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イルシオンガーデン

白ひげと名前が連れ去られ、夜が明けた。
夜に見知らぬ島に降りるのは危険だ。と変わらず冷静に判断を下すマルコに、渋々ながら仲間は従う。
しかし眠ることなんてできなかったマルコ達は早々に起床し、いつでも島に上陸できるよう準備を整えた。
太陽が地平線からのぞき、ジリジリと昇っていく。


「エース、準備はいいかい?」
「おう」


リュックの紐をギュッと締め、立ち上がるエース。
肩に背負い、準備を終わらせたマルコと向きあうと、マルコも真剣な目で黙って頷く。
二人してこれから向かう島…イルシオンガーデンを眺めると、まだ遠くだというのに獣の呻き声が耳に届いた。


「弱ったオヤジだけじゃなく、一番弱い名前まで連れて行くなんてな…」


島を睨んでいる二人に話かけたのはサッチ。
両腰に差した剣に手をかけ、いつもみたいにひょうきんに笑う。
それでもエースとマルコは表情を崩すことなく、島を睨み続けている。


「気持ちは解るけど、気負いすぎじゃないか?」
「そうだぞォ。オヤジも名前もきっと大丈夫だっつーの」


イゾウやハルタが声をかけても、「ああ」としかエースは答えない。
マルコは答える余裕すらなかった。
大事な船長を人質にとり、さらに名前まで連れて行かれた。
何もできなかった自分に憤りを感じ、喋ることなく拳を握りしめる。


「マルコ隊長」
「マルコは今ダメだから俺が代わりに聞くよ。どうかしたのか?」


イゾウがマルコの代わりに隊員の報告を聞く。
どうやら、モビー・ディック号ではこれ以上島に近づけないらしい。
サンゴ礁が邪魔をして、無理して進むと竜骨や船底を痛めるとのこと。
隊員の報告を聞いて、イゾウは困ったように「どうしようかねェ」と言葉をもらす。
するとマルコがイゾウを押しのけ、隊員に小舟を出すよう告げる。


「全員で行けねェなら、俺一人で行く」
「俺も行くぜ。マルコだけだと心配だからな」
「オヤジと名前ちゃんを助けたいのは俺らもだよ。船の準備頼むよ」
「解りました」
「俺一人でも大丈夫だよい」
「まァそう言ってやんなよ」
「俺も助けてェしなー!」


にしし!と笑うサッチとハルタに、「そうかい」と素っ気なく答えその場をあとにした。


「おいおい、大丈夫かよ…」
「サッチはいつもと変わんねェな。オヤジと名前が心配じゃねェのか?」
「心配するだけ無駄だろ。なんたってオヤジだぞ?オヤジの傍にいる名前もきっと大丈夫だ」
「俺もそう思うぞー!」
「ハルタ。お前も行くなら準備しな」
「あ、剣忘れてたー!」
「ったく…。サッチとエースは準備できてるみてェだから、先に行っててくれるか?」
「なに?イゾウさんも行くのか?」
「あったり前ェだろ?あいつの眉間に銃弾食らわせてやる」
「「そうですか…」」


黒いものを背負ったイゾウに、エースとサッチは乾いた笑いをすることしかできなかった。
すでに準備ができていた三人もマルコのあとを追い、船の準備を大人しく待つ。
船の準備もすぐにでき、マルコ、エース、サッチと順々に乗っていくのを他の隊長達は大人しく見守っていた。
他の隊員達や隊長達はモビー・ディック号でお留守番。
誰もが白ひげを助けに行きたいと志願したのだが、大勢で行っては行動しにくい。
未知なる島では少数で行動するほうが何かと動きやすい。
マルコの言葉に、全員が渋々納得。


「じゃあ、行ってくるよい」
「マルコ隊長!オヤジと名前を頼みますよ!」
「エース隊長、頼むから迷子にならないで下さいねっ」
「サッチ隊長は死なないよう気をつけて下さい!」
「イゾウ隊長ー。その銃は敵に発砲して下さいねー。味方に発砲するのは禁止ですよー」
「ハルタ隊長、お願いですから遊ばないで下さい。今回だけは真面目に!」


一人を除き、「死ぬ」ということは誰一人思っていない隊員達。
賑やかに見送られ、エースが船を漕ぎ進める。
いくら離れても「気をつけて!」「何かあったらすぐ助けに行きます!」などの声が止まない。


「サッチ、死ぬなよ」
「死ぬなよー」
「うるせェよ!」


エースとハルタにからかわれながら島へ進んでいくと、問題のサンゴ礁が海面下にうつった。
海の透明度は高く、手を伸ばせばサンゴ礁に届きそうなほどだった。
しかし、そのサンゴ礁を過ぎてから不穏な空気が漂い始める。


「何だろうね、この空気…」
「やけにピリピリしてんな…」


イゾウとサッチが空を仰いでも、先ほどと何一つ変わっていない。
太陽の光がさんさんと海を照らし、海面がキラキラと光っている。
「綺麗な海だ」とは思うけど、晴れやかな気分にはなれない。
それでも船を漕ぎ続けていると、ハルタが突然「下ァ!」と叫んだ。
ハルタの言葉にサッチもオールを手に持ち、エースと一緒に漕ぎ始める。
スピードがあがった小舟の後ろから海王類が姿を現した。


