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小さな冒険の始まり

不思議な体験をした。
一瞬の浮遊感のあと、バットに額をつけてグルグル回った感覚に陥り、気分が悪くなる。
名前が気持ち悪さに目を閉じ、その感覚がなくなったあとに目を開けると見たことのない部屋にいた。
不思議に思って呆然としている間に男が名前を離し、牢屋の上に身体を打ち付け意識を取り戻す。
慌てて立ち上がり身構えるも、男は名前に目もくれず牢屋から降りる。
その日は白ひげと数回言葉を交わしたあと、部屋の照明を落として出て行った。


「名前」
「オヤジ殿…」


名前を呼ばれた名前は牢屋の上から顔を出し、伸ばされた手にしっかり掴まる。
海楼石で作られているため、鉄格子に触ると力が抜けてしまう。
できるだけ触れないようにして名前をそっと牢屋内にいれて膝の上に乗せた。
白ひげ用に作られたので、小柄な名前はいとも簡単に柵を通り抜けることができる。


「心配か?」
「だって…。強い動物達がいるって言ってました…」


あの男のおかげで幾分身体が楽になった。
だが、そのせいで自分は捕まってしまい、名前も連れて来られた。
あいつらにも迷惑をかけている。


「あいつらが死ぬとでも思ってんのか?」
「ううん。だけど心配、です…」
「グララ。名前はいつも心配してばっかだな」
「オヤジ殿の身体も心配です。もう大丈夫ですか?」
「ああ、癪だがあいつが持ってきたおかげでな」


安心したように口元に笑みを浮かべ、その日は白ひげの膝の上で静かに目を閉じた。
怖いはずなのに、白ひげの膝の上で寝ていると思えばその恐怖も薄まる。

翌日は太陽が昇るか昇らないかの時間帯に起こされた。
重たい瞼をこすりながら白ひげに「おはようございます」と挨拶する名前を、白ひげは頭を撫でて答えてあげた。


「さて、白ひげ。大事な息子達がよォく見えるかい?」
「…。ああ」


男は白ひげと数回会話したあと、機械に手を伸ばす。すると目の前に大画面の映像が写る。
映像には海王類に襲われている五人の姿が写り、それを見た名前はあっという間に眠気が飛び、それぞれの名前を呼んだ。


「お前にはそこでこいつらが殺されていくのを見ててもらうぜ」
「これぐらいで死ぬようなたまじゃねェよ」
「それはどうかな。ここに住む動物や昆虫達は強いからな」


笑ったあと、機械を再び触る。
今度はそれぞれの人物をアップにした映像が画面のすみのほうに写った。


「お前が死ぬのは大事な息子達が全員死んでからだ。ヒヒッ、楽しみだなァ」
「名前も殺すのか?」


白ひげの言葉に、男は息を詰まらせたがすぐに笑って、「ああ」と短く答えた。
その答えに名前は白ひげの飾り帯をキュッと握り、少し震える。
名前の背中を優しく撫でながら、男に再び口を開く。


「名前を見るテメェの目、俺らに向けるもんじゃねェのは解ってんだ」
「そりゃあお前の勘違いだよ、白ひげ。俺はこんなチビに興味がねェだけだ。何だったら今お前の目の前で殺してやろうか?」


すがっていた機械から離れ、腰に差していた小刀を取り出す。
コツコツと音を立てながら牢屋に近づく男に、名前はさらに白ひげに抱きついた。


「なーんてな。その中に入れば俺の能力も使えなくなるから止めとくよ」
「思ったより冷静じゃねェか」
「頭脳派でね。ま、安心しろよお嬢ちゃん。お前はまだ人質だ」


それだけ言うと、男は背中を向けて部屋から出て行った。
残された二人は画面に写った仲間達を見るだけしかできない。
それでも黙って見てるだけなんてできない名前は白ひげの膝から飛び降り、柵をすり抜け機械の元へ向かう。


「おい、無闇やたらに触んじゃねェぞ」
「はい。でも何かしないと…。俺だって皆と一緒に戦いたい!」


名前の真剣な眼差しに、白ひげは口元だけに笑みを浮かべる。


「(前まで泣き虫だったのに、いつの間にか成長してやがるじゃねェか…)名前、そんなに戦いたいか?」
「はいっ!」
「じゃあお前にできることをしろ」
「俺にできること?」
「機械のこと解るのか?」
「解りません…」
「じゃあ何ができる?」
「何が…」


