20万打部屋 | ナノ

その味、秘伝につき

「どうしたの、アキちゃん」
「あ、あのねお姉ちゃん…」
「うん?」
「日頃感謝してる人達がいるんだけど、何すればいいか解らなくて…。お姉ちゃん達は何されたら嬉しいですか?」
「そうねェ…。私だったら綺麗な宝石とかが欲しいかな?」
「アキちゃんには無理でしょ」
「……百ベリーで買えますか?」
「嘘よ。そうだ、手料理とかどう?」
「料理、ですか?」
「そうそう。アキちゃんの料理美味しいし、ベタだけどやっぱり嬉しいじゃない?」
「でもいいかもね。マルコ隊長さんあたり感激してまた固まるんじゃない?」
「エース君は美味しそうに食べてくれるでしょうね」
「……お姉ちゃん達は嬉しい?」
「私達?もちろん嬉しいに決まってるじゃない!アキちゃんが作ってくれたものだからね」


大好きなお姉ちゃん達からアドバイスをもらって、比較的静かな時間帯を狙って食堂へとやってきた。
キッチンに立ってると仲間達が「何か作ってくれ」とせがんできたが、今はそれどころじゃないのでキッパリと断りの言葉を返す。


「お姉ちゃん達…、喜んでくれるかな…」


日頃感謝しているのはオヤジ殿や隊長さん達。だけど、ナースのお姉ちゃん達にも感謝している。
時々意地悪してくるけど、いっつも色んなこと教えてくれるし、とっても優しい。
だから、今日はお姉ちゃん達に日頃の感謝を伝えるため、何かしようと思った。
でもお姉ちゃん達の好きなものって解らない。
直接聞くのは少しイヤだった。どうせやるならビックリさせたいもん!
遠まわしに聞いてみた結果、「手料理」という答えをもらって、何を作ろうか悩み続けている。


「この間街に行ったとき、美味しそうなケーキをたくさん食べてたなー…」


お姉ちゃん達の食べるご飯はよく解らない。
美容にいいとか言って薬みたいなものを飲んだり、野菜のジュースを飲んだり…。
私には無理だ。やっぱりお肉とか食べたい。
あとデザートに目がない。でもそれは私も。というか、女の子ってデザートが好きな人多いと思う。
マルコさんは好んで食べようとしないけど。


「ケーキ、でいいかな…」


ホールケーキにそのままフォークを刺して食べたい!ってこの間言ってた。
よし、ホールケーキを作ろう!
意気込んで腕を捲くって、動きが止まる。
そうだ、私


「……ケーキ、作れないや…」


はい、作れません。
ご飯は作れるけど、デザートは作ったことがない。
前に一度だけサッチさんに教えてもらったけど、……記憶が…!
じゃあ他のものにする?いや、ケーキ以外のものが何も浮かばない…!
どうしよう…。と、ともかく記憶を頼りに頑張るしかない、よね!


「えっと…。イチゴと、砂糖と……卵?」


記憶を思い出しても、手順が思い出せない。
サッチさん手際よかったからな…。しかも下準備もすぐに終わらせてたし。
あう…。どうしよう…!


「お、アキじゃねェか。何してんだ?」
「サッチさん…」


丁度よくサッチさんがやってきた。
片手にはトランプを持っており、適当に挨拶を交わして冷蔵庫を漁る。
…どうしよう。聞こうかな。でもそれだと意味ないしな…。それにサッチさんに言ったら喋りそうだし…。


「えっと…。エースさんと遊んでるんですか?」
「おうよ。あの野郎ずっと勝ちっぱなしでよー。絶対ェいかさましてる!エースのくせに!不器用なくせに!」


冷えた水を取り出し、近くに置かれていたイスに腰を下ろす。
ゴクゴクと喉を鳴らし、全部飲み干して私を見てきた。
イチゴと卵は準備できたが、これをどうすればいいか全く解らない。


「なんか作んのか?」
「………」
「え、無視?」
「いえ、……まァ…ちょっと…」
「じゃあついでに簡単なもん作ってくれよ」
「……」
「また無視かよ!いい加減にしないとお兄ちゃん泣いちゃうよ!?」
「ご、ごめんなさい…。そうじゃないんです…」


そこにいると作り辛いんです!
「ケーキを作りたいんだけど覚えてなくて」って言えば、気を悪くさせるだろうし。
もしくはバカにしてくると思う。
それに見られるのって苦手…。


「………アキ」
「はい?」
「なんかあったか?」
「え?」


やば、声が裏返ってしまった…!
無理やり笑顔を作ってサッチさんを見ると、不思議そうな顔で私を見ていた。


「何でもないですよ…?」
「じゃあ何作るんだ?」
「……け、ケーキを…」
「ケーキ?あれ、お前作れたっけ?」


あ、前のこと忘れてる?


