その親、猛獣につき その日はマルコとエースと街を探索していた。 とは言っても、食べ物ばかり目がいくエースとアキをマルコが止めるだけで全く観光などしていない。 マルコに買ってもらった飴を舐めながら歩いていると、エースに奪われ、怒るアキを見てマルコがエースを叱ることも多々繰り返している。 そうこうしているうちに島の名物らしい通りは過ぎ、静かな住宅地へと出た。 「何もねェな…。戻って飯食おうぜ!」 食い気が全くない土地に興味がないエースが二人を強引に引きずり、裏通りへと向かう。 そこは昼間だというのに若干暗く、空気も淀んでいた。 エースやマルコは慣れた様子だが、アキはまだ慣れておらず、繋いでいるマルコの手を強く握りしめた。 「怖いかい?」 「…ちょっとだけです」 「アキはビビりだよなー。そんなんで海賊務まるのかよ」 「だって…」 「無理する必要ねェよい。それよりエース」 「なんだ――っで!」 「頭打つよい。って言おうとしたが、遅かったな」 「エースさん大丈夫ですか?」 暗い通りには似つかない笑い声が響いて、周囲に寝転んでいた男達は三人を睨みつけてきた。 アキはエースに夢中で気づいておらず、その間にマルコが逆に睨みつけると姿をくらませる。 アキの為にも表通りにある食堂へ入りたいが、海軍に見つかりでもしたら面倒だ。 それに、裏世界の情報を得る為にもそう言ったバー(もしくは食堂)へ向かいたい。 アキに我慢してもらいながら奥へ奥へと進んでいく三人。 「お、あったあった」 「なんかいる…」 「寝てるだけだい」 「ったくしゃーねェなァ!抱っこしてやるよ」 「こっ、子供じゃありませんってば!離して下さいっ」 「よしよし、アキ、こっち来い」 見つけたバーの出入り口には酒に酔った男達が何人か寝転んでいた。 また怖がるアキに、エースが脇を掴んでひょいっと抱きあげるが、顔を真っ赤にさせたアキに拒絶されてしまう。 マルコの手を再度強く握り、緊張しながらバーへと入った。 「俺肉な!つーか片っ端から全部持ってきてくれ!」 「アキは何食べるんだい?」 「お、俺…」 「アキも肉食え肉!ハンバーグな!」 「じゃあ、それで…」 カウンターにアキを挟んで座り、適当に注文をする。 三人が入ってきてからバーの空気が変わった。 海賊をしているのなら、いや、海賊をしてなくてもマルコとエースが背負っているものを知らない者はいないだろう。 最初店内は騒いだが、数分も経てば静まり、いつもの空気へと戻った。 「ぐー…」 「マルコさん、またエースさん寝てますよ」 「顔で食いたいほど腹減ってるんだろい。ほっとけ」 「おい、アンタら」 「え?」 「白ひげのクルーだろ?」 店主がグラスを拭きながらアキ、というよりマルコに話かけてきた。 向こうから話かけてもらえて好都合だい。と言うように頷くと、店主は一度アキを見て鼻で笑った。 「いつから白ひげ海賊団は子守りしてんだ?」 「こもり?……お、俺のことですか?」 「テメェ以外に誰がいるんだ?…っと、その前にお前、女か?」 「女、ですけど…」 「……ああ、そうか。何も知らねェガキを「おい」 滅多に聞かないマルコの低い声と覇気に、店主は焦って口を閉じ、アキはビクリと震える。 簡単に謝罪をし、注文をしてきた客の元へと逃げるように去って行く。 「……子守り…」 「気にすんな。それよりアキ、これ嫌いだよな?食ってやるから、そっちは全部食えよい」 「…はい」 「――――悲鳴だ…」 「え?」 「は?」 他人から戦力外だと言われるとさすがにアキも傷ついた。 それは一番自分が解っているし、これからも足手まといにならないよう頑張るつもりだ。 凹むアキにマルコが気にするなと笑ってアキが避けていた食べ物を口に運んで処理をする。 すると、今まで寝ていたエースが顔にご飯粒をつけ起き上がる。 「何寝ぼけてんだい」 マルコは眉をしかめるが、エースは目の前にあったご飯を口いっぱいにつめ、店を飛び出した。 慌ててマルコとアキも飛び出し、今日も食い逃げ成功。 呆気にとられた店主が「食い逃げだ!」と叫ぶまだ少し時間がかかった。 「夢じゃねェのか?」 「夢じゃねェって。―――こっちだ!」 口に含んだご飯を飲みこみ、狭い路地を曲がる。 二人のスピードに一生懸命ついて行きながら、アキが目にしたのは男数名に襲われている女性二人。 アキには男が何をしているか全く解らないが、それが「怖い」というものは瞬時に理解できた。 マルコが気遣ってアキの視線を塞ぎ、その間にエースが男達を蹴散らす。 それでも起き上がってくる勇敢な男達は、マルコが後ろから一発殴って気絶させる。 「エース、やるならちゃんとやれよい。雑すぎんだよい、テメェは」 「あ、わりィわりィ。でもおかげでスッキリしただろ?」 地面に伏していた男達を一つにまとめ、呆然としている女性二人の元へと近づく。 マルコはアキに近づき、「大丈夫かい?」と声をかけ、エースのあとから二人の元に近寄った。 「大丈夫か?」 「え?」 「お前らこの島の住民だろ?解ってんならこんなとこ通るなよ。今みたいに襲われるぜ?」 「エース。