ぐるぐる回って落ちる 身体が熱くて、息をするのがとにかく苦しかった。 目を覚ますと知らない天井がうつり、布団が何枚もかけられていた。 横を向くと桶と布があって、だけどすぐに何かが視界を塞ぐ。 触ってみると生ぬるい布で、私の額におかれてたんだと、ゆっくり理解する。 「あ、目が覚めたんだな!」 可愛い声が反対方向から聞こえたのでそっちを向くと、茶色の毛をした動物がいた。 青い鼻に角?なんだろ、鹿かな。 不思議に見てると、その動物は「大丈夫か?」と優しく聞いてくる。 動物って喋るんだっけ?世の中知らないことばっかだな。さすがグランドジパング。あ、次行った村でこの話しよ。 「俺はチョッパー。医者だ」 「鹿が?」 「鹿じゃねェ!トナカイだ!」 「トナカイさん?」 トナカイと鹿の違いがよく解らなかったけど、チョッパー…先生は真剣な顔で言ってくるので間違えないよう気をつけようと思った。 「覚えてるか?」 「……なにが?」 「今朝倒れたんだよ。ルフィに呼ばれて俺が来たんだけど、お前風邪引いてる」 「ああ、やっぱり」 「解ってたんならちゃんと寝てろよ!」 丁寧にツッコミ入れてくれるお医者さんだ。 やり取りが面白くて、口元だけ笑うと、また真剣な顔に戻って濡らした布を乗せてくれた。 「あの、ここは?」 「ここは風車の奥の部屋だ。ナミに言ってお前を寝かせてもらってる」 「そうですか…。ありがとうございます」 「お礼言われたって嬉しくなんかねェからな!このやろが!」 言葉とは裏腹に、嬉しそうな顔で小躍りを始めるチョッパー先生。 あらやだ、可愛い。風邪引いてなかったら抱きしめたい。 「あ、ゾロさんはどこに?」 「ゾロなら外にいるぞ。呼んでこようか?」 「いえ、部屋に入らないよう言ってもらえますか?」 大丈夫だと思うけど、うつったりしたら大変だもん。 「……いいのか?」 「え?」 「ゾロ、すっごく心配してたぞ?」 ああ、また面倒をかけてしまった…。 これ以上嫌われたくないのに。私ってほんと最悪だ。これじゃあゾロさんも疲れるはずだよ。 「いいんです。これ以上面倒かけたくないので…。お願いします」 「…う、うん。あ、ご飯は食えるか?薬飲まないと…」 「頂きます」 テキパキと回りを綺麗にし、静かに部屋を出ていく。 静まりかえる部屋に、何だか無性に寂しくなる。音が恋しい。 だから誤魔化すように目を瞑ると、また眠くなって、意識を失った。 「ご飯持ってきた……あれ、寝たのか?」 「おいチョッパー、名前ちゃん大丈夫なんだろうな」 「うん。ただの風邪だから二三日寝てればよくなる」 「まさか昨日言ったことが本当になるとはな…。おいクソ野郎。あれからちゃんと拭いてやったんだろう?」 「何で俺がそこまでしなくちゃいけねェんだよ」 「そこはお前ちゃんと世話してやれよ!俺がしてあげたかった!」 「ガキじゃねェんだ。それぐらい解んだろ」 「おーい、名前起きたかー?」 「ルフィ、声が大きい!病人の前だぞ!」 「わりィわりィ。お、チョッパーいいもん持ってんな。くれ」 「ダメだ!これはこの子が食べるお粥なんだぞ」 「チェー…。サンジ、俺もお粥食いてェ」 「バカか。……つーか、疑問に思ってたんだが、何で名前ちゃんがお前の服着てんだ?」 「名前の服が濡れてたから貸してやった。昨日寝る前に言おうとしたんだけど寝ちまってよォ」 「テメェのせいかクソ野郎!」 「おいっ、二人とも!静かにしろって!」 「元はと言えばクソマリモのせいだが、テメェにも原因がある!あとから名前ちゃんに謝れ!」 「わ、解った!引っ張んなよ!」 「バカかテメェは」 「何だと?」 「名前名前うっせェんだよ。