破戒僧パロ | ナノ

幸せの時間


「名前、調子はどうだ?」
「チョッパー先生。はい、もう大丈夫です」


身体を起こし、サンジさんが切ってくれたリンゴをゾロさんと一緒に食べていると、チョッパー先生が入ってきた。
あれから不思議なことに、一日で身体はよくなり、次の日には食欲も戻った。
これってやっぱりゾロさんが近くにいてくれたおかげだよね。


「うん、顔色もいいし大丈夫そうだ」
「ありがとうございます。あ、リンゴ食べますか?」
「え、いいのか?」


わーい。と目を光らせ、リンゴを頬張るチョッパー先生。
診察してくれてるときは真面目な先生なのに、甘いものには目がないらしい。まるで子供みたい。
食べるのに夢中になってるチョッパー先生を掴み、膝の上に乗せる。
「何すんだ!」って暴れるけど、可愛いので却下です。


「チョッパー先生あったかい」
「離せ!」
「やだ。病人のワガママぐらい聞いて下さいよ」
「こんなに元気なら病人じゃねェ!」


文句を言っても離しません。
先に諦めてくれたのはチョッパー先生で大人しく膝に座ってリンゴを食べ始める。可愛い。


「あら、面白い光景ね」
「ナミさん、チョッパー先生フワフワして気持ちいいですね」
「ええ、最高の毛皮よ。一体いくらで売れるんでしょうね…」
「ナミ!目がベリーになってるぞ!」


怯えだすチョッパー先生を抱きしめて、ナミさんと笑いあう。
するとぬくもりが消えた。


「出るぞ先生」
「いたっ。おい、いてェぞ!」


リンゴを食べながらゾロさんは小脇にチョッパー先生を抱え出ていく。


「アイツ、空気読めたのね。名前、身体拭いてあげる」
「ありがとうございます」


お風呂にはまだ入れないから、ナミさんに背中を拭いてもらっている。
そのときになると絶対に何も言わず部屋から出て行くゾロさん。
終わるとすぐに入ってきて、壁によりかかって寝る。
たったそれだけのことなのに嬉しいと感じてしまう。
「迷惑かな」って思うときもあるけど、「離れんな」って言われてから素直に甘えるようにしている。
ナミさんも「それでいいのよ」って言ってくれるので、最近ゾロさんに甘えてばっか。
機嫌も悪くない。寧ろいいみたいだし、風邪引いてよかったかも、なんて不謹慎なことを思ってしまう。


「服も脱ごうか。私の貸してあげるわ」
「そう言えばずっとこれ着てました…」
「これって親分のでしょ?」
「はい、借りたんです」
「洗って返しておくから」
「すみません、お願いします」


着替えるのも手伝ってもらい、ナミさんの着物に身を包む。
下着も着替え、久しぶりにサッパリした気分!
今ならご飯もモリモリ食べれそう!


「元気そうなのはいいけど、無理したらダメよ。まだ当分の間ジッとしてなさい」
「はい。でもご飯は食べれそうです」
「そう?じゃあサンジ君に言って増やしてもらっとくわ」


洗濯物を持って部屋から出て行く。入れ替わりにゾロさんとチョッパー先生が入ってきた。


「名前、今日の薬はこれだ。明日からはもういいぞ」
「やった。苦くて飲みたくないんですよね」
「苦くても効き目バッチリなんだからな!」
「解ってます。ちゃんと飲みます。チョッパー先生可愛いのに厳しいですよね」
「可愛いって言うな!俺は男だ!」


怒るチョッパー先生も可愛い。何だろう、この声と姿がいけないのかな?
また抱っこしようかと思ったら、「止めとけ」とゾロさんに制された。


「チョッパー先生、外の空気を吸いたいんですけど、出ても大丈夫ですか?」
「うん、それならいいぞ。ずっと部屋にいたら気も滅入るしな」
「よかった。ゾロさん、行きましょう!」
「しょうがねェなァ…」


また腰をあげ、私を背負う。
って、背負う?


「え、何してんるんですか…?」
「何っておぶってやってんだろ」
「しなくても大丈夫ですよ!歩けますって!」
「いいから黙ってろよ」


私を背負い布団にかけられていた羽織を持ち、家の裏庭のほうへと歩き出す。
チョッパー先生も一緒についてきて、「寒くないか?」と気遣ってくれる。
…やっぱり風邪引いてよかったな。ゾロさんは優しいし、チョッパー先生とも仲良くなれた。それに時々来るウソップさんも面白い話してくれる。
幸せだな。本当に嬉しい。


「あら名前。布団から出て大丈夫なの?」
「外の空気が吸いたくなって…」
「そ。そこまで元気になって安心したわ」


裏庭には今さっきまで着ていた甚平や下着、布などが綺麗に干されていた。
やること早いなー…。これでお店の看板娘も務めてるからなおさら驚きだ。
縁側に座り、空を見上げる。久しぶりに見た空に、思わず頬が緩む。