こいつらも同じく裏で生きてる奴らだよい」 「そうなのか?」 「…ええ。でももう足を洗って…」 「今日はその帰りだったんです」 「ありがとうございます。二人は命の恩人です…!」 目を潤ませながらエースの手をとり、何度も「ありがとうございます」と頭を下げる二人を、アキは複雑な気持ちで見ていた。 人助けはいいことだけど、まだ子供にしろ一丁前に嫉妬してしまう。 「そちらの方も…!本当になんて言ったらいいか…」 「気にすんな。エース、行くよい」 「ああ、そうだな。じゃ、気をつけろよなー」 さっさと引きあげようとする二人だが、女二人がそれを許さなかった。 自分達を助けてくれた二人をヒーローのように慕い、そして恋をしてしまったのだ。 それがまたアキを複雑な気持ちにしてしまう。 マルコの手をギュッと握り、エースに近づく。 女性二人が怪訝した顔でアキを見て、アキも少しだけ睨む。 同じ女性でもナース達は好きだが、この人達はダメらしい。 「エースさんとマルコさんは俺と帰るんです」 キッパリと言い放つアキに、女性二人が眉をしかめた。 「あなた、誰…?」 「俺はアキです。ご飯食べたから船に帰るんです。だから離して下さい!」 珍しく強気な発言をするアキに、マルコとエースは驚いていた。 だけどすぐにいつかのことを思い出し、バレないよう口元を緩ませる。 二人は目を合わせ、わざと黙ってアキを見守ることにした。 「船?」 「俺達海賊なんです!だからすぐに帰らないといけないんです」 「海賊なのに助けるなんて…。もしよかった私も一緒に連れていって下さい」 「ダメです!海賊は強くなくちゃダメなんです!」 「子供より強いわ」 「…っだけどダメです!」 「もしダメでも今日の夜会いに来てもらえないかしら。足は洗ったけど腕は落ちていませんよ?」 「二人とも俺と寝るから行けません!」 「あら。あなたも意外とやるのね」 「寝るのは得意です!」 「でも二人相手はきついでしょ?だから一人ぐらい「マルコさんもエースさんも俺のだからダメ!」 エースの手を取り、その場から逃げるように立ち去る。 勿論二人も追いかけてきたが、マルコが青い鳥へと変身し、空へと飛び立つ。 突然の浮遊感に驚いたアキだったが、すぐに慣れた様子でエースの膝に座る。 「あの人達嫌いです…」 「くくっ…。だってよ、マルコ」 「そうかい。でもアキと一緒に寝てはねェけどな」 「じゃあ今日一緒に寝ましょうよ。ね!」 「それは…」 「勘弁してくれよい」 そのまま船についた三人。 船には仲間達しかいないのに、二人の傍から離れようとしないアキを見て、サッチが事情を聞くと苦笑いでアキの頭を撫でた。 「じゃあ俺がその女のとこに行ってもいいか?」 「なっ…!だ、ダメですよ!」 「でもタダで一緒に寝てくれんだぜ?勿体ねェだろ?」 「俺だって一緒に寝ますよ!だからダメですよ!」 「……意味違うんだけどな」 アキの嫉妬は可愛いもので。 真面目でいい子かと思えば、独占欲が誰よりも強く、嫉妬深い。 その嫉妬が「ダメです」や「俺のです」としか言わないから余計に可愛い。 また子猫を拾ったときのようにサッチやマルコ、エースがアキをからかっていると、アキは次第に泣きそうになる。 勿論前回の臨死体験のおかげで、アキは泣くことはないが、 「アキちゃんを泣かせるたァ…。いい度胸だな」 超過保護なイゾウ様がそれを許してはくれなかった。 というのは建前で、アキに嫉妬される三人が気に食わないだけの私情たっぷりなイゾウ。 額に青筋を浮かべなら銃を肩に担ぎ、不機嫌な顔で三人を睨みつける。 「アキちゃん。何でそんな泣きそうな顔してるの?」 「だ、だって三人が…!あの人達のところに行くって…。俺、行かないでって言うのに…!」 「困った人達だね。そうだ、今日土産でお菓子買ってきたんだけど、食べる?」 「え?…た、食べたいです」 「食堂に置いてあるから食べてきなよ」 「でも…。三人が……」 「どこにも行かないように俺が見張っといてあげるよ。だから、ね?」 「……はいっ」 笑顔に戻ったアキを見送り、すぐに銃口を三人に向けた。 イゾウの覇気に怯んでしまった三人は、十六番隊の隊員達によって海楼石で作られたの縄(サッチは普通の縄)で縛られた。 「ちょ、ちょっとイゾウさんんん?」 「おいイゾウ!海楼石は卑怯じゃねェか!?」 「イゾウ、早まるなよい」 「あー……」 悲鳴をあげる三人に、イゾウは天を仰ぐ。 澄み切った青い空に、心地のいい風。波も穏やかでなんとも過ごしやすい気温だ。 なのに、ここだけは極寒地帯である。 隊員達も遠くに避難し、ガタガタと震えながら三人の行く末を見守っている。 「最後に言わせてもらおう」 「何だ?許してくれんのか!?」 「マジで悪かったって!あいつの泣き顔見たらつい…」 「……」 悲鳴をあげていたサッチ、エースはイゾウの言葉に希望を見出すが、マルコだけは覚悟を決めていた。 ニコッと笑ったイゾウはゆっくり口を開いて、 「早く泣きやまないと止まらなくなるだろ、俺が」 発砲したのだった。 ▼ ハコさんからリクエスト頂きました。 ( ← | → ) ▽ topへ |