この恋、中毒性強し 「ねーマルコさん、やっぱり私も一緒に行っていいですか?」 「バカなこと言ってねェで早く準備しろよい」 「バカじゃないもん!マルコさんと離れたくないだけだもん!」 事件です。大したことじゃないかもしれないけど、私にとったら大事件です! 愛しの愛しの旦那様、マルコさんが出張に出かけるんです! オヤジさんの秘書だから仕方ないけど、一週間も出張は寂しすぎる! 昨日のうちに準備した、一週間分の荷物が入ったキャリーケースの横に立つマルコさん。 くそー…格好いい!でもそのマルコさんが明日から一週間いないなんて…! 「一週間も私耐えれる自信がありません!」 「邪魔」 「あうっ!」 抱きつこうとしたら避けられた…。 そんなクールなところも大好きだけど、……やっぱり寂しー! 「早く準備しねェと遅刻するよい」 「マルコさんがチューしてくれたら動く」 「じゃ、あとは任せたよい」 「マルコさーん!」 「邪魔だって言ってんだろい!」 さっさと出発しようとするマルコさん。こんな寂しい行ってきますはないよ! キャリーケースを掴んで行かせまいとするけど、マルコさんの苛立った言葉にズキンと心が痛んで、身体の動きが止まる。 何だよー…少しぐらいマルコさんも寂しがってくれてもいいじゃない…。 でも嫌われたくないから素直に離して、靴を履くマルコさんを黙って見送る。 「……メール下さい。寂しい…」 「仕事で忙しいから無理」 「じゃあ電話」 「約束はできねェ」 「じゃあ「いい加減俺離れしろい」 …怒らせてしまった。 眉間にしわを寄せた顔でキッパリ言われ、私は何も言えず俯く。 でも、だって…寂しいんだもん。ほんとだもん。マルコさんと離れたくない…。 ………仕事だもん、しょうがないよね。 「解りました…。頑張ります」 「…。じゃあ任せた」 「はい。行ってらっしゃい、マルコさん」 そう言って悲しそうに笑う名前に静かに見送られ、三日目。 携帯を開いて受信メールを確認するも、名前からのメールはない。電話がかかってくることもない。 確かに俺離れしろとは言った。だが一つも連絡なかったら心配になるだろい。あいつは極端すぎなんだよい。 「おいマルコ」 「……」 「マルコ!」 「何だよい、サッチ」 「携帯パカパカうるせェよ。何イラついてんだ?」 「……ああ、悪い」 「名前ちゃんからメールの返信催促がうるせェのか?」 その逆。こなくてイライラしてんだよい。 とは言わず、サッチの言葉を無視して窓の外を見る。 オヤジやサッチ、イゾウと一緒に出張に出たのはいいが、何だか気が抜ける。 仕事に支障は出てねェが、どうも何かが足りねェ。 名前の声聞いてねェなァ…。電話ぐらいしろよい。心配になるだろい。 「マルコ、行くぞ」 「ああ」 一度携帯の待ち受け画面に写る名前を見てパチンと閉じ、胸ポケットに収める。 情けねェな。名前に言ったはずなのに俺が我慢できねェでどうする。 とにかくオヤジに迷惑かけないよう仕事に没頭するか。 短いと思っていた出張は思ったより長く感じたが、終わってみるとやっぱり短かった。 懐かしさも何も感じることないマンションに到着し、いつものように玄関を開ける。 帰る時間を伝えなかったからきっと驚いた名前が迎えてくれるだろう。 そう思ったのに部屋は静寂に包まれていた。 「名前?」 いつも一緒に座ってテレビを見るソファを覗いても名前はおらず、人の気配すら感じない。 この時間帯は仕事から帰っているはずだ。 ……もしかしてエース達と遊んでんのかい?…いやいや、エースやサボはすぐに家に帰る。 「浮気、するほどの度胸はねェし…」 それでも心臓はうるさく波打つ。 トイレ、洗面所、風呂を探しても姿はなく、寝室のドアを開けるとベットの上にいた。 あからさまにホッと息をついた自分。名前のこと言えねェな…。 「名前」 「う、…」 近づいて名前の隣に腰を下ろす。 俺の重みで少し揺れ、名前の肩を揺すって起こす。 手には名前が着るにしては大きいシャツが握られており、すぐに自分のシャツだと気がつく。 「犬かよい」 「……マルコ、さん……マルコさんだ!」 「ただいま」 「お帰りなさいマルコさん!」 眠気が一気に覚め、すぐいつものように抱きついてきた名前。 何度も「おかえりなさい」「寂しかった」と甘えてくる名前に、「そうかい」と素っ気なく答える。 たかが一週間だぞ?俺も寂しかったなんて言えねェよい。 「私ちゃんと我慢しました!」 「ああ、この一週間メールも電話もなかったな」 「何度電話をしようかと思ったか…。何度メールを送ろうとしたかッ…!」 「よく我慢したな」 「マルコさんに嫌われたくないもん!」 エヘヘ!と笑う名前。 さすがにあのときの朝は言いすぎたと思った。 あとから「言いすぎた」とメールを送ろうかと思ったが、思った以上に忙しくてメールを送る暇さえなかった。 メールがくると思ってたから待っていたのに、くることはなく、結局ずるずると一週間を名前なしで過ごした。 どれだけ寂しかったか。だけど絶対言ってやらねェ。 「我慢したんだから褒めて下さい!」 「ああ」 言ってはやらねェが、態度では示してやる。 額にキスをして、一度名前の顔を見ると幸せそうに笑ってまた抱きついてくる。 なんつーかなァ…。そんな顔されちゃあ我慢できねェだろい…。 抱きつく名前を引き離し、両頬に手を添えてまた額にキスをし、目じりや頬、首筋にキスをする。 くすぐったそうに笑う名前。 最後に「苦しい」と胸を叩いてくるまで唇にキスをしてやる。 「はい、ご褒美」 「……が、我慢してよかったです…」 次は俺から名前に抱きつき、聞こえないように愛の告白すると、 「不意打ちは卑怯だよー…!」 同じく顔を真っ赤にさせた名前が抱きしめ返してくれた。 ( ← | → ) ▽ topへ |