破戒僧パロ | ナノ

無意識の言葉


「ゾ、ゾロさん…!ちょっと待っ…うわわ!」
「…。ハァ…」


グランドジパングにゾロさんとやって来て、数週間が過ぎた。
街の皆とはナミさんやルフィ親分を通して仲良くなって、心に余裕ができた。ここに住む皆はいい人だ…!

今日は風車屋の定休日で、ゾロさんと一緒に街を歩いていた。
大通りは相変わらず人が多く、いつまで経っても慣れない私は人混みに流され、地面に派手に転んでしまう。
その声を聞いたゾロさんは頭を垂らし、私の腕を掴んで無理やり立たせる。


「お前なァ…、いい加減人混みに慣れろ」
「す、すみません…。ぶつからないよう気をつけて歩いていたらつい…」


いくらゾロさんが近くにいるからと言って、私自身に触れたら何か悪いことを起きそうで…。
ここにいる人達はとてもいい人達ばかりだから、絶対に迷惑をかけたくない。
だから人に当たらないよう歩いている。そのせいでうまく先に進むこともできないし、何より歩き方がおかしい。
人混みに流され、転び、ゾロさんに助けてもらう。それを何度か繰り返している。
他人に迷惑をかけなくても、ゾロさんに迷惑かけてるよね…。


「次は気をつけます」
「本当かよ…」


最近の私は少し変かもしれない。
ナミさんと結婚の話をしてから、まともにゾロさんの顔が見れない。
なんか…、顔が熱くなるし、恥ずかしいと思ってしまう。
迷惑かけたくない。って気持ちも強くなった気するし、何より、


「(…手、繋ぎたい…)」


なんて思ってしまう…!
すぐにそんな考えを振り捨て、先を歩くゾロさんを早歩きで追いかける。
と思ったら、また転んでしまった。膝痛い…。


「名前」
「ごめんなさい!」


いつも以上に眉間にシワを寄せ、私を睨んでくるゾロさん…!
痛みより恐怖が勝り、涙目になりながらも立ち上がると、グイッと乱暴に手を掴まれた。


「え、……あの、ゾロさん…?」
「べ、別にそんなんじゃねェよ…!お前歩くの遅ェし、転ぶし…」
「……手、繋いでくれるんですね」
「だから!別に何もねェって!いいからさっさと歩け!」


そう言ってまた手の距離分だけ先に歩くゾロさん。
顔は見えなかったが、耳が赤くなっているのは解った。
手も少し湿ってる…。ああ、私もかも。


「やっぱりゾロさん好きです!」
「ば、バカ!こんなとこで言うな!」
「優しいし、強いし、頼りになるし…。さすがです!」
「黙れって言ってんだろ!」


怒りながら振り向いても、顔が真っ赤だから怖くない。
ああ、何でこの人はこんなにも私によくしてくれるんだろう…。
気まぐれかもしれないけど、私は構わない。ゾロさんが好きだ。


「―――名前?」
「え?」
「やっぱり名前じゃねェか!久しぶりだな!」


ゾロさんにバレないよう笑っていると、名前を呼ばれて足を止める。
すれ違った人も足を止め、私の横へと近づいて、笑顔を私に向けた。
誰だか一瞬解らなかったが、懐かしい声と人懐っこい笑顔に、昔の記憶が鮮明に浮かんできた。


「まさかグランドジパングに来てたとはな!」


話かけてきたのは昔、まだ私が一人で旅をしていたときに訪れた村にいた人で、誰も寄りつこうとしなかった私に唯一声をかけてくれた優しい青年。
懐かしさで自然と私も笑みが浮かび、繋いでいた手をスルリと解き、彼に近づく。
本当に懐かしい!まさか彼もグランドジパングに来てたなんて…!


