計画的な討伐1 「ぐろうじだんだな…!」 ご飯も食べ終わり、食後のお茶を皆ですすりながら自身の過去を話した。 普通なら「近寄るな」「信じられない」って思うはずなのに、サンジさんもルフィさんも信じてくれた。そして同情してくれる。 同情されるのは好きじゃないので、「過去のことですから、笑って下さい」と言っても、ルフィさんの涙と鼻水が止まらない。 サンジさんに至っては怒りで「俺が殺してきてあげるから名前と居所教えてくれる?」と真剣な目で言ってきた。 初めての反応に、どんな態度をしていいか解らない私の代わりにナミさんが二人をなだめてくれる。 「ようするに、ゾロと二人のときに離れると自分に、街中や人が多いところで離れると他人に不幸が起きるってことね」 「はい。そうです」 「そんなこともあるもんなのかねェ…。まァでも不幸な女性ってのも儚くて魅力的だよな!」 「あーはいはい。いいから素敵マユゲは黙ってろ」 「でもよー、それってほんとなのか?」 「違うにしてもタイミングがよすぎるんです」 「ふーん…。じゃあちょっと行くか!」 「へ?」 ルフィさんがニカッ!と笑い、私を肩に担ぐ。 あ、ゾロさんが驚いた顔してる。 と思った瞬間、凄い早さで店から離れる。 「ルフィさん!?」 「ゾロから離れたら悪いこと起きるのか試してみてェ!」 「ダメですよ!ほんとよくないことが起きるんですって!」 「大丈夫大丈夫!」 「誘拐されんなよ」 朝、ゾロさんに言われた注意ごとを思い出し、このことかと理解したが、もはや遅かった。 「た、ただいま帰りました…」 再び風車のお店に帰ってこれたのは、太陽がすっかり沈んだころだった。 お店には暗い顔をしたサンジさんとナミさん、そしてゾロさんが座っており、私とルフィさんを見るなり、「ルフィ!」と怒りを露(あら)わにした。 しかしルフィさんはボロボロで、元気がない。 「俺、岡っ引き失格だ…」 誘拐され、とりあえず街の外れまで連れて行かれた。 何も起こらなかったので店に戻ろうとしたとき、食い逃げをした男と遭遇。 十手を構え、捕まえようとしたが失敗。挙句、逃げられた。 そんなことが繰り返し起こり、他にも転んだり、空から何か降ってきたりと散々な目に合ってしまったのだ。 勿論何度も謝った。だけどルフィさんは笑って「気にすんな」って言ってくれる。 嬉しかったけど、申し訳ない気持ちのほうが強い…。 そして風車でも大変なことが起きた。 私とルフィさんが出て行ってから、たくさんのお客さんでお店は繁盛したが、ケンカは起こるは食器やテーブルは壊されるは食い逃げされるは大変だったという。 サンジさんは何故か知り合いの女性に殴られたらしい。ゾロさんは自業自得だって言ってたけど。 そしてゾロさんは持って来ていた上等のお酒を盗まれたって凹んでる。 「隣の家でボヤ騒ぎがあったらしいわ…。名前が帰って来るちょっと前に消火できたらしいけど」 「あの…、本当にごめんなさい」 謝っても謝りきれない。やっぱり私は人を不幸にする。 悲劇のヒロインぶりたいわけじゃない。だけど現実なんだ。 「確かに名前がゾロから離れるとイヤなことばっか起きるけど、だから何?」 「え?」 「ようはゾロから離れなければいいんでしょ?」 「マリモのくせに羨ましい設定だな!」 「エロコックは黙ってろ」 「それぐらいで嫌ったりなんかしないわ。名前の過去の人たちと一緒にしないでくれる?」 「ナミさん…」 「おう!名前は俺たちの友達だからな!だから謝る必要ねェぞ」 「ルフィさん…!」 や、やばい…。嬉しくて泣きそうだ。 一度俯き、涙を堪える。それと言いたい言葉がある。それまでもうちょっと待って。 「ありがとうございます」 「それからゾロ。アンタ名前から離れちゃダメよ。ていうか離れるな」 「脅迫かよ」 「離れたらすぐに解るんだからね!」 「うっせェな。わァーってるよ」 「よし!じゃあ飯にしようぜ!もうクタクタでよォ…」 「……親分、ちょっと聞くんだけど、お金ある?」 「……あ…盗まれてらァ」 今さっきまで優しかったナミさんの顔が、鬼のようになった瞬間を見て、背筋に寒気が走りました。 ナミさんだけは怒らしたらいけない。肝に銘じておこう…! 「ところでゾロ、俺になんか用があるんじゃなかったのか?」 「ああ。このあたりで手配されてる奴いねェか。手っ取り早く金が欲しい」 「僧侶が言う言葉じゃないわね…」 「ここで稼ぐのが一番楽なんだよ」 「おう、あるぞ!」 こんな大きな街だから、賞金がかかったお尋ね者も多い。 そのお金を狙ってたのか…。こう言うとこは計画的だよね。この調子で迷子にならないように計画すればいいのに…。 ルフィさんから説明を受け、手配書らしき紙を受け取る。 本当はルフィさんが捕まえたいらしいんだけど、最近街中で事件がよく起きるから離れられないらしい。