25万打部屋 | ナノ

伝わらない想い

「マルコさんって「愛してる」とか、「好きだ」とかって言ってくれないの。嫉妬もしたことないし…。もしかして私のことあんまり好きじゃないのかな…」


ということを、隣の部署の女友達に相談してみた。
勿論私はマルコさんのこと大好きだし、愛してる!
でもそれだけじゃ足りない!だから毎日告白してるのに、マルコさんはいつも素っ気ない。(そんなマルコさんも大好きだけど!)
たまには私だって言われたい!そしたらどんなに幸せかマルコさんは知らないんだ。


「んー…じゃあさ、飲み会とか行ってみる?」
「飲み会?」
「うん。今日の飲み会。で、パーッと騒いで楽しもうよ!」
「でも私参加しないって言っちゃった…」
「メールすればいいじゃん。もしかしたら「ダメ」って言うかもよ?」
「…だといいけど」


友達に言われた通り、マルコさんに「今日の飲み会、やっぱり行ってきます」と送った。
すると珍しくすぐに返信がきた。
ワクワクしながらメールを開けると、やっぱり「楽しんでこいよい」とのこと…。解ってたけど寂しい…!


「もー!少しは止めてよー!」
「名前、落ちついて。携帯ミシミシ言ってるから」
「私飲む!今日はとことん飲んでやる!」


贅沢なんて言ってない!ただ一言愛の言葉が欲しいだけ!それなのにマルコさんは…!
滅多に参加することない、同期などの若い人だけによる飲み会に参加した。
サボくんとエースくんも参加しており、他部署の先輩達にキャーキャー騒がれていた。そう言えば二人ともモテるんだよね。


「あ、君名前ちゃんでしょ」
「……そうですけど」


入ったお店はお洒落な居酒屋さん。雰囲気もいいし、マルコさんも喜ぶかも。……って、今日はマルコさんのこと忘れてやるんだった!
首を横に振って女友達の横に座ろうとしたら、他部署の知らない男の人が近寄ってきた。
軽い性格で最初は拒絶してたけど、喋ってみると思ったよりいい人で、いつの間にか二人だけで喋っていた。
マルコさん以外の男の人と話すのって久しぶりだ…。(エースくんやサボくん以外は別)


「あ、そろそろ帰らないと…」


何気なしに携帯を見たけど、受信メールは何もなく肩を落とす。
ついでに時間を確認すると夜の九時を過ぎていた。
さすがにこんな遅いと心配してるよね…。
お酒のせいで熱くなった頬を抑えながら立ち上がると、彼に腕を掴まれ座らされる。


「まだいいじゃん。というか今からが楽しい時間だからさ!」
「…でもマルコさん心配してる」
「ああ、旦那?でも行くって言ったんだろ?メールいれとけば大丈夫だって」
「………でも…」
「名前ちゃんあんまりこういうの参加しないんだから今日ぐらい楽しんでよ!ね?」


実はこの飲み会は彼が企画したらしい。
そこまで言ってくれるなら…。そう思って元いた場所にゆっくり腰を下ろす。
でも心配をかけたらいけないからマルコさんにメールをすることにした。
これで「帰って来い」と言われたら帰ろう。そうじゃなかったら―――。


「……マルコさんのバカァ!」
「ど、どうかした?」


「遅くなります」とメールを送ったら、やっぱりすぐに「気をつけろい」と返信がきた。
もーバカバカ!何でそれだけ?もっと心配してくれてもよくない!?


「飲もう!ね、付き合ってくれるよね!?」
「勿論!名前ちゃんの飲みっぷりに惚れちゃいそう!」


強めのお酒を頼んで彼と乾杯して一気に飲み干す。
多少酔っぱらってる私にはあまりきかず、視界がグルグルと回りながらまたお酒を頼んだ。
マルコさんはバカだ!大バカだー!


