破戒僧パロ | ナノ

ガールズトーク


「名前のその体質どうにかならないかしら…」


風車が定休日のその日。私とナミさんは裏庭の縁側で取り込んだ洗濯物を畳んでいた。
ゾロさんは柱にもたれ、今日も寝ている。それでよく夜も寝れますよね…。
畳みながら他愛もない話をしていると、ナミさんが突如話題を変えてきた。
だけど私のことだし、何より私もどうにかならないか常日頃考えている。


「お寺に行っても無駄でした」
「そうなの?じゃあどうする気なの?」
「旅をしながら色んなことを聞いて回ってるんですけど、……見つからなくて」
「私もそんな体質を持った人の話なんて聞いたことないしなー…」
「ゾロさんと一緒にいられるのは嬉しいんですけど、始終一緒だとさすがに疲れちゃいますよね」
「あら、そうなの?」
「だってもっと好きに動きたいと思うんですよ。気にしなくてすむし」
「……ああ、ゾロのことね。そうでもないんじゃない?」
「そうでしょうか」


洗濯物を畳み終え、少し休憩を兼ねてサンジさんが持って来てくれてたお茶を手に取る。
美味しい料理を作れるうえ、お茶を淹れるのもうまいなんて…。
サンジさんってほんと器用だよね。凄い!


「でも、始終一緒にいるのはやっぱり辛いかもね」
「ナミさん?」
「だって名前だってやりたいことあるでしょ?あいつに隠しときたいことだってあるのに、そう言うのもできないじゃない」
「ええ、少しぐらいは…」
「私だったら無理ね。ヘソクリがバレたら終わりよ、終わり!」
「ナミさんは隠し事とか多そうですね」
「隠し財産ならたんまりあるけど?」
「さすがです」


フフッ。と笑うとナミさんも笑った。
お茶で口を潤し、「そうだ」とまた顔を輝かせて私を見てくる。


「名前、結婚したらいいんじゃない?」
「結婚、ですか?」
「そうよ!不運には幸運!結婚が幸運だとは限らないけど、名前なら結婚うまくいくと思うわ!」
「結婚…。そ、そうでしょうか…」
「そうよ。だってすっごく素直でいい子じゃない。文句も言わず黙ってついてきてくれるし、相手も立てる。私が男だったらもらっちゃうかもね」
「ナミさんと結婚したら生活が安定しそうですね。それに楽しそう!」
「でしょ〜?で、冗談は置いては名前は誰と結婚したい?」
「いきなりですか!?」
「ええ。だって気になるんだもん」


誰?と楽しそうな顔を近づけてくるナミさんに、顔を背ける。
結婚なんて考えたことなかった…。いや、考えたことあるけど、私なんかをもらってくれる人がいるなんて到底思えない。
そりゃあ私だって年頃の女の子だもん。好きな人を想像したことある。


「んー…じゃあルフィ親分は?」
「ルフィさんですか?」
「あんな性格だし名前の不幸も笑って吹っ飛ばしてくれるかもね」
「明るい人ですよね」


ルフィさんはいつでも笑顔だ。
優しいし、心も広い!それに感情表現豊かで、一緒にいてなんだか幸せな気分になれる。


「そうですね、ルフィさんと結婚してもいいかも…」
「ふふっ」
「どうかしました?」
「いやいや、何でもないわ。じゃあウソップは?」
「ウソップさんもいい人ですよね」


ウソップさんはルフィさんと違った明るさを持っている。
それに彼といたら毎日が楽しい!色んな話を聞かせてもらったり、色んなオモチャを見せてくれたり…。


「毎日が楽しそうですね!」
「そうね、うるさいけど憎めない奴だしね。最後にサンジ君は?」
「サンジさんは素敵な男性ですよね」


ルフィさんとウソップさんにはない魅力がある。
とても紳士的だし、優しいし頼りになる素敵な人。


「あんな風に愛を囁いてもらえると恥ずかしいけど、嬉しいです」
「アハハハ!」
「な、ナミさん?」
「ごめんね名前。ほんとごめん!」
「……私、変なこと言いました?」
「ううん、名前じゃないの。ほんと何でもないわ…!」


何でもないのに、何がそんなに楽しいんだろう…。
やっぱり変なこと言ったのかな。
お腹を抱えて笑うナミさんを見てると、後ろから視線を感じた。
振り返ると静かに寝ているゾロさんしかいない。
またナミさんに視線を戻したけど、やっぱり視線を感じる…。しかも鋭い…。


「あー、おかしい…」
「ナミさん…」
「やっぱり名前は結婚するべきよ!ね?」


笑って流れた涙を拭いならが、ナミさんが少し真剣な声で言ってきた。

確かに不運には幸運だと思う。それで私のこの体質が治るのであれば、今すぐにでも結婚したい。
だけど、誰と?と考えると、三人の顔がフッと消えてしまう。
結婚は一生のことだから真剣に考えたい。あの三人が嫌いなわけじゃないのに、結婚とは違う気がする。
それに結婚したらゾロさんと離れないといけない。これが一番寂しい。

あれ、一番?
……今まで一緒に旅をしてきたから?
私を唯一受け入れてくれたから?



