それは禁句です 身なりを整え、鏡で何度も確認した。うん、バッチリ。 夜は寒くなると思うから、そのための上着を手に持って、ソファに座って本を読んでいるマルコさんの横に立つ。 「じゃあ…、行ってきます」 「ゆっくり楽しんでこい」 今日は高校の時の同窓会。 本当は行くつもりなんてなかった。 いや、友達と会えるのは嬉しいんだけど、せっかくの連休なんだし、マルコさんとイチャイチャしたいんだもん。 断りのメールを送ろうとしたら、マルコさんに「行ってこい」と言われ、行くことになった。 きっとマルコさんは気を利かせて言ってくれたんだと思う。仕事は忘れて遊んでこい的な意味で。 でもそんな…、こんなアッサリ見送らなくてもいいじゃん! 「本当にいいんですか?」 「久しぶりの友人なんだろい?ならゆっくりしてくればいいさ」 「そうじゃなくて…。止めないんですか?」 「止めてほしいのかい?」 「止めてくれるんですか!?」 「行ってこい」 笑って片手を振るマルコさん。 その姿さえ絵になる、ダメ、好き!……じゃなくて! 「もう!久しぶりに会った友達に告白されて、その友達がイケメンで金持ちで、「あ、ちょっといいかも」って浮気してもいいんですね!」 「車に気をつけてな。それと酒は飲みすぎんなよい」 「マルコさんのバカッー!九時までには帰ってきます!」 涙を呑んで家を飛び出した。 もー…何でマルコさんは素っ気ないんだろう。私のこと心配してないのかな? あ、解った。私のこと信用してるんだ!だからあんなに余裕なのか…。うおおお、私ってば愛されてるッ。 そう思ったら気分も晴れあがり、同窓会が行われる居酒屋へと足取り軽く向かった。 「あ、もしかして名前?」 「久しぶりー!」 「えっ、ちょ、なんか可愛くなってない!?」 「綺麗になったって言ってよ」 「それはない」 「ちょっと!」 待ち合わせ時間の十分前に到着し、今回幹事をしている友達と久しぶりの再会を果たした。 やっぱり会うと来てよかった。って思う。 今回参加するメンバーはもうほとんど集まっていて、皆顔つきが変わっていた。うん、大人って感じ! 「全員揃ったかな?じゃあ中に入ろうか」 居酒屋に入り、中を案内される。 何十人もいるのでそれなりに広い座敷へと案内され、友達と一緒にあがる。 友達は幹事だから出入り口の近くに座り、色々仕切っている。 私も手伝いながら、とりあえずお酒を注文し、クラスの中心だった男の友達が面白い挨拶をして、皆で乾杯! 「皆変わったけど、中は変わってないね!」 「名前もね。どう、結婚生活は。相変わらず?」 「うん、すっごい楽しいよ!幸せ!」 「あんたも一年のときから変わってないね」 昔の話や、仕事の愚痴で同窓会は盛りあがった。 中には結婚して、もう子供を産んだ友達もいた。これにはちょっと驚いたなー…。 その友達から惚気を聞いて、逆に惚気話をしたり、夜のことも教えてもらった。 「悪い、遅くなった!」 「おっそーい!」 賑わっていると、息を切らしながらスーツの男の人が入ってきた。 あ、もしかして。 「おお、名前じゃん。なんか変わったな!」 「そういう自分こそ!社長してるって聞いたけど本当?」 「まァな!」 ネクタイを緩めながら私の隣に座るのは、一年のときから仲良しの男友達。 なんかパソコンが得意で、ネットで企業を興したらしい。私にはよく解んないけど、この若さで社長をしてるんだって。 「お前はまだ離婚してねェの?」 「するわけないじゃん!マルコさん一筋だよ!」 「ふーん。あ、それよりさ」 今までは幹事をしている友達と喋っていたけど、その子が酔っぱらいの世話をしたり、料理を配ったりで忙しいからこの人と話していた。 手伝おうとするんだけど、なんか…逃げれない? 最初からいる私はもうそれなりにお酒を飲んでたけど、この人は今来たばかりで、強めのお酒を頼んでハイペースで飲んでいく。お酒が好きなんだって。 「ほら、名前も飲めよ!」 「私はもういいよ。あ、これ食べる?」 「おー!」 渡されるお酒を丁寧に断りつつ、おつまみを渡す。 そのとき、腕が当たってお酒が机にこぼれてしまった。 慌てて布巾で拭いていると、チャリンと音をたてて首から指輪が落ちた! 「ああああ!」 「なんだこれ?」 コロコロと彼の元へと転がり、彼がそれを拾って私の顔と指輪を交互に見た。 よかった、お酒の中に落ちたらどうしようかと思った。 「留めがゆるんだんだ…」 「名前、これなんの指輪だ?結婚指輪かなんかか?」 「うん。マルコさんから貰った結婚指輪だよ!」 