白ひげに問いに、名前は顎に手を添える。
斜め下をジッと見つめ、ぶつぶつと独り言を呟く。


「あ、おいお前!」
「わっ!」


戻ってきた男の声に飛び上がり、急いで白ひげの膝へと逃げ戻った。
男も牢屋に近づき、名前を睨みつける。


「大人しくしてろ!じゃねェとテメェもあの動物の群れに落っことすぞ!」


男が画面を指差すと、マルコ達が恐竜の群れに追われているところだった。
マルコ達を追いかける恐竜に名前の肩が震えあがる。見ているだけでも十分怖いのに、あんなところに投げられたら……。


「俺は一度触れたもの、人間、動物を好きなように移動させることができる。もし次そこから出てみろ…。すぐに島に捨ててやるからな…!」
「おい、小僧…。ガキの扱い方も知らねェのか?」
「うるせェ。機械に触ろうとしたこいつが悪い」
「その機械になにかあるみてェだな」
「ッうるさい」


怒鳴ったあと持っていたフルーツ類を牢屋内に投げつけ、再び部屋から出て行った。


「…食べても大丈夫なんですかね?」
「ああ、大丈夫だろ。それでも食って元気出せ」
「……はい」


手に取ったリンゴを一口かじり、口の中で細かく潰す。
そのまま白ひげの顔を覗き見ると、黙って機械を見つめていた。
名前も一緒になって機械を見るが、全く解らない。
画面の中ではエースが火拳を放っているところだった。


「オヤジ殿!エースさんやりました!」
「ああ。だが…、今ので散り散りになりやがったな…」
「え?」


恐竜を倒したのはよかったが、そのせいで五人がはぐれてしまった。
マルコ達を信頼してはいるが、少し心配の白ひげはいい顔をしなかった。
それを見た名前は背負っていたエースのテンガロンハットを胸の前に持ってきてジッと見つめたあと抱きしめる。


「俺にできること…」
「どうした、名前。変なもんでも入ってたか?」
「オヤジ殿、俺にできることってなんですか?俺も何かしたいですッ」
「落ちつけ名前。今のお前にできることはもう「それでも!ここでジッとしてるよりいいです。オヤジ殿を早くここから出してあげたい…。皆と帰りたいです!」


一生懸命訴える名前を見て、白ひげは言葉を濁す。
この島は危険だ。この映像を見てそう思った。
名前が出て行ったってきっとすぐに食べられるだろう。この部屋にいるほうが安全だ。何よりあの男の能力がやっかいだ。
だけど、末っ子がようやく一人立ちしそうなところを親が「ダメだ」と潰してしまうのは惜しい。
数秒黙っていると、痺れを切らした名前が柵をすり抜けた。


「おい名前。何してんだ」
「俺、ここを探ってきます」
「バカなこと言ってねェでジッとしてな」
「大丈夫です、オヤジ殿!俺すばしっこいから捕まりません!」


テンガロンハットを深く被り、ニィ!と笑って見せてから部屋から走り出た。
いくら白ひげが名前を読んでも名前は止まらなかった。
何か自分にできないか考えながら、廊下を走りだす。
廊下には人の気配などなく、動物の気配もない。
息を切らせながら走り続けていると、すぐに建物の外へと出た。
外は少しだけ肌寒く、苦しい。息が思うようにできないのはここが山頂だから。
それでも身体に鞭を打って建物内に戻り、近くの部屋へと入る。


「……花?」


その部屋には一種類の花が大量に栽培されていた。
何故ここで育てられているのか解らないが、大切に育てられているのはなんとなく解った。
これが何か特別なものということも幼い脳ながら察することができる。
そのまま真っ直ぐ進むと一つの部屋があった。
誰もいないことを確認して、中の様子をこっそり探ると、色々な薬品や先ほどの花が散らばっていた。
ツンと鼻の奥を刺激する匂い。手で鼻を抑えながら部屋内を探ってみるが、理解のできない言葉や本ばかり。
しかし、一枚の写真が名前の目をひいた。


「狼?」


真っ白な狼がノートの端に張られていた。
マルコとの勉強の甲斐あって、少しだけ読むことができた。


「えっと、涙…で、万能薬…?…もしかしてこの狼の涙でオヤジ殿を治したのかな?あ、続きがある…。これは…不死?で、飲むと動物になって……えーっと…」


読むことに夢中になり、名前の後ろに影が忍び寄っていることに気がつかなかった。



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