25万打部屋 | ナノ

それは禁句です

身なりを整え、鏡で何度も確認した。うん、バッチリ。
夜は寒くなると思うから、そのための上着を手に持って、ソファに座って本を読んでいるマルコさんの横に立つ。


「じゃあ…、行ってきます」
「ゆっくり楽しんでこい」


今日は高校の時の同窓会。
本当は行くつもりなんてなかった。
いや、友達と会えるのは嬉しいんだけど、せっかくの連休なんだし、マルコさんとイチャイチャしたいんだもん。
断りのメールを送ろうとしたら、マルコさんに「行ってこい」と言われ、行くことになった。
きっとマルコさんは気を利かせて言ってくれたんだと思う。仕事は忘れて遊んでこい的な意味で。
でもそんな…、こんなアッサリ見送らなくてもいいじゃん!


「本当にいいんですか?」
「久しぶりの友人なんだろい?ならゆっくりしてくればいいさ」
「そうじゃなくて…。止めないんですか?」
「止めてほしいのかい?」
「止めてくれるんですか!?」
「行ってこい」


笑って片手を振るマルコさん。
その姿さえ絵になる、ダメ、好き!……じゃなくて!


「もう!久しぶりに会った友達に告白されて、その友達がイケメンで金持ちで、「あ、ちょっといいかも」って浮気してもいいんですね!」
「車に気をつけてな。それと酒は飲みすぎんなよい」
「マルコさんのバカッー!九時までには帰ってきます!」


涙を呑んで家を飛び出した。
もー…何でマルコさんは素っ気ないんだろう。私のこと心配してないのかな?
あ、解った。私のこと信用してるんだ!だからあんなに余裕なのか…。うおおお、私ってば愛されてるッ。
そう思ったら気分も晴れあがり、同窓会が行われる居酒屋へと足取り軽く向かった。





「あ、もしかして名前?」
「久しぶりー!」
「えっ、ちょ、なんか可愛くなってない!?」
「綺麗になったって言ってよ」
「それはない」
「ちょっと!」


待ち合わせ時間の十分前に到着し、今回幹事をしている友達と久しぶりの再会を果たした。
やっぱり会うと来てよかった。って思う。
今回参加するメンバーはもうほとんど集まっていて、皆顔つきが変わっていた。うん、大人って感じ!


「全員揃ったかな?じゃあ中に入ろうか」


居酒屋に入り、中を案内される。
何十人もいるのでそれなりに広い座敷へと案内され、友達と一緒にあがる。
友達は幹事だから出入り口の近くに座り、色々仕切っている。
私も手伝いながら、とりあえずお酒を注文し、クラスの中心だった男の友達が面白い挨拶をして、皆で乾杯!


「皆変わったけど、中は変わってないね!」
「名前もね。どう、結婚生活は。相変わらず?」
「うん、すっごい楽しいよ!幸せ!」
「あんたも一年のときから変わってないね」


昔の話や、仕事の愚痴で同窓会は盛りあがった。
中には結婚して、もう子供を産んだ友達もいた。これにはちょっと驚いたなー…。
その友達から惚気を聞いて、逆に惚気話をしたり、夜のことも教えてもらった。


「悪い、遅くなった!」
「おっそーい!」


賑わっていると、息を切らしながらスーツの男の人が入ってきた。
あ、もしかして。


「おお、名前じゃん。なんか変わったな!」
「そういう自分こそ!社長してるって聞いたけど本当?」
「まァな!」


ネクタイを緩めながら私の隣に座るのは、一年のときから仲良しの男友達。
なんかパソコンが得意で、ネットで企業を興したらしい。私にはよく解んないけど、この若さで社長をしてるんだって。


「お前はまだ離婚してねェの?」
「するわけないじゃん!マルコさん一筋だよ!」
「ふーん。あ、それよりさ」


今までは幹事をしている友達と喋っていたけど、その子が酔っぱらいの世話をしたり、料理を配ったりで忙しいからこの人と話していた。
手伝おうとするんだけど、なんか…逃げれない?
最初からいる私はもうそれなりにお酒を飲んでたけど、この人は今来たばかりで、強めのお酒を頼んでハイペースで飲んでいく。お酒が好きなんだって。


「ほら、名前も飲めよ!」
「私はもういいよ。あ、これ食べる?」
「おー!」


渡されるお酒を丁寧に断りつつ、おつまみを渡す。
そのとき、腕が当たってお酒が机にこぼれてしまった。
慌てて布巾で拭いていると、チャリンと音をたてて首から指輪が落ちた!