「ナミさん、休憩――あ、名前ちゃん!もう起きて平気なのかい?」
「サンジさん。はい、もう大丈夫です」
「それはよかった。おやつ作ったんだけど食べれそう?」
「食べます。食べたいです」
「了解しました。テメェらの分も持ってきてやるから感謝しろ」
「サンジ、俺綿あめ欲しい!」


サンジさんがおやつを持ってくる間、ナミさんが隣に座り、チョッパー先生を膝に乗せたまま色んな話をした。
ここへきてようやくナミさんの色んなことを知ることができた。
私もこの間村で聞いた面白い話をすると、チョッパー先生も一緒になって笑ってくれる。
ナミさんとは反対側の私の隣に座るゾロさんは静かに寝息を立てている。
だから、うるさくしないよう気をつけていたんだけど、彼は全く起きる気配がない。


「おー名前。元気になったのかー?」
「よっ!」
「ルフィさん、ウソップさん」


サンジさんと一緒に現れた二人。
簡単に挨拶を終わらせ、一緒におやつを食べながら、また話を続ける。
ルフィさんもウソップさんもサンジさんも真剣に聞いてくれる。
話が終わると今度はルフィさんやウソップさんが体験した面白い話を聞かせてくれ、またそれが面白くて笑った。

楽しい時間はあっという間に過ぎ、気がついたら太陽が沈みかけていた。


「ってヤベェ。夕食の準備しねェと…。名前ちゃん、ナミさん。食べたいものある?」
「私は何でもいいわ」
「私も大丈夫です」
「じゃあとびっきり美味しいもの作るからね!」
「名前、俺そろそろ帰るな。ちゃんと温かくして寝ろよ」
「チョッパー先生、いつもありがとうございます」
「……ふわああ…。何だ、お前らまでいたのか」
「坊さん、お前おしいことしたぞ」
「あ?」
「俺の超面白い話を聞きそびれちまったことだ!」
「どうせ嘘だろ」


サンジさんがお皿を下げ、一番にその場からいなくなる。
チョッパー先生も私の膝から下りて、帰って行った。
ゾロさんとルフィさんとウソップさんが騒ぐ横で、ナミさんがお昼あたりに干した洗濯物を取り入れ始める。
いい天気ともあって洗濯物はすっかり乾いており、ナミさんと一緒にたたむ。


「ルフィさん、これありがとうございました」
「あ、すっかり忘れてた」


たたんで返すと、何を思ったのか服を匂い出す。
ナミさんが洗ってくれたから臭くはないと思う…。どうしたのかな。


「これ、名前の匂いがする!」
「え?でもちゃんと洗ってくれたから…」
「んー、でもするぞ」


間違いねェ!と言ってルフィさんが顔を近づけ、私の首辺りの匂いをかぐ。


「ほら、やっぱ名前の匂いだ」
「そ、そういうことはしないで下さい、恥ずかしい…」
「そうよルフィ。さもないと犬に噛まれるわよ」
「い〜ぬ〜?」
「犬なんて飼ってたのか?」


首を傾げるルフィさんとウソップさん。
その瞬間、ルフィさんが持っていた甚平がスルリと抜け、地面に落ちる。
落ちた瞬間、ゾロさんがそれを踏む。
「あー!」と声をあげるルフィさんだったが、ゾロさんは「何だよ」と気付いてない。


「何すんだゾロ!踏むな!」
「ああ、わりィ。見えなかった」
「せっかく洗ってくれたのに…。ナミ、頼んだ!」
「いいわよ、一回百ベリーね」
「金取んかよ!」


泣く泣く汚れた甚平を拾い、かと思ったらハッと真剣な顔に戻る。


「やべっ、そろそろ戻らねェと。行くぞウソップ!」
「おうよ!じゃあな名前!また俺様の面白い話聞かせてやるぜ」
「楽しみにしてますね」


長い休憩だったわね。とナミさんは笑って、洗濯物を持ち部屋へと帰って行く。
残ったのは私とゾロさん。今さっきまで賑やかだったから寂しいな…。


「帰るか」
「そうですね」


またおんぶされるのは恥ずかしいので、「手を貸してくれますか?」と先手を打っておく。
数日寝ていただけで身体に力が入らないなんて…。人間って思ったより弱い生き物だ。
手を借り、立ち上がるとゾロさんがニーッと悪そうに笑っていて、手を離す。


「ジッとしてろよ」
「だから大丈夫なのに…」


腕を引っ張られ、ゾロさんの胸に抱きついたかと思うと、そのまま肩に担がれてしまう。
あの、これ結構苦しいんですけど…。気持ち悪いし。
って言っても無視をされるので、大人しくすることにした。
部屋に戻り、布団の上に降ろされる。


「寝ろ」
「ご飯できたら起こして下さいね」
「さァな」


自分も寝る体勢を整え、目を瞑る。
また寝るんだ…。
布団をめくり、横になる。
たくさん話したおかげで、何だか疲れた。
ちょっと寝て、サンジさんのご飯食べて、薬飲んで…。
あ、私が元気になったらどうするのかな。もうここから離れるのかな?
その前に皆に恩返ししたいな。特にナミさには迷惑かけちゃったし。


「また明日考えよう…」


冷たい布団が次第に温かくなり、私も寝てしまった。



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