盃兄弟 | ナノ

楽しい時間は大切に


冷たい風が頬を撫でる。寒いを通り越し、ピリピリと痛むが、走るスピードは落とさなかった。


「約束の時間過ぎちゃう…」


今日は、サボお兄ちゃんとエースお兄ちゃんとルフィとマルコさんと私で、食べ放題のお店に行くことになっている。
しかもマルコさんの奢り!
いつもご飯を食べさせてもらってるだけじゃ割りに合わないから。って誘ってくれたんだけど、食材を提供してくれるからそんなことない。
私はそれをもらって調理してるだけだし…。
そう言ってもマルコさんは、「ガキは遠慮すんじゃねェよい」と言って頭をぽんぽんと撫でてくれた。
エースお兄ちゃんが怒ってたけど、私は嬉しかったな。お父さんってあんな感じなんだろうか?


「待ち合わせ場所はコンビニだったよね…」


学校も終わり、さあ帰ろう!と鞄を持った瞬間、クロコダイル先生に呼ばれて雑用を押し付けられた…。
他にも色々邪魔され、約束の時間を少し過ぎてしまった。
待ち合わせ場所は食べ放題のお店の近くにあるコンビニ。
本当だったら私が一番につくはずだったけど、きっともう皆来てる…。
こういうとき携帯があったら連絡できたのにって思うけど、欲しいとは思わない。


「いらっしゃいませー」


コンビニに入ると店員さんの声が私を出迎える。
入ってすぐに雑誌コーナーへ向かうと、やっぱりいた。


「遅れてごめんなさい!」
「お、やっと来たか!遅ェから心配したんだぞー!」
「珍しいな、名前が一番遅いなんて。どうかしたか?」
「遅ェぞ名前ー!俺腹減ったー!」
「お疲れさん」


エースお兄ちゃんが私に抱きつき、サボお兄ちゃんが雑誌を持ったまま私に近づき、ルフィがしゃがんだままブーブーと文句を垂らし、マルコさんが一番まともに迎えてくれた。


「クロコダイル先生に呼ばれて…」
「あいつ名前のこと好きなんじゃねェのか?よし、教育委員会に連絡してやろうぜ!」
「バカか。ともかくお疲れ名前」
「……」
「名前?」


エースお兄ちゃんは私に抱きついたまま、冷たくなった手を握ってくれる。
サボお兄ちゃんはまだ雑誌を持ったままいつものように笑っている…。
その横でマルコさんは騒いでいるルフィを宥めていた。


「あのね、サボお兄ちゃん」
「ん?」
「……エロ本広げたまま目の前に立たないでよ…」
「ああ、悪ィ」


恥ずかしげもなく、爽やかに笑うサボお兄ちゃん…。
エロ本見ることに関して文句は言わないよ。だって男の子だもん…。
でもね、だからって妹の前で堂々と見るのは止めてほしい…!何その潔(いさぎよ)さ!


「なんだよ名前。エロ本なんかより私を見てー!って言いてェのか?大丈夫、俺は名前相手なら勃つ自信ある!」
「エースお兄ちゃん最低」
「そんな冷たい目でお兄ちゃんを見ないで!」
「自業自得だろ」


うわああん!と泣き真似をしながらルフィに泣きつくエースお兄ちゃん。
サボお兄ちゃんはようやくエロ本を戻して、……また新しいエロ本を広げた。だからっ!何で妹の前で堂々見るの!?


「俺、名前に嫌われたら生きていけねェ!」
「ししし!エースは名前好きだもんなー。俺もエースのこと好きだぞ!」
「ルフィ…!お前って奴ァ…、なんていい子に育ったんだ!」
「重度のブラコンだな」


マルコさんの冷静な突っ込みに、ルフィとエースお兄ちゃんは笑った。
そしてサボお兄ちゃん同様、エロ本に手を伸ばすエースお兄ちゃん…。ほんと、最低…。


「俺やっぱ胸がでけェほうがいいな」
「エースはおっぱい好きだよな」
「ガキかよい」
「じゃあマルコはどこが好きなんだよ」
「形」
「は?」
「胸であれ尻であれ、形がいいもんがいい。二の腕がプニプニしてるのも好きだな」
「マルコさんはマニアックですね。気持ちは解りますけど」


マルコさんまで一緒になって…!
三人で盛り上がっている横で、一人静かなルフィ。
ルフィの横に並び、しゃがんで手元を覗くとジャンプを広げていた。


「……ルフィはエロ本見ないの?」
「ん?ああ、だって裸になってるだけじゃねェか。それより見ろよ名前!これすっげェ面白いぞ!俺も冒険してェなァ…」


ああ、ルフィはなんていい子なのかしらっ…!
少年心を忘れないルフィに目が潤んでしまった。
どうか、エースお兄ちゃんやサボお兄ちゃんみたいな大人にはなりませんよーに!


