自由になれた日 「これを私に?」 「おうよ。お前のために作ったんだぜ!」 「ウソップすっげェ器用なんだ!」 風車のお休みの日。 私はゾロさんとのんびり縁側で日向ぼっこをしていた。 「いい天気ですね」「そうだな」の会話を何度かしていると、ドタバタと騒がしい足音を立て二人がやってきた。 そして数珠っぽいものを私に見せてきて、「やる!」と唐突に渡される。 「でもこれって何するものですか?」 「説明しよう!」 解らないと言う私に、ウソップさんが得意げに説明してくれた。 原理はよくわからないけど、これを腕につけておくと私の不運をこの数珠が吸ってくれるらしい。 「ほ、ほんとですか!?」 「嘘かどうか試してみようぜ!」 ウソップさんが私の腕に数珠をつけ、ルフィさんが私を担いでゾロさんから引き離す。 ゾロさんが「おい」と声をあげたが、楽しんでいる二人の耳には届いていない。 廊下を曲がり、ゾロさんの姿が見えなくなった。だけど何も起こらない。 「すごい、ほんとだ…!」 「すっげェなこれ!」 「さすが俺様!もっと褒めてもいいんだぜ」 「ありがとうございます、ウソップさん!」 姿も見えないし結構離れている。 それなのに何も起こらない! 嬉しくてウソップさんの手を力強く握ると、照れたように「よせって」と笑った。 「だけどいつまでこれが続くかわかんねェ」 「そうなんですか?」 「試作品つーことだ。それやるからまた感想聞かせてくれ」 「はいっ」 そう言って二人は仕事に戻って行った。 ウソップさんは凄いなー…。仕事もできるし、勇敢だし、面白いし、器用! 「ここにいたか」 「ゾロさん!見て下さい、何も起こらないんですよ!」 探しに来てくれたゾロさんに数珠を見せると、眉間にシワを寄せ、黙りこむ。 「これでゾロさんから離れても大丈夫ですね!」 「…そーだな」 「そうだ、ナミさんにも言ってこよう!あ、ゾロさんはお昼寝してていいですよ!私にはこれがありますからね!」 「そーかよ」 いつもだったら敏感なのに、このときは浮かれていたせいもあって、ゾロさんの機嫌が悪いのに全然気がつかなかった。 お店で帳簿と睨めっこしているナミさんのところへ向かい、今までのことを話す。 するとナミさんは自分のことかのように喜んでくれた。 「じゃあ女二人で買い物でも行きましょ」 「いいんですか?嬉しいです!」 「買いたいものもあるしね」 ウインクして、財布を取りに戻る。 私はお金がないのでお店で座って待ってると、サンジさんがやってきた。 私が一人なのに驚いてるので、サンジさんにも今さっきのことを話した。 「ウソップにしちゃあいいことしたな」 「はい!感謝してもしきれないです」 「あー…でも、面倒なことにはなりそうだな」 「面倒なこと?」 「アイツだよ。緑頭の坊さん」 「ゾロさんですか?え、何でです?」 「何でって…。こういうのは俺が言っちゃなァ…」 小首を傾げる私に、サンジさんは言葉を濁す。 するとナミさんが戻ってきて、私の腕を掴んで外へと飛びだした。 気をつけてね!と手を振るサンジさんに、私も振り返す。 「あいつ機嫌悪いわね」 「え?」 「そりゃあそうよね。でもこれぐらい許してほしいわ」 「ナミさん?」 「さて、名前。何が欲しい?少しだけなら奢ってあげるわよ」 ニヤリと笑うナミさんに、私の心は小躍りを始める。 ああ、こんな幸せな日がくるなんて…! 「おせェ!」 「ご、ごめんなさい!」 名前と買い物して、美味しいもの食べて、久しぶりに楽しい一日を過ごした。やっぱ女同士の買い物は楽しいわよねー。 お店に帰って来たのは夕方というより、夜に近い時間帯。 入るなりゾロが名前を怒鳴りつけ、隣にいた私も思わず驚いてしまった。いきなりなによ! 「ちょっとぐらいいいじゃない。せっかくウソップが「俺は名前に言ってんだ」 「ナ、ナミさん、先に部屋へ戻ってて下さい」 「だけど名前…」 「遅くなったのは確かだし、ゾロさんに何も言わず出てしまった私が悪いんです」 いや、名前は全然悪くない。だってこれが普通だもの。 それなのにあの男ったら名前が悪いって一方的に決めつけ、親のように叱りつける。 明らかに変な理由つけて怒るゾロに、私は溜息しか出てこない。 普通の子なら絶対怒ってるわ。名前相手だからできることよ、解ってる? ああ、他の子に興味なかったわね。名前しか見てない。 当人の二人は気づいてないみたいだけど、はたから見たらイヤでも解るわ。 「ハァ…」 名前がサンジ君と一緒に寝たり、ルフィの服着たり…。 嫉妬してるってことにまるで気づいてない。 だから不機嫌オーラ漂わして、名前がそれを勘違いする。悪循環ばかりね、あなた達。 「大体これがいつまで効くかも解んねェのにブラブラしやがって!」 「ううう…。気をつけます」 離れたくないのはどっちよ。確実にゾロのほうが強いじゃない。 でもそんなことあの男は絶対に言わない。名前が自分に依存するようしてる。そう見えて仕方ない。 ああ見えて結構頭では色んなこと考えてるのね。 「って思ってる場合じゃないわね。ゾロ、いい加減にして。名前、遅くなったけどご飯食べましょ」 「おいコラナミ!勝手に終わらすな!」 「何よ、しつこい男は嫌われるわよ」 「は?」 名前がアンタを嫌うわけないけど、もしもってこと考えてる? 名前だっていい歳した女の子よ?いつ素敵な人が現れるか解らないじゃない。ウソップから不運を吸ってくれる数珠も貰ったわけだし、いつ別れてもおかしくないわ。 だからもっと気をつけることね。 「バカかテメェは。んなことあるか」 「どっからくるのよ、その自信は」 注意してあげても全く聞きやしない。どんだけ自信があるのか小一時間ほど問いたいわ。 それとも、名前に近づく男は全部切り捨てる気かしら。 ………そっちか。大変な奴に好かれたわね…。 「あ、あの。荷物置いてきますね。それからご飯食べましょう。ゾロさんは食べましたか?」 「食ってねェよ」 「じゃ、じゃあ一緒に作りますね」 慌てて荷物を奥へと持って行く名前。 するとすぐに名前の悲鳴がして、二人で駆け寄る。 どうやら滑って転んで、頭を強く打ったらしい。 「どうやら効れたようね」 今日一日もっただけ有り難い。だけど短すぎた幸せな時間に、溜息を吐く。 それなのに隣の男だけは嬉しそうに笑っていて、名前を抱き起こす。 普段解りにくいのに、どんだけ嬉しいのよって言いたいぐらい解りやすい。 「残念だったな名前」 「短い時間でした…」 「ほら、持ってくんだろ」 「はい、すみませんゾロさん。せっかく自由になれたって言うのに」 「全くだ。もっと気をつけろ」 本当は嬉しいくせに。性格悪いったらありゃしない! ( ← | → ) ▽ topへ |