破戒僧パロ | ナノ

見えない恐怖


「さすがだな!」


ルフィさんがいるという場所に手配書の男を連れて行くと、真夜中だって言うのに、ルフィさんは昼間と変わらず元気いっぱいだった。
男を引き渡し、お金を貰ったゾロさんは私に渡してきた。
私はお金を確認して大事に荷物の中に収め、また背負い直す。
するとサンジさんが近づいてきてニコッと笑う。


「名前ちゃん、風邪引かないようにな」
「はい。サンジさんも気をつけて下さい」
「もし引いたら美味しいお粥持って行くから!」
「ほんとですか?サンジさんの作る料理は美味しいから風邪引いてでも食べたいです」


冗談を言いながら笑っていると、隣から鋭い視線を感じ、うまく笑えなかった…。
今ゾロさんの顔が見れない…。

「お前といると疲れる」って言われ、それが胸に引っ掛かったまま。
怒りを通り越し、呆れられてしまった…。そう思うと昨日みたいに胸がキュッとなる。
ネガティブな考えがまた巡って、どうしたらいいか解らない。あの時のゾロさんの言葉が信じられないよ…。


「名前どうした?顔くれェぞ?」
「ルフィさん…。いえ、何でもないです。真夜中だからちょっと疲れちゃって…」
「じゃあここ泊まってくか?どうせ俺しかいねェし構わねェぞ。ゾロも泊まっていけよ」
「そうだな。宿も決まってなかったし丁度いい」
「ゾロさんが泊まるならお邪魔します」
「俺は帰るぜ。じゃあね名前ちゃん」
「はい、ありがとうございました」


手を振ってサンジさんと別れる。
サンジさんっていい人だな…。料理も美味しいし、優しいし…。こんなに良くしてくれた人初めてだ!


「あ、わりィ。布団一つしかねェんだ」


私とゾロさんが寝る場所を作るため、奥へ行ってたルフィさんが顔だけを出して謝ってきた。
ゾロさんがすぐ、「あァ構わねェよ。なァ名前」と言ってきたので、顔を見ることなく「はい。ルフィさんだって疲れてるでしょうし、使って下さい」と答える。
それがよくなかったのか、ゾロさんがずっと私を見てくる…。視線が痛い…。


「野宿に慣れてるので平気です」


その視線から脱出したくて、ルフィさんに近づきながら言うと、ルフィさんは明るい笑顔で謝りながら、毛布を引っ張りだす。
元々仮眠だけを取るところなので、毛布はあるらしい。
奥の座敷にあがり、毛布を身体に巻いて壁に寄りかかる。
川に入ったから寒いんだよね。着物脱ぎたいけど、変えの服はないし我慢しないと。


「おい、何してんだ」
「え?寝ないですか?」


ふう…と息をついて寝ようかと思ったら、同じく壁に寄りかかり寝る体勢のゾロさんが声を低くして話しかけてきた。
また心臓がドキドキと騒ぐ。変なことしたのかな…。


「何で……。何でもねェ」
「あ、はい…」


ムスッと機嫌悪く吐き捨てられた。
そんなゾロさんを見て、ルフィさんが「何で怒ってんだァ?」と話しかけるけど無反応。
代わりに私を見てきたので、笑顔で返事した。


「名前、布団に入りたかったら入ってきていいぞ!」
「大丈夫ですよ。それに着物濡れてるんで…」
「濡れてんのか?何でだ?」
「川に落ちちゃったんです」
「ゾロから離れたらいけねェんだぞ!」
「すみません、気をつけますね」
「おう!」


うつ伏せになって、枕に顎を乗せ、話しかけてくるルフィさん。
そんな他愛もない会話をしてると、ゾロさんから険悪な空気が若干薄まった気がした。
寝たのかな?って見るけど、よく解らない。
またルフィさんを見ると、彼は涎を垂らしながら寝ていて、その顔が本当に子供っぽかったのでクスリと笑ってしまった。
私も毛布をかけ直し、ゆっくり目を閉じる。ちょっと寒いな…。でも寝れないことはない。
明日はどこに行くんだろう。
そんなことを考えていたら、いつの間にか意識が飛んでいた。





「……」


ふと意識を取り戻した。
外はまだ暗いし、多分今さっきからそんな時間が経ってないと思う。


「寒い…」


身体を小さくさせ、自身を抱きしめる。
それでも寒く、眠れない。
気分直しにトイレにでも行こうと思ったが、ゾロさんの前を通らないと部屋から出れないことに気がつく。
きっと目の前を通れば起きてしまう。そしたら絶対に怒る…。でもトイレ行きたい…。
しばらく格闘し、「静かに通れば大丈夫」と根拠のない答えが出た。
音を立てないように、四つん這いで移動する。だけど、


「便所か?」
「うっ…」


やっぱり気づかれました。
爆睡してるのに、絶対起きますよね。ちゃんと寝ることってあるんだろうか…。


「はい」
「転げんなよ」
「気をつけます」


トイレはすぐ近くなので、わざわざ近くまで来てもらうことがない。
気は楽だけど、起こしてしまって申し訳なかった。
……でも、機嫌悪そうじゃなかったかな?


「おやすみなさい…」
「おう」


また元の位置に戻って、目を瞑る。
今日は「おやすみ」って言ってくれなかった。普通のときと一緒だ。
この街に来てから時々様子がおかしいゾロさん…。
あの言葉をまた思い出し、目が冴えそうになったけど、明日のことを考え無理やり眠りについた。




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