友人?と遭遇 「おはようございます、ゾロさん」 「……おー…」 「今日は二度寝はもうダメですよ。ご飯持ってきますね」 「おー…」 さすがに二日もタダで同じ宿屋に泊まるのは気が引ける。 だからいつもの時間帯に起き、二度寝することなく手早く朝の支度をすませ、ゾロさんを起こす。 ボーっとしながらも起き上がり、大きな欠伸をするゾロさん。普段は大人っぽいのに、寝起きはなんだか子供っぽい。 気のない返事のゾロさんのため、さっさと朝ご飯を用意した。とは言っても持ってくるだけなんだけど。 朝も昼も夜も断然米派なゾロさん。用意すると眠たそうな顔でゆっくり食べ始める。朝からその食欲は凄いと思う。 「お前は食わねェのか?」 「私は今さっき頂きました」 「ふーん…。飯」 「はい」 おかわりするのも解っていたから、おかわり用のご飯の準備もバッチリです。 大盛りにして渡すと、それもすぐになくなる。見てるだけでお腹いっぱいになりそう。先に食べてよかった。 「今日はどこへ行くんですか?」 「手っ取り早く金を稼ぐ」 「…稼ぎが悪くてすみません」 「そう思うならもっと頑張れ」 「はい。で、どこへ?」 「行く前に注意しとく」 「注意?」 「誘拐されんな」 「え?」 たくさんあった朝ご飯も全部綺麗になくなり、箸を置く。 丁寧に手を合わせ、「ごちそうさま」と頭を下げる。 頭をあげながら私を見てまた「誘拐されんな」と同じことを言った。 「誘拐もなにも…。ゾロさんが近くにいれば大丈夫だと思いますけど…」 「そうじゃねェ。とにかく誘拐されんな。探すのが面倒だ」 「解りました。一応気をつけますね」 深い意味が解らないまま宿屋を出て、街を歩き始める。 どこに行くのか私は解らないので、ゾロさんに任せる。任せるしかないのだが、どうも不安だ。絶対に辿りつけない。 「あの、因みにどこへ行きたいんですか?」 「…………どこだっけか」 「目的地すら解らないんですか!?」 それでよく平然と街を歩きだしましたね! 「ともかく、誰に会いたいか、どういったお店に行きたいとか、具体的な何かを教えてくれませんか?」 「ルフィって奴に会いてェ」 「凄く漠然ですね。ちょっと聞いてみましょうか。あの」 ルフィって人が有名な人じゃない限り、解らないと思う。 でも、だからってゾロさんに任せて探していると絶対に見つからない。 丁度前から人当たり良さそうな男の人がやって来たので、声をかけてみる。 するとゾロさんが「ゲッ!」と嫌そうな声を出した。 「何でしょう、可愛いお嬢さん」 「かわっ!?」 「と、マリモ坊主。テメェ何でここにいんだ?」 「それはこっちの台詞だクソマユゲ」 「お知り合いですか?」 「まさか!こんなグータラ坊主と知り合いなんて汚点だっつうの。それよりどうした?」 「おい名前。ソイツから離れろ。死ぬぞ」 「死ぬんですか!?」 「死ぬわけねェだろうが!」 掴み合いのケンカが始まりそうなぐらい険悪なムードが漂う。 人当たり良さそうだと思ってた男の人も何だか怖い…。 言い争う二人の横で、何をしたらいいか解らない私はただそれを見ていたが、「キャア!」と女の人の悲鳴に驚き、振り返る。 人混みが波のように裂け、誰かが走って来た。 「人殺しだー!」 ビクリと震える身体。も、もしかして私がこの街に来たから?でもゾロさんとずっといるはずなのに…。 いや、それよりあの人こっち来てる。しかも刀振り回してる! 「ゾロさん!」 「あァ?」 「なっろォ…。こんなとこで振り回してんじゃねェよ。レディに当たったら危ねェだろうが!」 そう言って金髪の男の人が私の前に立ち塞がった。 「悪いけどこれ持っててくれる?」 「あ、はい」 渡されたのは大量の食材。 背中を向け、走ってくる男に何かをする態勢を取った。 「どけェ!テメェも殺すぞ!」 「身の程をわきまえろよ、ド三流が」 刀を振り下ろす。だけど簡単に避け、下から一発顎に蹴りを食らわせた。 宙に浮く男と手放された刀。見事の言葉しか出てこない。 「す…ごいですね」 「ケッ」 だけどゾロさんは楽しくなさそう。というか機嫌悪すぎ。 「おお、サンジ!」 「おっせェぞルフィ」 そこへまた新しい男の人がやってきた。 赤い着物に麦わら帽子。十手を片手に持ってるということは、岡っ引きの人なのかな? ……あれ?今ルフィって言わなかった? 