だった。 隊長であり、兄であるマルコやサッチ、イゾウからは無理なことを押し付けられ、また虐められていた。 名前がきてからは落ちついたが、自分も末っ子を虐めたい。同じ苦労を味あわせてやりたい。 暴れる名前を小脇に抱え、少し先にある滝壺へと向かった。 夏島の小高い丘から落ちる川水は昇ってきた太陽の光を受け、キラキラと輝いている。 その滝壺で名前を降ろし、森に入って適当な蔓を名前の身体にくくりつけた。 「………あの、エースさん…」 「餌になれ」 「やっぱりですか!イヤですよ!怖いです!」 「残念だな名前。ここにゃあお前を擁護してくれる保護者が一人もいねェんだぜ」 ニヤリと笑い、「行け」というように滝壺を顎でさす。 滝壺も広く、そしてやはりここにも大型の魚や海王類に似た動物がうようよと泳いでいた。 そんな場所に入るなんて死んでもいやだ! そう涙目でエースを見るも、Sスイッチが入ったエースには無駄な抵抗。寧ろテンションがあがって、ニヤニヤと名前の動きを見ている。 「絶対に助けて下さいよ!?」 「頑張って食われねェようにな。あ、うまそうな魚の餌になれよ」 「食べられたら化けて出てきます!」 「ははっ、悪い名前。俺霊感なんてねェや」 何を言っても無駄なことは解っている。 それでもわざわざ食われに行くなんて怖くてたまらない。 川底が見える場所を見つけ、そおっと足をつける。 まだ春島だが気温は高く、暑い。川の水は冷たく、少しだけ気持ちが安らいだのだったが、 「わっ!」 「名前!」 川底に足をつけた瞬間、何かに足首を掴まれ川へと引きずり込まれてしまった。 水音がしたあと、その場から名前が忽然と消え去り、油断をしていたエースは急いで握っていた蔓を引っ張る。 ピン!と張った蔓を力で手繰り寄せるが、相手も相当力強く、なかなか助け出すことができなかった。 「早くしねェと名前が…!…っの野郎、調子にのってんじゃねェぞ!」 掛け声とともに腕、肩、背筋、腹筋に力を込めて引っ張ると、水中から名前を捕まえた魚が飛び出した。 身体はナマズなのに、何故かカエルみたいな手足が生えている。 なまずの口ひげが名前の足首を掴み、逆さに吊るして今にも食べようとしている瞬間だった。 「間一髪だな…。名前ー!」 「ごほっ、げほ、……ッハァ…!」 滝壺から飛び出したなまずは陸に着地し、口ひげを名前の身体にさらに絡めた。 逆さになって吊るされているせいで、自慢のパーカーが少しめくれ、その隙間になまずのひげが侵入する。 「うひゃあ!き、気持ち悪い!ぬるぬるして気持ち悪い!」 「テメェ!俺の妹に何すんだ!」 なまずのひげは感覚機能で、名前は食べ物かどうかを判断している。 しかし名前にとっては気持ち悪いものでしかない。 ぬるぬると身体を触ってくるひげに抵抗をするが、その手も他のひげによって拘束される。 「う、わ、っ!もう…止めて…!」 「……サッチが見たら大興奮だな…」 そう言えば昔サッチに、「触手プレイ」とかなんとかというエロ本を見せつけられたっけ。 と先ほどまで怒っていたのに、ひげに捕らわれている名前を見て変に冷静になってしまった。 「エースさん!助けて下さい!」 「おし、待ってろ!」 火銃を繰り出そうと両脇で構えると、それを察したのかなまずは名前をエースに投げつけた。 思った以上のスピードだったがしっかりと飛んできた名前を保護する しかしその勢いのまま、後ろへと吹っ飛ばされてしまった。 木の幹で背中を打ったエースに、名前が謝りながらエースから離れる。 自分がいなければ幹で身体を打つことはなかった。(ロギアなので) だけど自分のせいで…。やっぱり自分は役立たずなんだろうか。 「ごめんなさいエースさん…」 今は泣いている場合じゃないのに、涙が浮かんできた名前をエースは無言で頭を撫でる。 「いや、よくやった。大物釣ったじゃねェか」 「大物…?」 