その女、魅惑につき 「お前誰だ?」 「アキですけど…」 『ハァ!?』 何日かは街で遊んでいたが、それも飽きて慣れ親しんだ船に戻ってきた隊長達とアキ。 そんなアキの身体に異変が起きた。 「何かおかしいですか?」 「おかしいってお前…」 驚いている隊長達とは別に、その驚きの対象であるアキは不思議そうな顔で首を傾げた。 珍しくイゾウやマルコまで驚いており、なんて口にしていいか解らないと言った様子。 その代わりにあまり物事に動じない、実は一番肝が据わっている(かもしれない)サッチがアキに近づく。 そこでようやくアキも自分の身体に異変が起きていることに気づき始めた。 「なんか成長しまくってるんですけど!」 「え?………おっぱいがある!」 いつもに比べて彼らとの距離が近く感じ、よくよく自分の身体を見ると子供から大人へと成長していた。 ナース達には及ばないが、それなりに胸も大きく、女性らしい身体つきになっており、サッチが確認するためかどうか解らないがペタペタとアキの身体を触ってきたが、すぐにマルコに殴られた。 「ちょ、今本気で殴っただろ!」 「アキ、落ちつけ」 「俺は落ちついてますけど…」 幾分近くなったアキの肩に手を添え、ふーっ…と自分を落ちつかせるため溜息を吐く。 「一つずつ確認しよう。お前はアキだよな?」 「はい、俺はアキです」 「じゃあ何で大人になった」 「起きたらなってました」 「その間がほしい」 結局、どういう経緯でアキが大人になったかは解らなかったが、ここにいる女はアキだということは解った。 驚いていた隊長達もアキ自身も時間が経てば落ちつきを取り戻し、いつものほのぼの生活に戻ることにした。 「あの、マルコさん」 「どうした?」 「服、ほしいです」 「………そうだな」 子供のときに着ていたパジャマは今のアキにとっては窮屈で仕方ない。 隣を歩くマルコにおねだりをすると、一度アキの胸に視線を落とし、フイッと顔を背けて答えた。 不自然なマルコの態度にアキは疑問を抱いたが、「ナースの服でも借りるか」と頭をかくマルコの後ろを素直について行く。 それを見ていた目敏(ざと)いサッチが下ネタを言うときのような顔でマルコの隣にやってきた。 「パジャマのままでいいじゃねェか」 「何言ってんだい。不自然だろうが」 「でもよ、ピチピチの胸とかいやらしくね?」 「バカなこと言ってんじゃねェよい」 「でもお前も見てたじゃん。いやー、まさかあそこまで大きくなるとはな!少しぐらい触ってもいいよな!」 「触ってみろい。お前の指を逆折りにしてやるよい」 「いてェ!」 可愛い妹が恋愛対象の年齢となったせいで、アキを見る目がとてもやらしい本能に忠実なサッチ。 そこまで大きく成長しているわけではないが、子供の服では苦しそうなアキの胸。 歩くたび揺れる胸を見て、すぐにまた視線を外すマルコ。 アキをそんな目で見たらいけない。と攻める自分と、男の性だし仕方ねェだろい。と開き直る自分がいる。 「ナース達の服でも借りとけ」 「解りました」 「着替えたら食堂な。それからゆっくり考えよう」 「はい!」 大人になったというのに、子供のときと変わらない笑顔を見せるアキ。 やっぱりアキはいい子に育ったな…。 顔には出さないがジーンと感動する親バカマルコ。 覗き見ようとするサッチの首を掴み、一足先に食堂へと向かった。 「アキちゃん昨日変なもの食べた?」 「いや、昨日は俺とハルタと一緒に街で遊んでただけで何も口にしてねェぞ」 「おー。ドロドロになって帰ってきて、マルコとイゾーに殴られたぐらいだよなー?」 「あれは二人が悪い」 「ともかく今日一日様子見るしかねェよい」 食堂についたマルコはイゾウとエースとハルタが座っているカウンター席に腰を下ろした。 サッチを適当に床に捨て、朝から疲れるよい…。