「ああああ!」
「なんだこれ?」


コロコロと彼の元へと転がり、彼がそれを拾って私の顔と指輪を交互に見た。
よかった、お酒の中に落ちたらどうしようかと思った。


「留めがゆるんだんだ…」
「名前、これなんの指輪だ?結婚指輪かなんかか?」
「うん。マルコさんから貰った結婚指輪だよ!」


手を出して返してと催促すると、彼は不機嫌そうな顔で指輪を握りしめた。
ど、どうしたんだろう…。今さっきまで機嫌よかったのに…。


「お前あいつと別れろよ」
「何言ってんの?悪い冗談言ってないで早く返して」
「どうせ遊びに決まってんだろ。そいつと何歳離れてんだよ。おっさんじゃん」
「ちょっと!私のことはいいけど、マルコさんの悪口は止めて!」
「エリートっつーならもっとすっげェもん貰えよ。どうせ安もんの指輪だろ」
「やめっ…!返して!」


指輪を返してくれない友達に、無理やり取り返そうと立ち上がると、クラリと頭が揺らいだ。
う、思っていたよりお酒が回ってるし…。


「何でこんなこと…。返さないと殴るよ!」
「殴ってもいい。いいから離婚してくれ」
「ハァ?」
「俺、お前がずっと好きだったんだぞ…」
「……へっ!?」


ここへきてとんでもない告白をされてしまった。
お酒と告白で真っ赤になっていく顔。
だ、だけど指輪は返してほしい。マルコさんから貰った大切な結婚指輪なんだ。


「あ、ありがとう…。でも私結婚してるし…」
「だから!そいつとは別れろって言ってんだろ!」
「やだ、無理」
「ッ!こんな指輪ッ…!」
「あッ!」


怒って壁に投げつけようとする彼。
声を出しても、腕を伸ばしても間に合いそうにない。
止めて!その指輪は、その指輪だけは!


「っと…」
「あ…?」
「…ま、マルコさん?」


その場には不釣り合いな人が現れ、その人、マルコさんは友達の手首を掴んで投げつけるのを阻止した。
な、何でマルコさんがここに…?


「ごめんな坊主。それは俺からやった名前の結婚指輪なんだ。乱暴に扱ってくれるな」
「お前…!」
「マルコさん!なんでここに?!」
「九時になっても帰ってこねェから迎えに来たんだい。来たらこれでビックリしたけどな」


そう言うマルコさんだけど、表情はいつもと変わらない。
掴んだ手首を軽く捻って、友達が指輪を落とした。それをマルコさんが拾って、解放する。
回りにいる友達もマルコさんに気づいて集まってきた。…半分遊び感覚で私達をみているのが腹立たしい。


「あ、名前の旦那さんじゃん」
「ああ悪いな、邪魔するよい」
「いーの、いーの。名前を迎えに来たんですか?」
「まァな。時間も守れないどうしようもねェ奴だからな」
「ちょっとマルコさん!確かに時間過ぎ……え、もう十一時?!」
「あんた気づいてなかったの?それで遅くまでいたんだ…」
「うわわ、ちょっと待って!すぐ帰る準備します!」


まさかこんなに時間が過ぎてるなんて…!
荷物をまとめ、一度男友達を見る。
確かにこの人のことは好きだけど、離婚しろなんて言ってほしくなかったな…。


「名前」
「あ、はい!」


名前を呼ばれて立ち上がろうとしたら、また今さっきみたいに頭が揺らいで、立つことができなかった。
け、結構足にきてる…。


「だから飲みすぎるなって言ったろい」
「だって…」
「言い訳するな。ほら、立てるかい?」
「…無理。抱っこ」
「……」
「抱っこして下さい」
「はいはい…」


しょうがなく私を抱き上げて、置いてあった荷物と上着と靴を持ってくれた。
あー、やっぱりマルコさん好きだ!格好いい!


「ありゃあ勝てないね。旦那さん余裕だし、男前でしょ」
「…絶対ェ諦めねェし!」
「まあ頑張りたまえ。じゃあね名前!またメールするー!」
「ばいばーい!」
「元気なら降りろよい」
「やだー」


お店の前に停めていた車の助手席に座らせてもらい、手を握られる。
あれ、車出さないのかな?


「もう落とすんじゃねェぞ」
「あ…」


取り返してくれた指輪をはめてくれた。
やっぱり大きくてすぐ落としそうになるけど、……幸せだなぁ。


「それともいらねェのかい?」
「ううん、いる!」
「……ピッタリの指輪買ってやるって言ってんだろい」
「これがいいの。恥ずかしがりながら買ってくれたマルコさんが目に浮かぶし!」
「テメェ…」
「マルコさん普段格好いいのに時々可愛いから好きー!」


そのままキスをして離れると、足を掴まれちゃんと助手席に座らされた。
マルコさんの顔をちゃんと見ることができないまま、運転席に回り、すぐにエンジンをかける。


「うわっ!ま、まだシートベルトして「名前」


シートベルトをする手をギュッと掴むマルコさん。
ゆっくり顔を見上げると、それはそれは極悪そうな顔で運転しているではないですか…!


「覚悟しろい」
「ええええ!?」


明日もお休みでよかったと心の底から思いました。






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