「私も一緒に見ていい?」
「おう!」


肩を並べて二人で読む。ルフィは読むペースが遅いから(文字を読み、理解するのに少し時間がかかる)なかなか進まないけど、これはこれで楽しい。


「……暗い…」


すると手元が暗くなり、文字が読み取れなくなった。
不思議に思ってルフィと一緒に振り返ると、三人が顔を揃えて私達の手元を覗き見ていた。
ビックリした…!三人とも身長が高いから、壁みたいだった。
さすがのルフィもビックリして、「何してんだ?」と恐々ともらす。


「おいルフィ、早く続きめくれよ」
「ルフィは読むの遅いからなー…」
「いや、遅すぎだろい」


……一緒に見てるのか!
何も一つの雑誌を五人で見なくともいいじゃない…。
っていうか影になって見れないから。身長と体格を考えて下さい!


「ルフィに構ってずるい!俺と一緒に見ようぜ!」
「エースはうるせェから俺と見よう」
「漫画ごときで何言ってんだいテメェら」
「マルコさんの言う通り!自分達で見て下さい」
「「えー!」」
「えー。じゃありません。………って、漫画見てる場合じゃないよ!食べ放題の時間過ぎるよ!」


コンビニにかけてある時計を見ると、食べ放題の時間帯が迫っていた。
そうだ。ゆっくりしている場合じゃないよ!
予約はしてるから食べられるけど、開始時間までに行かないと!過ぎた時間は延長してくれないからね。
ルフィが持っていた雑誌を戻し、急いでコンビニから出る。
そう遠くないから大丈夫だけど、早目にお店に入っておきたい。一分一秒無駄にしたくないもんね!


「よーし、たっくさん食うぞォ!」
「ルフィ、どっちがたくさん食えるか勝負しようぜ!」
「おうっ!望むところだ!」
「名前、今日は遠慮せずいっぱい食うんだぞ」
「うん、もちろんそのつもり。マルコさん、ありがとうございます」
「いつも世話になってるからな。それに俺も一度ぐらい行ってみたかったから丁度いいよい」
「一人で行くのは少し寂しいですからね。だからと言って名前を食事に誘わないで下さい」
「……バレてたのかい」
「バレないと思ったマルコさんがおかしいです」
「さすが重度のシスコン。名前、苦労するよい」
「私も三人が好きですから」
「ああ、こっちも重度のブラコンだったな。ご馳走様」


お店につくまでは、のほほんとした空気が流れたけど、お店についてからはそんな空気はなくなり、食べることに全神経を集中させました。
店員さん達はエースお兄ちゃんとルフィの食べっぷりに涙目になってたけど、マルコさんとサボお兄ちゃんも大食で、お店にあったほとんどの料理を食べつくしてしまった。
私は元のお金分ぐらいは食べれたけど、四人ほどではない。
そのせいで、まだ制限時間が残っているのにも関わらず、店長直々に「お帰り下さい」と涙を流しながら頭を下げられ、早々にお店を出た。


「大体予想はしてたよい」
「俺もっと食えるぞ!」
「俺だって食える!マルコー、居酒屋行こうぜー!」
「バーカ。名前とルフィがいるだろうが」
「酒飲まなかったらいいだけの話だろ!」
「お前らと一緒だったら金がなんぼあっても足りねェよい」
「「ぶーぶー」」


口を揃えるエースお兄ちゃんとルフィ。ほんと、こういうとこそっくりだよね。
暗くなった道を、五人で遊びながら帰っていると、空から雪が落ちてきた。
ああ、通りで寒いと思った…。
冷たくなった手に息を吹きかけると、マルコさんが私の手を取り、足を止める。


「マルコさん?」
「貸してやるよい」


そう言ってつけていた手袋を私に貸してくれた。
素直にそれを受け取って指を通すとマルコさんの体温がじんわりと広がる。


「ありがとうございます」
「なァに。気にすんな」
「ちょっとマルコさん。うちの可愛い妹に手ェ出さないで下さいって言ったばかりじゃないですか。ほら、名前。お兄ちゃんと手繋ごう」


マルコさんと私の間に割って入ったサボお兄ちゃん。
私の返事を待たずに手を握り、サボお兄ちゃんのポケットに手を突っ込まされた。
手袋越しでも伝わってくるサボお兄ちゃんの体温。でも若干冷たい。


「あ、ずりィぞサボ!名前、俺とも繋ごう!」
「俺も名前と繋ぎてェ!」
「ルフィはいっつも一緒に寝てるだろ!」
「おう。今日も一緒に寝る約束したぞ!」
「ずるい!俺も名前とルフィの間で寝たい!」
「俺は名前とエースの間で寝てェ!」
「ルフィ…!よし、じゃあ今日はその形で寝るぞ!」
「おーっ!」
「じゃあ名前の反対側は俺だな」
「最近のサボお兄ちゃん腰とか触ってくるからヤダ」
「仕方ねェよ。男の子だもん」
「最低」
「……逆にそれだけで我慢してるサボがすげェよい」
「でしょう?ほら、名前。もっと俺を褒めてよ」
「最低」
「最低よ、サボ!」
「最低だぞ、サボ!」
「うるせェバカ兄弟」


たくさん食べてお腹いっぱい。たくさん笑って胸もいっぱい。
今日はとても素敵な一日を過ごすことができました。
どうか、明日も楽しい一日になりますよーに!






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