25万打部屋 | ナノ

こう見えてただの男なんです

仕事が終わったマルコは書類などの大切なものが入った鞄を車に乗せ、時間を確認してエンジンを入れた。
いつもなら家に帰るのだが、今日は名前と外食をすることになっている。
「マルコさんとデートしたい!」と駄々をこねる嫁に溜息を吐きながら二つ返事をしてあげると、すぐに泣きやんで抱きついたのが朝。
単純で扱いやすい嫁だが、そこも含めちゃんと愛している。ただ、言葉にするのはあまり好きではない。
だから名前が不安になったり、愛を確認するべくデートに誘ったりするのだろう。
それを解っているから、もっとその姿が見たいからわざと言わないでいたりするのも実は作戦の一つだったりする。

車を少し走らせ、待ち合わせ場所近くに車を停めて歩いて向かう。
一緒に会社を出ればいいのに、名前はわざと外で待ち合わせを好む。
会社で顔を合わせたり、会話をしたりすることを好まない(公私混同になってしまうので)マルコのための配慮でもあるが、この待っている時間が二人の愛を育む時間でもある。と意味の解らないことを言っていた。
確かに会社で顔を合わせたり、会話したりするのは好まないが、駐車場で待ち合わせればいいじゃないか。とマルコは思う。
そこまで冷たい人間ではないし、一緒に帰ることが嫌いなわけじゃない。
待ち合わせをするのだってあまり好きではない。
会社ではエースやサボに頼んで名前を見張ってもらっている。が、街に出ればそれもなくなる。それが不安。


「やっぱりな…」


待ち合わせ場所に向かったマルコは、その光景を見て言葉をもらした。
人がたくさん行き交う場所では、そういった目的の人達もいる。
だからって何も人の嫁に声をかけなくとも。
マルコを待っていた名前は男に声をかけられている途中だった。聞かなくとも、言わなくとも解るだろう。


「……」


男はナンパ慣れしているのか、最初は警戒して逃げようとしていた名前をいとも簡単にトークで警戒を解き、隣に座って笑い合っている。
単純なのはマルコにとってもいいことなのだが、ここで発揮されても困る。
楽しそうに笑い合う二人を見て、「やっぱ若いもん同士は似合ってるな」と息を吐いた。
とは思っても、譲る気なんてさらさらないマルコは少し歩むスピードをあげて名前の元へと向かった。


「あ、マルコさんだ!」
「げっ、ほんとだったのかよ…!」


マルコを見るなり、男に向けていた笑顔とは別の、本当の笑顔を浮かべてマルコに抱きつく。
いつもだったら「暑苦しい」などと言って引き離そうとするが、今日は名前の背中に腕を回し、ちゃんと抱きしめ返してあげる。
名前を見て一度、男を睨みつける。
若いころそれなりに、いや、結構悪いことをしていたため、歳を取った今でも殺気だけは現役のまま。
威嚇をすると男はすぐに帰っていき、そこでようやく名前を引き離した。


「何話してたんだい?」
「え?」
「今さっきの男と」
「あー……えっと、大したことは」
「へー」
「う、浮気じゃないですよ?」
「知ってるよい。そんなことができるほど名前は器用じゃねェだろい」


慌てる名前の頭を撫でながら言うと、苦笑しながら「そうです」と肯定する。
でも自分だって不安になる。
名前は若いし、もしかしたら…。という時もある。
絶対に言わないし、態度には出さないが、マルコだって普通の人間で、ただの男だ。


「それに、名前は俺に惚れ込んでるしな」
「その顔ずるい!好き!」


自分を安心させるために言ったのかもしれないが、ニヤリと笑って事実を言ってやると、名前がまた抱きついてきた。






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