とぼやきながら水を一口含む。 周囲は隊員達がまだ朝だって言うのに宴の勢いで騒いでいる。 しかし、遠くで扉が開く音がして、シーンと静まりかえる。 一番奥にいた隊長達も気になり、扉のほうへ振り返ると、アキが立っているではないか。 珍しいことではないのに、何故か言葉を失ってしまうのは、まだ大人のアキに慣れてないから。 「…え、っと…。俺、何かしましたか…?」 食堂にいる全員の視線を一人占めしているアキは泣きそうな顔で呟いた。 ナース達の服を借りたが、ナース達が持っている服はどれも際どい服ばかり。 比較的露出の少ない服を選んだのだが、胸が少し緩く、そしてナース達に比べて小柄なため、肩が出ている。 「あ、あれ前にマルコに見せた萌え袖じゃん」とサッチが呟き、いつかの萌えを思い出したマルコは誤魔化すようにサッチの頭を殴った。 「お前、誰だ?」 「誰って…俺はアキです」 近くにいた仲間に聞かれ答えると、冒頭の隊長達と同じ驚きの声が食堂いっぱいに響いた。 「……まァ…、パジャマよりはマシだけど…」 イゾウの言葉に意識を取り戻したエースとハルタは若干顔が赤い。 何せ今まで可愛い妹だったのに、いきなり自分と年が近い女へとなったのだから。照れ臭くて照れ臭くて…。 それはどうやら仲間達もで、いきなり成長したアキにどう接していいか解らない様子だった。 そんな仲間をかいくぐり、保護者のマルコがアキの手を取って元のいたイスへと避難させる。 「アキ、もっとマシな服なかったのかい?」 「……あんまり…」 「少しでもナース達に期待した俺がバカだったよい…」 ズレる服を直しながら答えると、またマルコが溜息を吐いた。 アキの反対側のイスに座ろうとするサッチを今度は蹴り倒し、サッチの代わりにイゾウが座る。絶対防御の完成である。 子供じゃなく、女になったアキに興味深々な仲間達は近寄ろうとするも、マルコとイゾウの睨みにより一蹴される。効果は抜群だ。 いつもと違う仲間達の態度にビクビクしながら、またズレた服を直す。 そこでマルコがあることに気づいてしまった。 「アキ」 「はい」 「………」 「マルコさん?」 「…下着はどうした」 こんだけ服がズレるのに、下着の紐が全く見えない。 痛む頭を抑え、アキに聞くと顔を赤くさせ俯いた。 「おいアキ!お前ノーブラか?ノーブラなのか!?ナースさん達の教育も大したものだな!最高だ!」 「だだだだってピッタリな下着なかったんだもんっ…!」 「よし抱きついてこい!いつものように俺に抱きついてこい!」 「や、やだ…!今のサッチさんすっごく嫌だ…!」 興奮を抑えれないサッチが声をあげながら、飛び込んでこい!のポーズをとるが、鼻息が荒いサッチにアキはさらに怯える。 いつものようにマルコに助けを求めるようにマルコの手を取るが、何故か拒絶された。 軽くショックを覚えたアキが、マルコを見るとやっぱり視線を逸らされている。 マルコの隣に座っていたエースを見ても、すぐに視線を逸らされた。 「い、イゾウさん…!」 「邪念がいっぱいだからね。サッチ、それ以上言ったらどうなるか解ってんだろなァ…」 「お前は邪念がないのか!」 「人には理性ってもんがあんだよ。そこらへんの獣と一緒にすんな」 「……お前は本当に男か?」 「いつも見てんだろ。さァアキちゃん、こんなバカな男どもは放っといて俺と逢引でもしようか」 「ってお前も邪念たっぷりじゃねェか!」 逢引の意味を解ってないアキと、爽やかな笑顔を浮かべるイゾウに、サッチがツッコミを入れると、仲間達が勢いよくアキに近づいてきた。 どうやら彼らもサッチ同様我慢できないようで、色んな方向から「俺も!」と同じ単語が聞こえる。 さすがのマルコとイゾウも、この大勢に対応することはできず、アキに触らせないようにするだけで精一杯。 