「あ、でもこの間教えてやったよな?」


と思ったら覚えてた。


「まぁあれはほとんど俺が作ったし覚えてねェよな。うし、今日は俺が教えてやるよ!」


持っていたトランプを適当に投げ、腕をまくって私に近づいてきた。
料理を毎日作ってるだけあって、その顔は楽しそうだった。
ホッと息をついた私だったが、手伝ってもらったら意味がない!だってまた頼ってしまう!
そうなったら私からお姉ちゃん達へじゃなくなる。


「ダメです!俺が作るんです!」


だからキッチンに入ってきたサッチさんを追い出した。
危ない危ない…。


「でもお前、作れんのか?」
「つ、……頑張ります…」
「大丈夫かよ…」


とは言ったものの、やっぱり作れず、キッチンと冷蔵庫を無駄に行ったり来たりを繰り返していた。
食糧だって無限にあるわけじゃないし、失敗は許されない。
だけど手順とか全く解らないから作れない。
だからと言ってサッチさんに手伝ってもらうのはダメだ。私の手で作らないと意味がない!


「えっと、最初にスポンジケーキを作るんだから…。う、……卵?卵と何がいるんだろ…」


卵しか覚えてないよ!
卵だけで作れるわけない。他に何がいるの?というか、それはこの船にあるものなの?
卵を割って、銀のボールに入れたまま次をどうしようかと悩んでいると、まだそこにいたサッチさんが溜息を吐いた。


「その前に薄力粉」
「え?」
「ああっと、これは独り言だから気にすんな」


ボソリと呟いた言葉に反応すると、トランプを見ながら水を飲んでいた。
「絶対いかさまだよなー」と渋い顔してトランプの隅々を調べながら、片方の手で戸棚を指さす。
その戸棚を開けると白い粉があり、ちゃんと「薄力粉」と書かれていた。
……えっと、なんかふるってたっけ?


「こうかな…」


貰ったヒントを頼りに、薄力粉をふるいにかけ、サラサラになった薄力粉を少し離れた位置に避難させる。
この次は?確かケーキの形したなんか銀色のやつを準備してた。気がする。
あ、バターを溶かしてた!そうだ、思い出した!


「…どうやって溶かそう?」


火であっためれば溶けるよね?
鍋にバターをいれ、手に持ったまま火をかける。


「バカか!そうじゃねェよ!」


強い言葉に火をかける手を止めた。
ち、違うのかな…。じゃあどうやって?


「変なとこで雑だなお前は!」


文句を言いながら、でも一切手を出すことなく口だけを出して下準備を教えてくれた。
私なんて見ず、トランプばかり見ているのに的確なアドバイスにケーキはどんどん仕上がっていく。
初めて一人で作るのに、何故だか難しいことはなく、スムーズに進んでいき、私も次第に楽しくなってきた。
独り言。なんて言っているけど、全然そんなことない。
そんなサッチさんの優しさに思わず笑ってしまったけど、すぐに真剣な顔に戻る。


「―――できたァ!」


キッチンは汚れ、私の顔も粉まみれになったけど、なんとかケーキが完成した!
シンプルにイチゴケーキ!だけど日頃の感謝は詰め込んだ!
お姉ちゃん達喜んでくれるかなァ…。


「あ…」


その前にサッチさんにお礼言わないと!
なのに、今さっきまでそこにいたサッチさんはおらず、匂いに釣られてやってきた仲間達が私のケーキを見て涎を垂らしていた。
つまみ食いしようとする手から遠ざけ、「ダメです!」ときつく注意する。
冷蔵庫に入れたら絶対に食べられるから、すぐにお姉ちゃん達の元へ向かう。
緊張してきたけど、それ以上に気分がよかった。
きっとサッチさんが教えてくれたからだ。じゃなかったら確実に失敗してた。


「お姉ちゃん!」


仕事中のお姉ちゃん達だったけど、私が声をかけると皆が顔を向けて声をかけてくれる。
いざ渡すとなるとそれなりに不安はあるけど、大丈夫。自信はある!