「名前?どうかした?」
「……結婚はできないです」
「どうして?」
「結婚はしたいけど…。なんか誰と結婚したいとかそんなのありません」
「でもあの三人と仲いいじゃない」
「結婚、って感じじゃないんです…。変ですか?」
「…ううん、変なことないわ。そういうのあるもの」
「それに……」
「それに?」
「……あの、ゾロさんと離れたくないです」


ゾロさんと離れることを想像してみたけど、なんかできない。
変な気持ちになるし、離れたくないって言葉が一番に出てくる。
死ぬまで旅をしたいとは思わないけど、ゾロさんとならと思うと、なんかそれでもいい気がする。


「ずっとゾロさんと一緒にいたいです…」
「…そっか。いやー、真っ赤になっちゃって可愛いわねェ!」
「真っ赤になってますか?!」
「真っ赤っかよ。なに照れてんのよ」
「照れてるわけじゃないんですけど…。ああああ、もう自分でもよく解んないです…!」


手の甲で頬を触ると少しだけ熱かった。
何で照れてるのかな…!自分でもわかんない。


「じゃあゾロと結婚すればいいじゃない」
「ゾロさんとですか!?」


また顔が熱くなった気がした。
自然と身体に無駄な力が入り、手に汗を握る。
チラリとゾロさんが起きてないことを確認して、またナミさんを見ると、ナミさんもゾロさんを見て笑っていた。


「だ、ダメですよ!」
「どうして?」
「だって一応僧侶ですよ?それに私なんかと結婚して、不運が移っちゃったらどうするんですか…!」
「あら、親分達のときはそんなこと言わなかったのに、ゾロのときだけはそんなこと言うんだ」
「……ち、違います!ルフィさん達が別に不幸になれとかそんな…っ!」
「別に今の生活と変わるわけじゃないんだし、いいじゃない。傍から見てたら夫婦にも見えるわよ、アンタ達」
「夫婦ですか!?え、ど、どこが…?」
「行動全部が?て言うか名前、焦りすぎ。そんなにゾロが好きなのね」
「ナミさんッ!」
「ごめんごめん、謝るわ」


謝ると言いながらも、楽しそうなナミさんに私はなんて言ったらいいか解らず、熱い頬を手を冷ます。
ゾロさんが寝ててよかった…。


「ともかく名前がゾロを好きなのが解ったわ。よかったわね」
「え?」
「さて、洗濯物片づけましょうか」
「あ、はい」


お茶を飲み干し、お盆に乗せて片づける準備を整える。
その間にナミさんがゾロさんを起こしに近づき、珍しく乱暴に起こすことなく、しゃがんで優しく起こしていた。

……ゾロさんと結婚か…。
想像できないけど、多分今と変わらない気がする。
でも、もし…。ゾロさんと家庭を築けるなら…、本当に幸せかもしれない。


「アンタ解りやすすぎ」
「うるせェな…」
「なんなら結婚できるように持ってってあげようかしら?」
「金取る気満々だろ」
「勿論。でも、名前に幸せになってもらいたいから半額にしといてあげるわよ?」
「テメェの力を借りるまでもねェよ」
「あら、強気ね」
「まァな」
「ぞ、ゾロさんおはようございます」
「おう。用事は終わったか?」
「はい。…あの、ゆっくり寝れましたか?」
「まあまあだな。夢見はよかった」
「そうでしたか」


よかった、聞こえてなかったんだ…。
ナミさんを見ると笑っていたので、苦笑いを浮かべるとゾロさんに名前を呼ばれる。
持てない洗濯物を持ってもらい、部屋へと帰る。
ナミさんは自分の部屋へ。私とゾロさんは私達の部屋へ。
今まで意識してなかったけど、「夫婦みたいよ」とナミさんに言われ、変に意識してしまって何だかうまく動けないし、喋れない。
ギクシャクしながら洗濯物を箪笥(タンス)にしまい、沈黙が流れた。


「えっと…」
「どうした?」
「さ、散歩でも行きませんか?」
「ああ」


珍しいこともあるもんだ。
いつもなら面倒臭そうな顔を浮かべ、渋々付き合ってくれるのに、今日はちょっとだけ笑みを浮かべて素直に立ち上がった。


「行かねェのか?」
「い、行きます。すみません!」


先を歩くゾロさんの背中を見つめ、ほっと息をつく。
何だか緊張するし、どんな態度を取ったらいいか解らないけど、


「(ゾロさんと一緒にいるのは幸せだな…)」




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