25万打部屋 | ナノ

いつでも前向きに

「でね、エースくんってばまたキーボードに頭突っ込んで寝ちゃったんですよ」
「あいつも懲りねェなァ」
「部長に怒られても起きないんです。営業は凄いのにね…」
「同じ兄弟でもえらい違いだな」
「サボくんは天才です!」


外食をすませ、名前がショッピングをしたいと言うので仕事の愚痴や仲間の話をしながら街を歩いていた。
とは言っても、ほとんど名前が喋っているだけで、マルコが喋ることはあまりない。
愚痴を名前に聞かせたくないだけかもしれないが、名前が楽しそうに喋る姿は嫌いではないらしい。


「すみません」


マルコにぺったりくっついていた名前を呼び止めたのは一人の女性。
女性の手にはバインダーとボールペンが握られており嫌な予感がしたのと、せっかくのデート中を邪魔してほしくない名前は頭を下げて再び歩き出す。
マルコも面倒臭そうだったが、女性は二人の前を立ち塞いで二人の足を再び止めた。


「簡単なアンケートなんでお願いします」
「すみません。少し急いでるので」
「すぐ終わりますから。二人は仲のいい親子のようですが、」


拒否をしているのに勝手に喋り出す女性に不快になったが、それより気になる台詞が名前の耳に残った。


「親子?」
「はい。実は娘と父親の関係性について「私達夫婦です!」


「親子」という言葉に腹を立てた名前は女性を睨んでマルコの腕を強く抱きしめる。


「失礼ですよ!マルコさん、行こっ!」


今度は「夫婦」という言葉に驚く女性を無視して、足早にその場をあとにした。


「酷いです、親子だなんて…」
「名前」


俯き加減で歩く名前と、あまり気にしてないのか、いつもと変わらないマルコ。
元々怒る沸点が低いせいか、とにかく名前みたいに露骨に傷ついた顔はしてない。が、いい気分ではない。


「……きっと私が幼いからです…。いくらスーツ着ても子供っぽいオーラが出てるんだ…!」


うっすら涙が浮かんでいたが、マルコにバレないよう拭って(勿論マルコは見ていた)、笑顔でマルコを見上げる。


「私、もっと頑張っていい妻になりますね!」


名前が頑張っているのは知っている。
子供っぽい自分をなくそうと色んな本を読んだり、色んなことを知ろうとしている。
頑張って自分に追い付こうとしているけど、その間の年齢だけは埋めることはできない。
だからと言って年齢のせいにして「お前はそのままでいいよい」なんて軽い言葉をかけて慰めたくない。


「…ああ、頑張っていい女になれよい」
「うん、頑張る!」


だからきっとこっちのほうがいい。
口元に笑みを浮かべて、珍しくマルコから名前の手を握ってあげると、腹が立っていたのも忘れて嬉しそうな顔をマルコに向ける。


「マルコさん見てて下さい。いつか絶対に「結婚してよかった」って言わせてみせますから!」
「ちゃんと思ってるよい」
「言ってくれないと意味ないですよー!」
「じゃあ名前がいい女になったときに言ってやる」
「はいッ!」







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