「……なァサボ。名前の奴ちょっとヤバくないか?」
「…ああ、危ない飲み方してる。それに横に座ってるやつも怪しい」
「あいついい噂きかねェんだよなー…。マルコにメールしとくか」
「マルコさん来てくれるか?」
「わかんね」


飲んで飲んで食べて飲んで…。
限界を迎える一歩手前を迎え、私は飲むのを止めた。
マルコさんを忘れるために飲んだけど、やっぱり完璧に忘れることはできないみたい。私、どんだけマルコさんのことが好きなんだろう…。
それが伝わらないのかな。もっと伝えたほうがいいのかな。


「おい名前、大丈夫か?」
「うええ…エースくん、気持ち悪いー…」
「ちゃんと帰れるか?送ってあげようか?」
「大丈夫だよサボくっ……!」
「おい名前!」
「っあぶなー…。あ、大丈夫だから二人とも帰りなよ、お嫁さん待ってるよ…?」


気遣ってくれる二人に無理やり笑顔を作ってフラフラしないようちゃんと真っ直ぐ立つ。
すると二人は心配な顔をしながら「気をつけろよ」と帰って行った。うん、大好きなお嫁さんの元へと帰りなさい。


「名前ちゃん」
「あ」


私も帰ろうとタクシーを拾うため歩道に出ると、腕を掴んで止められた。
掴んだのは隣に座ってた彼。
彼もたくさん飲んだはずなのに全然酔っぱらってない。慣れてるのかなー?


「送るよ。危ねェからな」
「あー…」


この人は優しいなァ…。マルコさんとは大違いだ。
足に力入らないし、まともに歩けないのも解っているから素直に「お願いします」と言うと、彼は笑って頷いてくれた。


「今車に乗ると吐くかもしれねェし、少し歩こうか。あ、歩ける?」
「うん、なんとか…」


そうか、今のまま車に乗ると危ないよね。絶対吐くわ。
肩を貸してもらいながら酔いを冷ますため賑わう街中を歩く。
最初は飲み会の話とか、彼の話とか色々聞いてたんだけど、いつの間にかマルコさんへの愚痴を吐き出していた。
それなのに彼は嫌な顔一つせず聞いてくれた。


「マルコさんのばかぁ…。私が浮気しても知らないぞー…!」


勿論浮気する度胸も、気持ちもない。
それなのに、彼は足を止め、今まで見せなかった真面目な顔を私に向けた。


「じゃあする?」
「え?」
「俺と浮気」


真面目な顔だったのにニコッと笑って再び歩き出す。
……冗談か。冗談だよね。いや、人が悪い人だ。


「言っとくけど本気だぜ?」
「……いやいや」
「何で?イヤなんだろ?じゃあいいじゃん」
「そうだけど、そうじゃなくて…」


私の肩に手を回している彼は力を強め、自分に引き寄せる。
やばい。と思って逃げようとしても、フラつく足取りだと力が入らず、結局彼に身体を預けているまま。


「名前」
「ッ!ま、マルコさん…」


彼がグッと力を入れ、距離が近くなったとき、聞きたくなかったような聞きたかったような声で名前を呼ばれた。
ビクリと震えてその声のほうへと向けると、ラフな恰好をしたマルコさんがいた。ああ、やっぱりマルコさんは格好いいな。
って、惚(のろ)れてる場合じゃない!私はマルコさんに怒ってるんだ!……だ、だけどこの場面だけは見られたくなかった…!


「何してんだい。人に迷惑かけるほど飲むんじゃねェよい」
「え、え…。そ、それだけ…?」
「他に何言えばいいんだよい」


呆れながら私達に近づいてきて、引き離される。
もっと…こう、心配してくれてもよくない?しかもこの人にキスされそうだったんだよ?
それなのにマルコさんは彼に向って「迷惑かけたな」と軽い謝罪をしていた。


「マルコさんのバカ!」
「バカはどっちだい。ちゃんとメールで気をつけろって言ったろい」
「そうじゃないの!」
「訳わかんねェこと言ってねェで「うるさい!マルコさんなんて嫌いだ!私この人と浮気してやる!」


また彼に引っ付いて、マルコさんを睨んでやる。
マルコさんがそんなんだと私だって本気出すよ!浮気だってしてやる!