「いつもありがとうございます。これ、食べて下さい!」


形はまだ変だけど、味は大丈夫です!
ナース長のお姉ちゃんが受け取り、他のお姉ちゃん達に一斉に抱きつかれた。
苦しかったけど、苦しくない!


「私達にだったんだ!どうしよう、すっごく嬉しい!」
「形が悪いのが余計に感動しちゃうわ!」
「マルコ隊長さんが過保護になる理由が解るッ」
「アキちゃん、ありがとう」


ニッコリ笑うナース長と、お姉ちゃん達。
私も笑って、皆で一緒にケーキを食べた。
小さいからすぐになくなってしまったけど、お姉ちゃん達が喜んでくれたから作戦は大成功!

でも私にはまだやることがあった。


「サッチさーん」


その日の夜。
今日のお礼をこめて、サッチさんへ手紙を書いた。
きっと恥ずかしくてこんなこと口にできない。だから手紙に書いて渡そうと思う。
寝る前のトイレに向かう途中、食堂へ向かうとリーゼントおろし、ヘアバンドでオールバックにしているサッチさんを見つける。
隊員達とお酒を飲んで機嫌が良さそうだった。


「おう、アキじゃねェか。どうした?マルコなら部屋だぞ」
「いえ、サッチさんに用があって」
「俺に?」
「はい。あのね、今日「何だよ。久しぶりに俺の武勇伝が聞きたくなったのか?」
「隊長の武勇伝はほとんど嘘じゃないッスか」
「なにをー!?」
「あのっ、サッチさん俺「あ、そうだアキ!お前今日のケーキ、ナースさん達に贈ったんだろ?」
「え?あ、はい。そうです。それで「ナースさん達喜んだか?俺に教えてもらったんですってちゃんと言ったか?」
「…それは…。ごめんなさい」
「んだよ!ちゃんとナースさん達に俺のアピールしてこいよ!バカッ!」
「ごめんなさい…」
「その為に教えてやったのによォ…」
「……その為って…。もうっ、サッチさんのバカァ!」


そうだとしても、私はあの時のサッチさんに感謝してるのに!
何でそんなこと言うんですかッ!
後ろに隠していた手紙をサッチさんの顔に投げつけ、食堂から走って逃げだす。
サッチさんのバカ!感謝なんてするんじゃなかった!


「……あーあ、アキの奴怒って行っちゃいましたよ。何か言おうとしてたし」
「最近反抗的だよなー…。昔の可愛いアキはどこいっちまったんだ!」
「昔と今も大して変わりませんよ。それより隊長、手紙」
「手紙?……あ、俺んだ」
「ラブレターッスか?」
「んー……。「サッチさんへ。今日はありがとうございました。お姉ちゃん達の笑顔を見れたのはサッチさんのおかげです。恥ずかしくて言えないけど、サッチさんには感謝してます。これからもずっと一緒にいて下さい。大好きです」……やっちまったな」
「やっちまいましたね。追いかけます?」
「今日はもう止めとく。ナースさん達に怒られるしな」
「そうッスね。手紙どうします?」
「可愛い子からのラブレターだ。捨てるわけにいくめェ」
「正直、アキと仲のいい隊長達が羨ましいッス」
「そりゃあ愛しちゃってますから」


当分の間、サッチさんと口きいてあげないもんね!





ヒロさんからリクエスト頂きました。



おまけ。



「アキー、サッチお兄ちゃんがクッキー焼いてやったぞ。食わねェか?」
「……」
「それともプリンがいいか?なんならもっとうまいもん作ってやるぞ!」
「…」
「…。アキ、ちゃん?お兄ちゃんのお話ちゃんと聞いてる?」
「…」
「あああああ!悪かったよ!マジですみません!昨日は酔ってたのもあるけど、あれはマジで悪かった!ごめんな?だから機嫌直せって!」
「……」
「何でもしてやるから!マジで許して下さい!」
「………、作って、下さい」
「は?」
「…今度、…いいい一緒にケーキ作って下さい…」
「ッおま、…!クソッ、早く大人になれよアキ!」
「うわっ!?だ、抱っこは止めて下さい!子供じゃありません!」

「で、サッチ。何してんだい?」

「うげェ!マルコ、隊長様…」
「アキが大人になったらどうしようってんだい?是非とも聞きたいねェ…」
「大人になったらいいじゃねェか…!過保護、卒業しようぜ!」
「無理だな」
「無理なのかよ!」



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