どうであろうが、体調管理できてなかった名前のせいだろうが」 「…テメェ、本気でおろされてェのか?」 「昨日の続きやるか?」 「止めなさい!」 「ナミさん!」 「ッチ…」 「ナミ…!よかった…」 「病人の前で騒いでどうすんのよ。親分、ウソップが探してたわよ」 「あ、ヤッベェ!」 「サンジくん、お鍋が噴きこぼれてたわ」 「そうだった…!」 「チョッパー、薬はあそこにあるのでいいの?」 「うん。あれを飲んで大人しく寝てれば大丈夫だ」 「解ったわ。あとは私がやるから」 「ありがとな、ナミ!」 「いいのよ。青鼻先生は忙しいものね」 「せ、先生って言われても、嬉しくねェんだからな!コノヤロが!」 「ゾロは何もない限りそこから離れないで」 「便所はどうすんだよ」 「それぐらい我慢して」 「無茶言うな」 「全部サンジ君から聞かせてもらったわ。アンタってほんっと酷い男ね」 「あァ?」 「名前もよくこんな男と一緒に旅ができるわね。褒めてあげたいぐらいだわ」 「…よく解んねェけど。あの子がゾロは部屋に入ってくるなって言ってた」 「……」 「嫌われて当然よねー。風邪引いたうえに精神攻撃なんて」 「うっせェな…」 「じゃあ俺は帰るな。また何かあったら呼んでくれ」 「うん、宜しくね。さて、ちょっと起こしましょうか」 また優しい声がして、目を開けるとナミさんがいた。 笑顔のまま「大丈夫?」と声をかけてくれたので、「大丈夫」と答えると、ニコッと笑う。 「サンジ君がお粥作ってくれたわ。ちょっと無理でも食べて、薬飲んで」 力を入れ身体を起こすと、膝の上にお粥を乗せてくれた。 フラフラする私の背中を支えてくれるので、それに甘えながらお粥を口に入れる。 うん、美味しい。風邪引いてよかった。 冗談を言うとナミさんも「でしょ?」と笑う。 冗談言う元気は残ってる。大丈夫。 「でもごめんなさい。もういいです」 「もうちょっと食べてほしかったんだけど…。まあいいわ。薬飲める?」 「はい、これですね」 「この街で一番のお医者さんが処方してくれたものだからすぐに治るわ」 「…チョッパー先生?」 「そ。名医なの。照れ屋だけどね」 薬を口に含むととても苦く、水で一気に胃へ流し込む。ま、不味い…。 「あとはゆっくり寝てて」 「…あの、ナミさん」 「ん?」 「お部屋、すみません」 「いいのいいの。気にしないで。あとからアイツに請求するから」 「そ、それだけは止めて下さい…!」 請求の言葉に、また起き上がるとナミさんは驚いた顔をした。 濡れた布が布団に落ち、少しずつ湿らせていくけど、今はそんなことどうでもいい。 「ゾロさんに、これ以上…迷惑かけたくないんです…。だからお願いします…。お金はあとから私が払いますから」 「…ごめん、冗談よ」 私の肩を押して寝かせようとする。 抵抗することなくまた布団に寝転び、冷たい布を額に乗せてもらった。 「ねェ名前。これ以上ってどういう意味?寧ろゾロがアンタに迷惑かけてない?」 「ゾロさんが?それはないです」 「え?」 「私ぼんやりしてるから知らないうちに迷惑かけてるんだと思います。それに、私今まで人と付き合うことなかったら相手の気持ちを汲み取ったりするの下手だし…」 「うーん…。そんなことないと思うけどな…」 「そうなんです。だって……お前といると疲れるって…」 「それは、えっと、ちょっと意味が違うって言うか…」 「嫌われたくないんですけど、もう、ダメ…みたいで…。どうしようナミさん…、私、ゾロさんに嫌われたら」 きっと生きていけない。 そう言おうとしたけど、また強い睡魔に襲われて眠ってしまった。 ( ← | → ) ▽ topへ |