「お前まだその体質なのか?」
「うん…。でも今はもう大丈夫なんです!ゾロさんがいるので!」
「……坊さん?」


私の後ろにいるゾロさんを見て、首を傾げる。
うん、見た目は少し僧に見えないよね。でも立派な僧です!
簡単にゾロさんのことを説明すると、彼は苦笑いを浮かべた。どうしたのかな?


「なんか怖い人だな」
「そう?優しいですよ?」
「うーん…。でも俺睨まれてるよな?」
「睨んで………るね、ごめんなさい…」


彼が私に近づき、小声で呟く。
彼に言われて私もゾロさんを盗み見ると、鋭い眼光で私と彼を睨んでいた…。
あれは怖い。それじゃなくとも普段あの顔に色々と勘違いされるのに…。


「あ、俺もう行くな!」
「忙しそうみたいですね」
「仕事が繁盛しててよ!じゃあ、また機会があった飯でも食おうぜ!」
「はい、楽しみにしてます!」


そう言って彼は変わることない笑顔で私に手を振り、人混みへと消えて行った。
私は最後まで手を振り続け、彼を見送っていると、


「他の男見てんじゃねェよ」


と視界を奪われ何も見えなくなった。周りがうるさいから声もよく聞こえなかった…。
驚いてゾロさんの名前を呼ぶと、舌打ちがすぐ後ろから聞こえ、思わず身体が震えた。


「あ、あの…。私何かしましたか?」
「……別に」
「じゃあこの手を離してもらえますか?」
「……」


無視ですか、そうですか。
解ってるけど、ゾロさんは人に指図されるのを嫌う。
でも…、視界を塞がれたら歩けないんですけど…。
何も喋らないゾロさん。私も黙っていると、少しして手を離してくれた。光りが眩しい…。


「あの男、誰だ」
「あ、すみません。昔の知り合いです」
「で?」
「で?……あ、あのそれだけですけど…」
「ふーん」


私の目を見ることなく、彼が消えて行った方向を睨んだまま…。
最近のゾロさんはよく解らない。
いや、グランドジパングに来てからこういったことが増えた気がする。
私、変なこと言ってるんだろうか?ああ、迷惑をかけていることは確かだ。
それじゃなくともずっと一緒にいてもらえるのに…。もっと気をつけないと!


「ゾロさん」
「何だよ」
「私、ゾロさんにいつも迷惑かけてますよね。ごめんなさい」
「…」
「でも私はゾロさんが傍にいないと寂しいです。……他人に迷惑かけますし」
「…」
「だから…、えっと、これからも迷惑かけるかもしれませんが、宜しくお願いします!」


改めて言うのっておかしいかな?
でもね、ゾロさんには毎日感謝してるんだよ。
気持ちをこめて頭を下げると、ゾロさんが少し笑った気がした。
すぐに頭をあげてゾロさんの顔を見るけど、背中を向けられていたので見れなかった。


「ま、どうでもいいけどな。それより酒買いに行くぞ」
「またですか?昨日も買ってませんでしたっけ?」
「飲んだ」
「早すぎですって!もっとゆっくり飲みましょうよ」
「無理」
「ダメです。身体のことを考えて今日は控えましょう!」
「うっせェなァ…。俺の身体なんだし好きにさせろよ」
「お金なんてありません」
「俺はある」
「ナミさんに取られてませんでしたっけ?」
「全部取られてたまるか」
「…ナミさんに言いつけてやる」
「ばっ、お前止めろよ!あいつ容赦ねェんだぞ!?」
「だからです。身体も健康になっていいですよね」
「……お前、性格悪いな」
「ゾロさんの為です」


ニッコリ笑うと、「そーかよ」と吐き捨てられ、また手を繋いだ。
この他愛もない時間が私は好きだ。
だけどゾロさん、残念です。そっちは酒蔵とは反対方向ですよ。
照れた顔に笑うと、また耳まで真っ赤にさせて大股で反対方向へと歩き出したのだった。







「他の男を見てんじゃねェ、と視界を奪われ何も見えない」
彼に強引にされる5題(確かに恋だった様より)




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