慰安旅行(後編) 「マルコさんにも送ろーっと」 「止めろよ!絶対バカにされるだろ!」 「だからだろ」 送ろうとする私に手を伸ばすエースくんを、サボくんが邪魔させないよう海パンを掴んで止める。 ちょ、見えるから! 見ないよう背中を向けてマルコさんに送信!返信こないかなー。 「覚えてろよ名前!」 「今度お嫁さんの惚気話聞いてあげるから」 「なら許す」 「単純バカが…」 「よーし、浮き輪膨らませて浮かぶぞ!」 持ってきた浮き輪を取り出し、一生懸命膨らませる。 私も持ってきた浮き輪を膨らませようとしたら、サボくんが手を出してきて、代わりに膨らませてくれた。 ……彼のこういう紳士なところって普通に素敵だと思う。勿論マルコさんが一番だけどね! 「よし、できた!」 「はい名前」 「ありがと、サボくん!」 「サボ、ちょっと競争しようぜ!」 「途中で沈んでも助けてやんねェからな」 浮き輪で勝負するなんて…。勝敗は目に見えて解るのに、エースくんはあえてチャレンジする。 私は浮き輪でプカプカ海に浮かびながら審判をすることになった。 「よーい、スタート!」 勿論言わずもがな、サボくんの勝利。 負けたエースくんは砂埋めの刑になり、暴れるエースくんを抑えつけ埋めることに成功! サボくんがエースくんの胸に砂を盛っておっぱいを作ったり、動けないエースくんをいいことに写メを撮ってエースくんのお嫁さんに送ったり。 「あ、名前。エースの隣に並んで。写メ撮ってあげる」 「ほんと?じゃあ私がエースくんを倒した感じの写メをお願いします」 「任せて。おら、エース。死んだふりしろ」 「くっそー…!」 文句を言いながらも付き合ってくれるエースくん。 サボくんに写メを撮ってもらい、エースくんにまた砂をかけ固める。 「おい名前。胸盛れ。お前より巨乳にしろ」 「ひっどーい!」 酷いことを言うので胸を削ってやった。 男のくせに私よりあるなんて卑怯だ! ムカつくので砂に「筋肉バカ」と書いてあげると、「名前テメェ!」と怒ったので笑ってやる。 動けないエースくんは怖くないもんね! 「あれ?今シャッター音しなかった?」 「気のせいだよ」 「名前、砂から出たら覚えてろ!」 「はいはい。で、サボくんは今さっきから誰にメール送ってるの?お嫁さん?」 「んー…。上司の機嫌は取っとかないとな」 笑って携帯を閉じる。 サボくんのこういうとこ、解んないなァ…。 そんな感じで楽しい時間は過ぎ、今度は夜のお楽しみの時間! バーベキューは先輩達が準備してくれ、私達はただ食べるのみ。 手伝おうとしたけど、なんかこういうのが好きみたいなので任せている。 それにしても……。 「マルコさんから返信こない…」 お昼に送ったエースくん溺れるムービーも、エースくんを埋めた写メールも無視…。 滅多なことがない限り返信してこないの知ってるけど、…それでもやっぱり期待するじゃん。 もー…だからマルコさんも一緒に来てほしかったんだよ! 「どうかしたか?」 「エースくん、マルコさんから返信こないの…」 「いつもだろ」 「でも一日も離れるんだから…」 「解るぞ名前。俺も嫁と離れるのは辛い…!だけど俺は返信がくる!羨ましいだろ!」 「もー…酔っぱらい。お嫁さんに言うよ」 陽気にむしゃむしゃ食べるエースくん。少し鬱陶しい。 サボくんに助けを求めようと目で探すけど、サボくんは部長の相手をしていた。 あー…サボくんはそういう人だよねー…。 「返信こねェってことは浮気中かもなー!」 「なっ…!」 お肉ばっかり食べているエースくんが少し真剣な顔でとんでもないことを言い出した。 ショックを受け、持っていたお皿を落とし、携帯を取り出す。 ま、まさか…!私がいないから家に綺麗な女を連れ込んで…! 「浮気なんて許しませんからねー!」 「あ、でも今日は夜遅くまで会議とか言ってなかったっけな」 急いで発信履歴を開き、マルコさんにかける。 電話音がイライラする。早く出て! 『どうした?』 「マルコさん!」 『おお』 「メール見たら返信下さい!寂しいじゃないですか!それとも浮気ですか?浮気中なんですか?!そんなの絶対に許しませんからね!」 『会議中に返信できるかい。それに返信に困るメールばっかだしな』 「嘘だァ!浮気してたんだ!私も浮気してやるッ!」 『そうかい。勝手にしろい』 いつもと変わりない声色でそう言い放ち、ブチッと切れた。 ……わ、私はなんてことを…! 「名前?」 「エースくん!」 「うおッ!」 「電話切られた!私浮気なんてできないのに!」 「あー…。本当にするかもしれねェぞ?」 「そんなのヤダァ!マルコさーん!」 泣きながらまたマルコさんに電話をかける。 今さっきより早い感覚で電話に出たけど、声はしない。 おおお怒ってる?!それとも浮気中!? 「浮気してませんよね?!今さっきのは嘘です!だからマルコさん浮気しちゃヤダァアア!」 マルコさんしか愛せないし、マルコさんしか見れないのに浮気なんてできるわけないじゃないですか! ただマルコさんがちょっと素っ気ないから売り言葉に買い言葉っていうか…。 とにかく嘘です!寂しくなって嘘ついちゃったんです!マルコさんに会いたいよー! 『…ッ…』 「ま、マルコさん…?今笑ってた?」 『いや、なんでもねェよい』 「もうっ!マルコさんに会いたい、寂しい!マルコさんの横で寝たいよー!今日一人で寝るなんてヤダー!」 『久しぶりにゆっくり寝れるよい』 「やーー!マルコさんは私がいなくてもいいんだ!」 『別にそうは言ってねェだろい』 「でも寂しい!隣にいないなんて寂しい!エースくーん、今日一緒に寝ようよー!」 「おう、別に構わねェぞ」 『おい名前。エースと寝たら蹴り落とされるぞ』 「じゃあサボくん!サボくーん、今日一緒に寝ようよ!」 「ごめんな名前。俺の横は嫁だけのもんなんだ」 「マルコさん、爽やかな笑顔で断られた!」 『じゃあ一人で寝るんだな。ほら、もう切るぞ。まだ会議が残ってんだい』 「ううう…。マルコさん、好きです。だから浮気やだ…」 『仕事中に浮気なんてできるかい』 「仕事中じゃなかったらしてたんですか!?」 『ハァ…。いいかい、一度しか言わねェからしっかり聞け』 「うん…」 『愛してるよい』 「ッ!マルコさん、私も『じゃ』うわああああ!また切られたー!」 もう一度マルコさんに電話をかけたけど、「おかけになった電話は…」の機械的なアナウンスが流れるだけだった。 「楽しそうな顔してるくせに」 電話を切ったマルコは携帯を広げたまま机に置いてコーヒーを飲む。 携帯画面にはサボが昼間送ってきた水着姿の名前が楽しそうに笑っている姿が写っている。 「エースやサボの横で寝るなんて許すわけねェだろい」 笑う名前を小突き、携帯を倒す。 そのまま自分も机に突っ伏し、頭をかきながら溜息をはいて誰にも聞こえないような声で嫁の名前を呼んだ。 ( ← | → ) ▽ topへ |