「ゾロさん、もしかしてあの人ですか?」 「丁度よかった」 「おお、ゾロまでいんじゃねェか!お前どうした?また戻って来たのか?」 私とゾロさんに気がついたルフィって人は笑顔で簡単に挨拶をすませる。 その間に金髪、サンジさんって言ってたっけ?サンジさんに荷物を返した。 「で、コイツは?」 「拾った」 「拾ったって…。ゾロさんと一緒に旅をしてるんです。名前って言います」 「そっか。よろしくな!」 「名前ちゃんか。マリモ野郎と一緒の旅なんて楽しくないだろ?」 「おいコラ」 「いえ、助けてもらってばかりで…」 「そうなのか?まァいいや。俺コイツ連れて行くから」 「あ、ルフィ。ちょっと頼みてェことがある」 「ん?いいぞ、じゃあ風車で待ち合わせな」 「「マジかよ」」 ゾロさんとサンジさんがハモって、私とルフィさんが笑った。 「ナミさんただいま!」 「お帰り、サンジ君。あらゾロ、アンタまた戻って来たの?」 「うっせェな…」 サンジさんに案内され、やってきたの風車というお店だった。 そこにはオレンジ色の髪の毛がよく似合う女の人がいて、どうやらこの人もゾロさんと知り合いらしい。 ナミさんでいいのかな?ナミさんは私を見るなり、驚いて目を見開く。すぐに近づいて、 「いくら破戒僧だからって誘拐はダメでしょ」 「ちげェよ!」 と言った。ゾロさんが周りの人にどんな目で見られているのか少し気になった。 サンジさんが言い争う二人を置き、店内に案内してくれる。 こじんまりしたお店だけど、いい匂いが店中に広がって思わずお腹が鳴った。 恥ずかしくて笑いながらサンジさんを見ると、「ちょっと待っててね」と厨房へ入って行く。 そしてすぐに出されたのは美味しそうな定食!あんな一瞬でできるなんて凄い! 「い、頂いていいんですか?」 「勿論」 「いただきます!」 サンジさんが作った定食は、今まで食べてきたどの定食より美味しい! 「おい、飯」 「マリモの食いもんなんて知らねェよ」 「んだと!?」 ナミさんとの会話が終わったゾロさんが私の隣に座って、サンジさんに注文するとまたケンカを始める。 ち、近くでは止めて下さい。 定食を持って、離れた場所に避難すると、ナミさんがお水を持ってきてくれた。 頭を下げるとニコッと笑い、隣に座る。 き、綺麗な人だな。ちょっと緊張する…。 「アンタよくゾロと旅できるわね」 「え?」 「だって極度の方向音痴でしょ?それに適当だし大雑把だし…。私だったら無理ね」 「アハハ…」 否定できない…。 「でも、不幸体質なアンタにとったら仕方のないことなのよねェ…」 「……聞いたんですか?」 「だってゾロが女の子と旅してんのよ?誘拐かと思って問い詰めちゃったわ。もしかして悪かったかしら?」 「いえ、構いません。あ、話が早くて助かります。私に触らないほうがいいですよ」 「でもゾロが近くにいると大丈夫なんでしょ?」 「直接はどうなるか…」 「ふーん…」 目を細めて見てくるナミさん。 実際“不幸”な場面を見てないと誰だって信じない。 慣れたことだけど、あんまりいい気はしないな…。 「はい」 「え?あっ…ダメですよ!私に触らないで下さい!」 箸を止め、目を伏せてると手を握られた。 突然のことで驚いたけど、すぐに手を振り解こうとしてみた。だけど離してくれない。 「全然大丈夫じゃない。それに、女の子に暗い顔は似合わなくてよ?」 ニコーっと笑ったまま手に力を入れるナミさん。 ……なんだかすっごい嬉しい、かも。 「ありがとうございます…」 「ま、実際見てみないと信じらんないけどね」 そう言って立ち上がり、まだ口争いをしていた二人の頭を一発殴り、説教を始めた。 強い人だな…。私もあんな人になりたい! 「おーっすナミ!飯くれ飯!」 「親分、ツケがたんまり溜まってるんですけど、いつになったら払ってくれるんですか?」 「今日はちゃんと持ってきたぞ!」 「サンジ君、親分に最高のご飯を用意して差し上げて!」 「メロリン喜んで!」 すぐに大量のご飯が用意され、ルフィさんは凄まじいスピードでそれを平らげていく。 それに負けず劣らずゾロさんも一緒になって食べる。 あれ?朝ご飯大量に食べましたよね? 「おいゾロ!そりゃあ俺の肉だ!」 「うるせェ。早いもん勝ちだ」 何だか楽しそうに食べるゾロさんを見たのは初めてで、私まで嬉しくなった。 ( ← | → ) ▽ topへ |