手を出して返してと催促すると、彼は不機嫌そうな顔で指輪を握りしめた。 ど、どうしたんだろう…。今さっきまで機嫌よかったのに…。 「お前あいつと別れろよ」 「何言ってんの?悪い冗談言ってないで早く返して」 「どうせ遊びに決まってんだろ。そいつと何歳離れてんだよ。おっさんじゃん」 「ちょっと!私のことはいいけど、マルコさんの悪口は止めて!」 「エリートっつーならもっとすっげェもん貰えよ。どうせ安もんの指輪だろ」 「やめっ…!返して!」 指輪を返してくれない友達に、無理やり取り返そうと立ち上がると、クラリと頭が揺らいだ。 う、思っていたよりお酒が回ってるし…。 「何でこんなこと…。返さないと殴るよ!」 「殴ってもいい。いいから離婚してくれ」 「ハァ?」 「俺、お前がずっと好きだったんだぞ…」 「……へっ!?」 ここへきてとんでもない告白をされてしまった。 お酒と告白で真っ赤になっていく顔。 だ、だけど指輪は返してほしい。マルコさんから貰った大切な結婚指輪なんだ。 「あ、ありがとう…。でも私結婚してるし…」 「だから!そいつとは別れろって言ってんだろ!」 「やだ、無理」 「ッ!こんな指輪ッ…!」 「あッ!」 怒って壁に投げつけようとする彼。 声を出しても、腕を伸ばしても間に合いそうにない。 止めて!その指輪は、その指輪だけは! 「っと…」 「あ…?」 「…ま、マルコさん?」 その場には不釣り合いな人が現れ、その人、マルコさんは友達の手首を掴んで投げつけるのを阻止した。 な、何でマルコさんがここに…? 「ごめんな坊主。それは俺からやった名前の結婚指輪なんだ。乱暴に扱ってくれるな」 「お前…!」 「マルコさん!なんでここに?!」 「九時になっても帰ってこねェから迎えに来たんだい。来たらこれでビックリしたけどな」 そう言うマルコさんだけど、表情はいつもと変わらない。 掴んだ手首を軽く捻って、友達が指輪を落とした。それをマルコさんが拾って、解放する。 回りにいる友達もマルコさんに気づいて集まってきた。…半分遊び感覚で私達をみているのが腹立たしい。 「あ、名前の旦那さんじゃん」 「ああ悪いな、邪魔するよい」 「いーの、いーの。名前を迎えに来たんですか?」 「まァな。時間も守れないどうしようもねェ奴だからな」 「ちょっとマルコさん!確かに時間過ぎ……え、もう十一時?!」 「あんた気づいてなかったの?それで遅くまでいたんだ…」 「うわわ、ちょっと待って!すぐ帰る準備します!」 まさかこんなに時間が過ぎてるなんて…! 荷物をまとめ、一度男友達を見る。 確かにこの人のことは好きだけど、離婚しろなんて言ってほしくなかったな…。 「名前」 「あ、はい!」 名前を呼ばれて立ち上がろうとしたら、また今さっきみたいに頭が揺らいで、立つことができなかった。 け、結構足にきてる…。 「だから飲みすぎるなって言ったろい」 「だって…」 「言い訳するな。ほら、立てるかい?」 「…無理。抱っこ」 「……」 「抱っこして下さい」 「はいはい…」 しょうがなく私を抱き上げて、置いてあった荷物と上着と靴を持ってくれた。 あー、やっぱりマルコさん好きだ!格好いい! 「ありゃあ勝てないね。旦那さん余裕だし、男前でしょ」 「…絶対ェ諦めねェし!」 「まあ頑張りたまえ。じゃあね名前!またメールするー!」 「ばいばーい!」 「元気なら降りろよい」 「やだー」 お店の前に停めていた車の助手席に座らせてもらい、手を握られる。 あれ、車出さないのかな? 「もう落とすんじゃねェぞ」 「あ…」 取り返してくれた指輪をはめてくれた。 やっぱり大きくてすぐ落としそうになるけど、……幸せだなぁ。 「それともいらねェのかい?」 「ううん、いる!」 「……ピッタリの指輪買ってやるって言ってんだろい」 「これがいいの。恥ずかしがりながら買ってくれたマルコさんが目に浮かぶし!」 「テメェ…」 「マルコさん普段格好いいのに時々可愛いから好きー!」 そのままキスをして離れると、足を掴まれちゃんと助手席に座らされた。 マルコさんの顔をちゃんと見ることができないまま、運転席に回り、すぐにエンジンをかける。 「うわっ!ま、まだシートベルトして「名前」 シートベルトをする手をギュッと掴むマルコさん。 ゆっくり顔を見上げると、それはそれは極悪そうな顔で運転しているではないですか…! 「覚悟しろい」 「ええええ!?」 明日もお休みでよかったと心の底から思いました。 ( ← | → ) ▽ topへ |