だから丁度よかったと笑う。 「名前、行くぞ」 「はい」 「おいおい、今から行くのかよ。しかも名前ちゃん連れて」 「連れて行かなきゃまた女に殴られっぞ。自業自得だけどな」 「うるせェ!おい俺は許さねェぞ。名前ちゃんを連れて行くなら昼間にしろ!危ねェだろうが」 「大丈夫ですよ、サンジさん。結構慣れてますから」 「でもさ名前ちゃん、相手は一応それなりの犯罪者だぜ?生臭坊主一人でどうにかなるとも限らねェし…」 「ならねェかどうか試してやろうか?」 「上等だクソ野郎」 「止めんか!」 またナミさんに殴られ、ケンカは中断。 サンジさんの気遣いは嬉しいけど、結構慣れてるからほんとに平気。 それに一緒にいないとまた悪いことが起きるし…。 「じゃあサンジ君も一緒に行ってくればいいでしょ。明日お休みだし構わないわよ」 「それなら安心だ。名前ちゃん、俺にどんどん頼ってくれ!」 「え、でも…」 「結構仲間が多いらしいからな。サンジも連れて行くといいぞ」 ルフィさん曰く、相手は結構な数の集団らしい。 ゾロさんでも大丈夫だって言うけど、もしもの時の為に連れて行けと言われる。 ゾロさんはイヤがっているけど、否定はしない。うん、サンジさん確かに強いもんね。 「ほら行くぞ」 「ゾロ。コイツら夜中にしか活動しねェみたいだから夜に慣れてっぞ」 「了解。名前、早くしろ」 「待って下さい…!」 「レディの準備を急かすなよ」 「ああ、お前いたのか。興味ねェから気付かなかった」 「だから止めい!名前、二人がケンカしたら遠慮なく殴るか蹴るか銃放つかしてね。じゃないと先に進まないから」 「わ、解りました」 「頼んだぞー!」 ナミさんとルフィさんに見送られ、お店を出た私たち三人は、お尋ね者がたむろってる街外れへと向かった。 右にゾロさん、左にサンジさん。背の高い二人に挟まれ、居心地が悪かったけど、イヤな感じはしない。 向かう途中、サンジさんが色んな事を話してくれた。彼は優しくて、とてもいい人だ! ゾロさんはそんなサンジさんが気に食わないのか、会話の途中に入ってはサンジさんを怒らせる。 ナミさんにああ言われたけど、二人の間に入れない…。ていうか怖い…。 「あ、あれですかね?」 街外れというより、完璧街の外にあったアジト。 墓地の近くにボロボロの家が建っており、その家の周りに山賊みたいな恰好をした男が数人寝ていた。 私たちはその近くにあるちょっとした茂みに身を潜め、様子を窺う。川が近くにあるおかげで物音を立てても聞こえない。 「全員いますかね?」 「さァな」 「欲しいのは親玉だ。雑魚にゃあ興味ねェ。おいマリモ、ちょっと様子見てこい。ついでに死んでこい」 「テメェが行け」 「俺はここで名前ちゃんを守る!」 「二人とも静かにしてください」 また口ケンカをする二人の服を引っ張り、茂みに隠れる。 いくら川の音で聞こえにくいからって、こんな大声だしたらバレます! 「親玉が出てくるまで待つか」 「ルフィが真夜中って言ってたな…。それまで仮眠取っとこうぜ」 サンジさんの提案に私は頷き、ゾロさんはもう寝る準備を整えていた。 「名前ちゃん、何で極自然にソイツの膝の上に乗ってんの?」 「……あ…」 荷物の中に入れておいた薄いマントみたいなシーツを持ち、ゾロさんの懐におさまる。 これが野宿での睡眠スタイル。もしものときのため、ゾロさんとくっついて寝ているんだけど…。うっかりだ。 「これはその…。何かあったらいけないから…!普段からこんな風に寝てるわけじゃないんですよ!」 「そうだとしたら俺はコイツを地の果てまで蹴る」 「うっせェな。さっさと寝ろよ。名前、クソマユゲがうるせェから離れろ」 「解りました」 「名前ちゃん、名前ちゃん。俺の膝においでよ」 「え?」 「もしものときのためにな?それに肌寒くなってきたし、くっついて寝たほうが温かいしよ」 「……ゾロさん」 「知るか。いちいち俺に聞くな」 「じゃあ…」 だって人肌ってすっごく気持ちいいんだもん。 恥ずかしいけど、好奇心のほうが強かった。 ゾロさん以外の人とこんなに話したのは初めてだし嬉しいな。 「重たかったら言って下さい。すぐ離れますから」 「大丈夫大丈夫!」 「あ、はいシーツ。ちゃんと肩までかけて下さいね」 「名前ちゃんの体温が温かいから平気だよ」 「サンジさんも温かいですね。気持ちいいです」 サンジさんの懐におさまり、シーツをかける。 ゾロさんとは違った匂いに最初は変な感じがしたけど、すぐ慣れた。色んな食材の匂いと、タバコの匂いかな? そんなことを思いながら軽く目を閉じると、背中から伝わるサンジさんの心臓の音が子守唄のように聞こえ、次第に瞼が重たくなる。 「おやすみ、名前ちゃん」 心地いい声とともに少しの間夢の世界へと旅立った。 ( ← | → ) ▽ topへ |