25万打部屋 | ナノ

私とマルコさんの約束事

マルコさんと私の間にはいくつかのルール、約束があった。
とは言っても、どこの夫婦にもあるような別に表立って言うことではない約束。
でも、その約束の中に一つだけ、イヤなものがある。


「名前ー、飯食いに行こうぜ」
「ちょっとエースくん。まだ仕事終わってないよ」
「んなのあとからあとから!」
「もー…あ、サボくん、エースくんになんとか言ってよー!」
「無駄だよ。それより名前、今日は弁当じゃねェの?」
「マルコさんがいらないって言うから私のも作らなかったの。それに久しぶりに贅沢したくなって」


普段はマルコさんと自分のお弁当を作るんだけど、今日はマルコさんが朝早くに出ることになっていたため、作る私のことを思って「いらない」と言ってくれた。
そんな優しいマルコさんに惚れ直しつつ、私も手を抜いてお弁当を作らなかった。
久しぶりに会社の食堂へエースくんとサボくんと向かい、他の社員の人と一緒に列に並んで食券を買う。


「エースくん…それは食べ過ぎじゃない?」
「昼から営業に回るからな!栄養つけとかねェと!」
「サボくんはお弁当あるのに並ぶんだ」
「まァちょっとね」


食券を三枚持ったエースくんと、お弁当を持っているのに食券を買わずトレイを持つサボくん。
私は何にしようかなー…。贅沢したいけど、あんまりお金は使いたくないし。でもAランチ食べたい…!


「名前ー、早くしろよ!」
「あ、ちょっと待って!」


欲に勝てず、自分の好きなものを買って、急いでエースくんの後ろに並ぶ。
私の後ろにはサボくんが並び、順番を来るのを適当な会話をしながら待っていた。


「あら、サボくんじゃないの。食堂に来るなんて珍しいわねェ」
「こんにちは、お姉さん」
「やだよ、お姉さんだなんて。こんなババァつかまえてさ」
「いやいや、僕から見たらまだお若いですよ」
「ぼ、僕ゥ!?」


自分達の順番になると、厨房にいたおばちゃんがサボくんを見るなり嬉しそうな顔をして近づいてきた。
最初は「知り合いかな?」って思って黙って見ていたが、サボくんの「僕」発言に驚いた。
…な、何そのキャラ?
営業じゃないのに爽やか笑顔と丁寧な言葉でおばちゃんと会話するサボくんを見ながらエースくんの服を引っ張る。


「エースくん、サボくんが壊れた…!」
「ああ、気にすんな。あれサボの裏技なんだよ。おばちゃん大盛り頼む!」
「またかい。よく食べる子だねェ!」
「育ち盛りなんだよ!」
「う、裏技?」


食券を出しながらエースくんからサボくんの裏技について教えてもらった。
元々おばさん受けがいいサボくんはあれを利用して色んなものを貰っているらしい。
あれのおかげで学生時代は商店街のおばちゃん達に色々サービスしてもらったんだって。


「俺もルフィも大助かりだったよ」


ニシシ!と笑って渡された昼食をトレイに乗せ、空いてる席を探し始める。
私はもう少し時間がかかりそう…。
チラリとサボくんを見るとおばちゃんと話が弾んでいるようで、「よかったらこれ食べて」と牛丼を貰っていた。
裏技、恐るべし…!


「いつもありがとうございます」
「また困ったらいつでもおいで。いくらでもサービスしちゃうから」
「はい」
「………サボくん、よく使うの?」
「ん?」
「その裏技」
「んー……さあ?」


誤魔化すように笑って、エースくんが待つほうへと向かう。
その途中、何かを感じてそっちのほうを向くと、なんとマルコさんが食堂にいるではないか!
サッチさんとイゾウさんと一緒にご飯を食べながら談笑をしているみたいで、あまり見れないマルコさんの笑顔が見れた!


「名前?」
「マルコさんだ!マルコさんがいる!」
「あ、本当だ。珍しいね」


トレイに乗せたご飯をこぼさないように、マルコさんの隣に行こうかと思ったら、マルコさんは私に気がついて笑うのを止めた。
そのマルコさんに気がついたサッチさんとイゾウさんは私のほうへ向き、軽く手を振る。
サボくんと一緒に二人に向かって会釈をし、マルコさんにはとびっきりの笑顔を向ける。
それなのにマルコさんは無視をしてご飯を食べるのに戻った。
サッチさんが何か言ってたけど、マルコさんはそれっきり私を見ようとはしない。

これが私とマルコさんの約束。
会社で会ったら他人のフリをすること。
別に私のことが嫌いとかそんなんじゃない。(うん、絶対)
でも公私混同になりそうだからってマルコさんはこの約束を作った。

会社で目を合わそうとしないのは今までも体験してきたけど、やっぱり寂しい…。
落ち込む私にサボくんは笑って「気にするなよ」と背中を押してエースくんの元へと向かった。


「マルコは頭固ェからな。気にすんな!」
「解ってるよ…。だけど寂しい!」


だってマルコさんと一緒にご飯食べたり、アーンとかしてあげたいのに!