「見た目はまずそうだけどよ、焼いたら絶対うまい!」 立ちあがってなまずを睨みつけると、なまずはカエルのように飛び跳ねて近づいてきた。 「下がってろ!」 「エースさん!」 名前を押しのけ、なまずに突進するエース。 距離も縮まり、今度は神火 不知火を繰り出した。 「ぶえっ!」 しかし、なまずに水をかけられ、鎮火。 繰り出した神火 不知火も空中で消えてしまった。 全身をびしょ濡れになったエースに、名前も「えっ!」と戸惑いの声をもらす。 エースは火だ。弱点は水。かけられた程度ならまだ大丈夫なのだが、 「ちょ、多勢は卑怯じゃねェか!?」 「なにあれ!」 滝壺からカエルナマズに似た小さななまずが顔を出し、エースに水をかけ続ける。そのせいで火を出すことがままならない。 一旦名前の近くまで避難し、様子を窺う。 カエルナマズは滝壺のある程度の距離からは動かなかった。 どうやら思っている以上に頭は賢いみたいだった。 「あ、諦めますか?」 「諦めてたまるか!今度こそこんがり焼いてやる!」 また飛び出すも、同じことを繰り返すエース。 「俺も…。俺がなんとかしないと!」 何度も立ち向かうエースを見て、名前も拳を握ってその場から駆け出す。 迷惑をかけるのは嫌だ。でも助けてもらうばかりはもっと嫌だ。 イゾウから貰った銃だけは肌身離さず持っており、力強く握りしめてなまずを睨み付ける。 なまずになら噛み殺される心配はないとふんだ名前は、強気で正面から立ち向かった。 「エースさん、交代です!」 「―――は!?…っておい、ちょっと待て!色々言いてェことがあるからちょっと待て!」 「このなまずぐらい倒してみせます!」 「ちげェ!」 ひげに捕まらないように身軽に交わしながら何発か身体に発砲するが、ぬめる身体には傷一つつけることができなかった。 ならば…。と今度は半開きの口や目に向かって乱発する。ひげが幾度となく邪魔するが、ひるむことなく立ち向かい続ける名前。 その後ろではエースが違う意味で焦っていた。 「くっ…!この、いい加減に倒れてよ!」 「名前!パンツ!クマパン見えてるから!」 「こうなったら奥の手ですっ!」 「ズボンをあいつに取られてパンツが丸見えなんだよ!マジ勘弁してくれ!」 「イゾウさんから貰った爆弾玉です!」 なまずに、エースに向かって投げつけられたときにショートパンツを脱がされていた。 気づいていない名前は、パーカーで若干隠れているものの、クマパン丸出しで戦っている。 弾を変え、一発だけ発砲すると、カエルナマズの口に見事入り、中で爆発。 カエルナマズは煙を口から吐き出し、倒れ込んだ。滝壺から顔を出していたなまずも爆音とともに姿を消した。 「エースさん、俺やりました!」 自慢げに笑いながらエースを振り返る名前だったが、頬をほんのり染めたエースは顔を背けた。 せっかく大きな動物を倒したっていうのに何故褒めてくれないんだ。 そう言いたそうな表情でエースに近づくが、近づく分離れて行く。 「エースさん?」 「名前…、ちょっと待ってろ」 視線を合わさず名前の横を通り過ぎ、倒れているカエルナマズに近づく。 不思議に思いながらエースの行動を見ていると、エースは何か(ショートパンツ)を探している。 すぐに発見して、ゆっくりと近づいてくるエース。近づくにつれ、今度は名前がその分離れて行った。 「まァ…、はけよ」 「いやあああああ!」 すぐに真っ赤になった名前は、力ない笑いを浮かべているエースからショートパンツを奪い取り、森の中へと入って行く。 「やだああ!」「何で!?いつから!?」「もう死にたいッ…!」などと聞こえてくるあたり、そう遠くまで入っていない。 エースもこのもやもやする気持ちをどうすればいいか解らず、とりあえず名前が倒したカエルナマズを担いで先にキャンプ跡へと戻ることにしたのだった。 ( ← | × ) ▽ topへ |