「見たことねェ海王類だな…」
「イゾー、関心してる場合じゃねェって!こいつ襲ってきやがる!」


ハルタは剣を握り、船を食べようと口を大きく開いた海王類に向かって飛びかかった。
そのまま自ら海王類に食べられたが、それはわざとで体内から海王類を斬りつける。
飛びかかった態勢と変わらないハルタだったが、剣だけは鞘に戻している。
まだ残っている海王類の身体の一部に着地し、小舟に向かって高く跳躍する。
ハルタが船に降り立つと船は左右に揺れ、ふっと息をつく。


「おかしいな…」
「何だよマルコー。俺がダメだったって言いてェのかー?」
「違うって。あの海皇類は大人しくて有名なはず。積極的に襲うことなんて…」


マルコとイゾウが疑問に思っている間も、たくさんの海王類に襲われた。
エースとサッチが船を漕ぎ、イゾウとハルタが撃退する。
マルコも加勢をしたが、島に近づくにつれ、気分が悪くなって変身することすらできなくなってしまった。


「いらねェ体力使っちまったな…」
「そうか?」
「この体力バカが…」


それでもようやく島に到着することができた五人。
サッチとエースが船を砂丘にあげ、流されないよう適当な木にロープを巻きつける。
その横でマルコが不死鳥に変身しようと青い炎を出すも、すぐに解かれてしまう。


「どうしちまったんだマルコ」
「俺も解んねェ…。不死鳥になると鼻の奥が痛くなって、この場から離れたくなる」
「何かあんのかねェ…」


頭をかきながら、男がいるであろう秋島を見上げた。
あそこまで行くのに何日かかることか…。それまでにオヤジは大丈夫なんだろうか。名前ちゃんは泣かないだろうか。
そう思うと居ても経っていれなくなり、すぐに砂丘から続く森へと入りたくなった。が、


「イゾー!見てくれイゾー!」


目をキラキラさせたハルタによって止められてしまった。
ハルタの手には一つの丸い貝殻。
その貝殻をイゾウに見せつける。


「ハルタ…。遊びに来てんじゃねェぞ…。テメェんとこの隊員にも「貝なのに墨吐くんだぜー!」


その言葉通り、貝殻からタコみたいな宿主が出てきてイゾウの顔面に向かって墨を吐き出した。
「な!?」と喜ぶハルタ。それを見ていたマルコ、サッチ、エースは「あ」と焦りに似た言葉をもらした。


「だからッ…!遊びに来てんじゃねェって言ってんだろうが!」
「うおっ!?な、なんで怒ってんだイゾー!?珍しいだろー?」
「こんなもん珍しくねェよ!そんなに珍しいもんが見たけりゃあ、マルコに歯向かう名前ちゃんでも見つけてこい!」
「無茶だってェ!」


銃を片手にハルタを追いかけるイゾウの横で、マルコが「そんな名前は名前じゃない」と呟いたのをエースとサッチがしっかり聞いていた。


「待ちやがれハルタ!今日という今日は絶対に仕留めてやる!」
「イゾー!そんなことよりオヤジと名前を助けに行こうぜー!?」
「元はと言えばテメェがケンカ売ったからだろうが!」


怒りが収まらないイゾウがハルタと一緒に森に入って行った。
砂丘に残された三人も二人を追って森に入ろうと持ってきた荷物を背負った瞬間、その横を凄いスピードで走って行く二人が目に入った。


「おいイゾウさん、ハルタくん。どうかしたのか?」
「サッチー、後ろ後ろー!」
「後ろー?」


ハルタの声に三人が後ろを振り向くと、一匹の動物がいた。否、動物ではなく恐竜がいた。
一瞬にして言葉を失った三人に向かって恐竜は雄たけびを一つ。
意識を飛ばしていたのか、雄たけびを聞いた三人はイゾウとハルタを追いかけ始める。勿論、恐竜も五人を追いかける。


「おいテメェらちょっと食われてこい!」
「食われてたまるかよい!連れて来たのはイゾウとハルタだろい!わざわざこっちに連れて来んじゃねェよい!」
「俺を守るためだ。だからサッチ、食われてこい!」
「ふざけんな!ハルタァ!テメェが食われてこい!今さっきだって食われたし慣れてるだろ!?」
「イヤに決まってんだろー!丸飲みなら平気だけど、あいつ牙あるから無理だっつーの!エース食われてこーい!ロギアだし平気だろー!?」
「そういう問題じゃねェだろうが!食われる。ってことがイヤなんだよ!俺だって怖ェ!」


言い争いながらも噛みついてくる恐竜から避け続ける五人組。
このまま砂丘を走っていても逃げ切れないと判断したマルコが森へ入り、隠れながら振り切るよう指示を出し、五人揃って森へ入るも、


「マルコのバカ野郎!何でわざわざ恐竜の群れに突撃すんだよ!」
「群れがあるなんて知るわけねェだろ!」


恐竜の群れと遭遇してしまったのだった。
たくさんの恐竜に追われ、攻撃を避け、とうとう体力の限界がきたエースが足を止めて拳を脇で握りしめる。


「あんま攻撃したくねェんだけど、しょうがねェよな…。火拳!」


握った拳を恐竜に突きつければ、炎の拳が群れに襲いかかる。
威力は凄まじく、恐竜だけではなく森も燃やしつくしてしまった。
海までの一本道ができあがり、エースはマルコにどやされると苦笑いを浮かべながら後ろを振り返るも、そこには誰一人いない。


「……ありゃ?」


鬱蒼と生え茂る木々だけが広がっているのだった。



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