「そんなことマルコが許すと思うか?」
「……マルコさあああん!」
「名前、迷惑だから静かに食べようよ」


食堂のおばちゃんから貰った牛丼を食べ終わり、お嫁さんに作ってもらったお弁当に手をつける。
横ではおかわりをしに行ったエースくんが机に突っ伏して寝始める。
兄弟だっていうのにこうも育ちが違ってくるものなのかな。そんなことを考えながらマルコさんを盗み見る。


「マルコさん素敵ッ!」


ご飯を食べる姿さえ格好いい!やっぱり私も一緒にご飯食べたいなー…。
夜と朝だけなんて寂しい!お昼も一緒にいたい。というかずっと一緒にいたい!
それにあからさまな無視なんて寂しすぎるよ。あんな露骨に避けられるとさすがに傷つく…。
……もしかして私のことウザいって思ってるのかな…。……ま、まあ思い当たる節はあるけど…。
どうしよう。呆れられて捨てられたら…!離婚とかなったら私きっと生きていけない!マルコさんがいないと生きる意味がない!


「ほらエース、起きろって。顔綺麗にしねェと上司に怒られるぞ」
「あー…寝てた…」
「いつもな」
「おー、名前。お前飯食わねェのか?貰っていいか?」
「お前どんだけ食うんだよ」
「う、うん…。私食欲ないからいいよ…」
「マジか!」
「名前、大丈夫?顔が青いぞ?」
「サボくん、私マルコさんに嫌われたのかな…」
「……。今さっきのことなら気にしないでいいと思うよ。マルコさんいつもあんな感じだろ」
「そうだけど…。もしかしたらってあるじゃん」
「名前よりいい女見つけたのかもなー!」
「エース!」
「ぐえっ!」


……そ、そうだ…。マルコさんは格好いいんだからモテないはずがない!
私が見てないところでどこぞの女に誘惑されていてもおかしくない!
うわああん!そんなのヤダー!マルコさんは私の旦那様だ!誰にもあげない!


「おいマルコ。お前の嫁さん泣いてんぞ」
「……ああ、いつものことだからほっとけ」
「マルコも酷い男だねェ。もっと構ってあげればいいのに」
「イゾウんとこの嫁ほど大人じゃねェんだよい」
「俺の子に手ェだしたら殺すぞ」
「誰もそこまで言ってねェだろい。ほら、食ったんだからさっさと戻るぞ」
「ちょ、俺まだ食ってねェし!」


結局その日の午後からは半分死人のように過ごし、気がついたら帰宅時間。
重たい足取りで会社をあとにし、買い物をすませ、家へと到着。
静かな家は沈む私の心をキュッと締めつける。
どうしよう、マルコさん帰ってくるかな…。
不安が募り、買い物袋を玄関に置き、その場に座りこんでマルコさんの帰りを待つ。
今日は早く出たからいつもより早く帰ってくるって言ってた。そろそろだと思う。


「……遅い…」


カチカチと時計の秒針が響く。
何秒が何分と感じ、何分が何時間と感じながらただ静かに待っていた。
すると遠くから靴音が聞こえ、どんどん近づいてくる。きっとマルコさんだ!


「ただ「マルコさん!」


予想通りマルコさんだった!
玄関が開いた瞬間マルコさんに飛び付き、何度も「おかえりなさい」と迎える。
マルコさんは驚いているのか少しの間何も喋らなかったけど、すぐに「降りろい」と私を引き離す。


「いきなり何すんだい」
「マルコさんが帰ってきて嬉しかったんです!」
「おまっ……まァいい。それよりずっとここで待ってたのかい?」
「はいッ!」
「……ハァ…」


ああ、溜息を吐く姿さえ絵になる!
頭を抱えながら靴を脱ぎ、買い物袋を持って部屋へあがる。
私はルンルン気分でその後ろをついていき、キッチンに立つマルコさんの横に並ぶ。


「何してんだい」
「マルコさん好きです!」
「それより買ったもんはすぐにおさめろよい」
「マルコさんが家に帰ってきてくれて本当に嬉しいんです!」
「真夏じゃねェからいいが…」
「マルコさん好きー!大好きーッ!」
「…」


荷物を手早く冷蔵庫に片付け、ネクタイを緩めながらソファへ向かう。
いつもなら「うるせェよい」って言うのに今日は何も言わない。
不思議に思ってると名前を呼ばれた。
ソファに座って、自分の太ももを叩きながら、


「ほらおいで」


と少しの笑顔を私に向ける。


「ッマルコさーん!」


掛け声とともにマルコさんに抱きつき、膝の上に座ってマルコさんに存分に甘える。
ああ、マルコさんだ!マルコさんの匂いだ!マルコさん大好き!


「マルコさん好き好き!愛してます!」
「解ったから少しは落ちつけよい」
「お昼無視されたときはこの世の終わりかと思いました!うー、マルコさんの胸たまんない!」
「変態かよい。お前の世界は狭ェな」
「私の世界にはマルコさんしかいませんから!」


頬を擦り寄せながらそう言うと、また溜息を吐いたけど、これは呆れて吐いた溜息じゃない。
ニコッと笑ってマルコさんを見上げると、「しょうがねェなァ」と言った顔で苦笑いを浮かべ、


「そうかい」


私を抱きしめてくれた。







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