「うっわ、マジかよ。名前ちゃん、いいの?」
「いいの!マルコさんは乙女心が解んないんだもん!大嫌い!」


彼の腕を抱きしめ、マルコさんに言ってやると、「そうかい」と小さく呟く。
ほら、私が何したってマルコさんはいつでもそれだ。どうせすぐに飽きて戻ってくるとでも思ってるんでしょ。だけど今回は本気だよ!
しかし


「名前」
「ッ!」


一度目を伏せ、ゆっくり私を見て名前を呼ぶ。
それは見たことのないマルコさんの怒った顔だった…。
冷たい目と、いつも以上に低い声。
背筋に走る恐怖に声も息も喉に引っ掛かり、彼にさらに抱きついた。


「滅多なこと口にすんじゃねェよい」
「うっ…」


一歩、歩みを進めるマルコさん。それと同時に私と彼は一歩後ろに下がる。


「いくら若いっからって、社会人になったんならちゃんと自分の言葉に責任持たねェとな…」
「…だ、だって…」
「名前、取り消すなら今のうちだい。じゃねェと無理やり首輪つけて連れ帰って部屋に閉じ込めるよい」


ニコリと笑うマルコさんだったけど、こんな笑顔のマルコさん見たくない!
恐怖で声が出ない私と彼。身体も動きそうになかった。


「それと小僧。人の嫁に手ェ出して生きて帰れると思うなよい」


そう言って私と彼と再び引き離す。
マルコさんが彼の肩を軽く押して、私を背中に隠す。
そのせいでよく見えなかったけど、マルコさんが凄い形相で彼を睨んでいるのが解った。
……か、彼には悪いことをしてしまった…。明日謝ろう、うん…。


「さて、名前」
「は、はい!」
「次はお前だよい」
「……ご、ごめんな「謝罪はいらねェ。何でこんなことした」


近くに停めてあった車に連れて行かれ、助手席に座らされる。
マルコさんは運転席に座り、発進させることなく威圧感で私を責める…。
トントンと指でハンドルをたたくのが余計怖い…!


「だ、だってマルコさんが素っ気ないから…」
「だから浮気するのかい」
「してない!」
「ああ、間違えたよい。浮気する前だったな」
「……っひ……だ、…でも、マルコさん…ッ…私のこと…」


好きだとか、愛してるだとか。言ってくれないじゃん。
嫌いじゃないから、好きだから結婚してくれたんだと思う。
それでも私は言葉が欲しい。マルコさんは言いたくないかもしれないけど、不安になる。
私ばっかり好きで辛い。好きすぎて辛いよ、マルコさん…!


「……俺は」


泣いて俯いているから解らないけど、マルコさんも悲しそうな顔をしている気がした。
怖かった威圧感も雰囲気もなくなり、優しい声で喋ってくれる。


「あんまりそういうのが得意じゃねェが、お前が思っているに以上にお前のことを愛してる」


名前が先輩や上司にセクハラされないよう、人を選んで今いる部署に配属させているを知ってたかい?名前を触っていいのは俺だけだろい?
それでも心配だからエースやサボに名前を見張ってもらうよう同じ部署に配属させている。もちろん奴らに合った部署でもあるが。
そういう俺の、俺なりの気遣いに気づいてたかい?


「……マルコさん…」
「あー…くそ…」


ハンドルに突っ伏し、きっと照れて赤くなったであろう顔を隠す。
…気付かなかった。そんなことしてくれてたんだ…!
私の顔も赤くなり、何も言えないでいると車にエンジンをかけ、走り出した。
マルコさんの顔見たいのに見れない。見たらきっと怒る。


「…ごめんなさい、マルコさん」
「…」
「もうしません。てかできません。マルコさんが大好きだもん」
「大嫌いって言ってたな」
「嘘ですよ。嫌いになんてなれません」
「そうかい。それでも嘘は嫌いだ」
「…ごめんなさい」
「もういいよい」


ぐしゃ。と左手で私の頭を撫でてくれた。
その手を握り、自分の頬に当てる。


「やっぱりマルコさんの手が好きだ!」
「……やっぱり?」
「お酒飲んで熱くなった頬を彼が冷ましてくれたんです!彼の手冷たくて気持ちよかったんですけど、マルコさんの手のほうが気持ちいです!」
「……ほォ…!」
「うわあああ!ま、マルコさん、スピード上がってますよ!」
「名前」
「へ?」
「やっぱ許さねェよい。家帰ってお仕置きタイムだい…」
「ええええええ!?」


解ってたし、するつもりはないが、浮気なんて絶対にしない!






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