「おいテメェらアキ相手に何考えてんだい!」 「アキちゃんから離れやがれ!ハルタ、エース!兄ならしっかり妹を守りな!」 「でもよォイゾー…!武器持ってねェしどうしようもねェよー!」 「こいつらサッチんとこの隊員達だよな。さすがだぜ…」 「エース、関心してねェで火でもなんでもいいから出せよい!」 「え、いいのか?」 マルコの言う通り身体から炎を発し、仲間を蹴散らせる。 その隙をぬって、マルコがアキの手を取り食堂から逃げ出した。 勿論、完璧やらしい目で見ているサッチがそれを逃がすことなく、隊員達と一緒に二人を追いかける。 しかし、外に出てから不死鳥となったマルコがアキを連れて見張り台へと避難したため、捕まることはなかった。 「こ、怖かった…」 「大丈夫かい?」 視線を一人占めし、やっけになって迫ってくる仲間達に、アキは恐怖を感じていた。何が怖いってあの勢いが怖い。 「大人になったアキが珍しいだけだろい。あと少しもすれば落ちつくよい」 「それでも怖かったです…」 ビクビクと反応するアキに、さらに気持ちが高ぶるんだろうな。 マルコは一人そんなことを考える。 Sっ気しかないナース達とは違い、どっちかと言えばMっ気なアキは格好の餌食。 ダメな大人達だよい。 とは言え、今いる見張り台はそれなりに狭い空間で、アキと二人っきり。 怖かったと震えるアキがマルコの服を握って身を寄せられると、ビクリと自分の身体が震えた。 何故かいつものように頭を撫でたり、宥めるように背中を叩いてあげることができない。 「マルコさん?」 「……」 名前を呼ばれてぎこちなく頭を撫でてあげると、嬉しそうに笑う。 彼女にとって、身体が大人になろうが気持ちは子供のままなのだ。 「マルコさんは変わらないから嬉しいです!」 そんな真っ白な笑顔で言うにアキ対して黒い気持ちが芽生え 「そうでもねェよい」 「え?」 腕を掴んで抱きよせた。 「マルコさん?……そう言えばマルコさんから抱きついてくれるなんて初めてですね!」 「…」 さほど驚いてないアキの態度に内心イラッとし、腰に手を回して逃げられないよう力を込める。 子供のときには感じられなかった胸の感触に、「ああ本当に大人になっちまったんだな」と実感する。 しばらくそのままいると、布越しにアキの心臓が早まっているのが伝わってきた。 きっと顔を赤くしているに違いない。 そう思って一旦離れると、予想通り頬を赤く染め、訳が解らないと言った顔をしていた。 「アキが大人になったら関係ねェよな?」 「な、何がですか…?」 「色々教えてやるって言ってんだい」 「…そう、ですか…。それは嬉しいですけど…、あの、近くないですか…?」 「まずは大人の味ってやつだな」 「え?」 実はアキが大人になって一番理性がギリギリだったマルコ。 大人になってしまえば過保護なんて卒業だーい! とかなんとか思っていたのか、ニヤリと笑ってアキの顎に手を添えた。 逃げようとするアキの腰にさらに力を込め、顔を近づけキスをする。 が、 「あ、れ…?」 「……」 身体に収まるいつものアキがいた。 どうやら子供のアキに戻ったようだった。 子供のアキを見た瞬間、自分の顔を一発殴るマルコ。父性の復活である。 「ま、マルコさん何してるんですか!?」 「自分自身に落とし前つけてたところだい。ちょっと待ってなアキ。海に飛び込んでくる」 「え、う、海ですか!?そんなことしたら死ん「死ねばいいんだよい!」あああああマルコさん本当に海に落ちちゃった!」 その後、大きな波音に気がついたイゾウとサッチがマルコを救出し、エースに抱っこされ見張り台から降りたアキがマルコと再開したが、当分の間マルコが自分に近づいてこなかったのだった。 ▼ 瑠奈さんよりリクエスト頂きました。 ( ← | → ) ▽ topへ |