豹変する旦那 カチコチカチコチ。 時計の針の音が静かな部屋に響く。 今日もサボくんの帰りを耳をすませながら待っていたら、珍しく携帯が鳴った。 液晶には「サボくん」の文字。確認してすぐに出ると、大好きな声が耳と脳を刺激し、思わず笑みがこぼれてしまった。どんだけサボくんに惚れてるんだろう。 「どうしたの?電話なんて珍しいね」 『うん、名前に伝えとこうと思って。今日結構遅くなるから先にご飯食べて寝といて』 「え?」 『ちょっと色々あってな。じゃあごめん、もう切る』 「あ、ちょっとサボく……切れちゃった…」 もっとゆっくり声を聞きたかったのに、サボくんは一方的に会話を終わらせ、切ってしまった。 でも何だか忙しいそうだったな…。雑音も凄かったし。 エースくんの「サボー!」って声も後ろから聞こえた。 空しく鳴り続ける電話音。携帯を閉じて時間を確認すると、いつも帰ってくる時間帯はとっくに過ぎていた。 電話をかけるの忘れるほど忙しいのか…。 寂しいけど、サボくんは頑張ってんだ。うじうじしないで言われた通りにしよう! 「……一人のご飯ってやだな…」 朝は一緒に食べるけど、お昼は一人。そして今日の晩ご飯も一人。 いつもサボくんが座る目の前のイスをぼんやり見ながら静かに晩ご飯を終わらせ、食器を片づけ、お風呂に向かう。 「静かだ…」 不意打ちでお風呂に入ってくるサボくん。だけど今日はない。 「うん、ゆっくり浸かれていいじゃない」 久しぶりの長湯を楽しみ、居間に戻って時計を確認。そんなに時間は過ぎてない…。 仕方なくテレビをつけ、大好きな番組を見るけど、脳にしっかり入ってくれない。 ぼんやり見ながらソファに寄りかかり、頭を拭く。風邪引いちゃうもんね。 番組も終わり、浸けていた食器を洗って片付ける。 「サボくんのご飯どうしよう…」 きっと食べると思う。だから小皿に移して、サランラップをかけて冷蔵庫にいれておく。 これですぐに温めて食べることができる! 「……だけどなー…」 サボくんには「先に寝てて」って言われたけど、寝たくない。 おかえりなさいと言うのが私の役目だ。これは結婚してから絶対毎日言おうと私が決めた勝手なルール。破りたくない。 もしかしたらサボくんに怒られるかもしれないけど、私はサボくんを待っていたい。 また時計を確認すると23時前。そろそろ帰ってくるかもしれない。 テレビを消して、ソファに座って聞き耳を立てる。 「ただいま」 聞き耳を立てていたら、いつの間にか寝落ちしていて、サボくんの声にビクリと身体が震えた。 や、やっちゃった…! 急いで起き上がり、サボくんに駆け寄ろうとしたけど、寝起きの脳みそで身体を動かすことはできず、転んでしまった。 「名前?」 「お、おかえりサボくん」 打った場所を抑えつつ笑顔を向けると、疲れた顔で笑って私に近づく。 今日は本当に疲れたんだ…。いつもの元気があんまりない…。 立とうとする前にサボくんが私の前に座って、ギュッと抱きしめる。 私も抱きしめ返すと、 「ただいま、名前」 いつもの言葉を返してくれた。 そのまま離れて服を脱ぐかと思ったのに、サボくんは離れようとしない。 声をかけても何も返ってこず、ただ私を抱きしめる。 「うん、充電完了」 「サボくん?」 「寝てていいって言っただろ?」 「…ごめん。でも待ってたかった」 「嬉しいけどな」 一度離れて、また抱きしめる。今度は少し力強く。 ああ嬉しいな。サボくんが帰ってきてくれた。もしかしたら帰ってくるのがイヤなのかなって考えてた。 私も抱きしめる力を強めると、首がチクリと痛んだ。 「…サボくん」 「ごめん、我慢できなくて」 「だからって首にキスマー「しー」 自分の口に人差し指を立て、静かに。と言う。 元はと言えばサボくんがキスマークつけるからじゃん…。 そういう意味をこめて睨むと、また抱きついて首にキスマークをつける。 ……珍しい。いつもは優しいのに、今日は少し強引だ。も、勿論嫌いじゃない。嫌いじゃないけど、…いい思い出はない。 「名前ありがとな。それとごめん」 「ううん、いいの。それより疲れたでしょ?ご飯食べて寝る?」 「名前が食べたい」 「だ、ダメだよ!明日も早いんだから早く寝ようよ」 「そうだな。じゃあ先に風呂入ってくるからご飯くれる?」 「うん!」 強引なサボくんにドキドキしつつ、早く寝るよう促すとあっさりと離してくれた。 ホッとしたけど、若干寂しい。イチャイチャはしたいんだよね…。 お風呂に向かうサボくんを見送り、ご飯の準備をするため立ち上がる。するとサボくんが戻ってきた。 「土曜日覚悟しとけよ」 「えッ」 「今週はいつもの優しいサボくんはいませんからー」 「……シフト休みだったよね」 嬉しい半面、なんだか恐怖を感じました。 ( ← | → ) ▽ topへ |