盃兄弟 | ナノ

そういうことも大切に…するな!


「名前、ビデオ見よう!」
「ビデオ?」


ルフィの太陽のように眩しい笑顔で言われたら、「やだ」なんて酷いこと言えるわけがない。
夕食の準備も終わり、学校の課題をしているとどこからか持ってきた一本のDVDソフトを私につきだす。
我が家にDVDレコーダーなんて高価なものはないので、隣に住むマルコさんからルフィが借りてきた。
我が弟ながらその行動力の速さに感服です。きっと兄二人に似たんだと思う。


「んー…どうやって入れんだ?」
「ルフィ、なんのビデオ?」
「知らねェ。サボとエースが見てた」
「二人が?」
「名前ー、これどうやって入れんだ?」
「ふふっ、貸して」


トレイを開き、指紋をつけないようセットする。
パッケージにもDVD本体にもタイトルは書かれてなかったので、どんな映画なのは解らない。
ルフィは隣で横になって煎餅を頬張る。
どんな映画かワクワクしながらテレビをジッと見つめたが、映ったのはとんでもない映画だった。


『あ、あの…。私処女なの…。黙っててごめんなさい…!』


最初はちょっと過激なラブロマンス系かと思ったけど、進むにつれどんどんそういう系へと進んでいくではないか…!
「エロビなのでは?」と疑問を抱くころにその台詞。展開は早く、あっという間にそういうシーンへとなった。
固まる私だったけど、視線だけは動かすことができたのでルフィを見ると、なんとルフィが食い入るようにテレビを見ているではないか!
な、なんで!?ルフィは純粋でこういうのに興味がないはずでは!?
いやあああ、兄二人に似ないでルフィ!


「あ、あの…ルフィ…?」
「解った!」
「なっ、何?」


起き上がってテレビで涙を流しながら腰を揺らしている女性と私を何度か見比べ、ニィ!と白い歯を見せる。
ドキドキと変な緊張が身体中を走った。


「この女と名前、すっげェ似てる!」
「……へ?」
「だからよ、この女と名前「二度言わなくていいよ!」


慌ててルフィの口を手で抑えると、思った以上に力が入っていてルフィを押し倒してしまった。
ルフィの上に乗るようになった私とテレビをまた見て、「態勢も一緒だ」と笑うルフィ。
カッ!と一気に熱が顔に集まってどうしたらいいか解らず、涙を目に浮かべる。
は、恥ずかしいしなんか怖いし、緊張するし解んないよッ…!


「名前?どうかしたか?」
「っ!」


泣いている私を不思議に思ったルフィが手を伸ばしてきたけど、怖くなって身体が震えた。
さらに「意味が解らない」と言った顔になるルフィに、涙が止まらなくなった。
違う、ルフィが怖いんじゃない。でも怖い…!


「ただいま名前、ルフィ!」
「静かにしろよエース。ルフィ、名前ただいま」


気まずい雰囲気の中、長男二人が帰宅。
この態勢はまずい。ビデオもまずい!
消そうとルフィの上から動こうとしたけど、腰が抜けて動けなかった。
そうしている間にも二人が部屋にあがり、私とルフィを見つける。


「……な、ナニしてんだお前ら!」
「落ちつけエース。こういうときはまず服を脱げ」
「サボこそ落ちつけ!何ちゃっかり参加しようとしてんだ!」
「よっ!おかえり、エース、サボ」
「ルフィ!お前は落ちつきすぎだッ!」


腰を抜かした私をエースお兄ちゃんが抱っこして、イスに座らせてくる。
ルフィはサボお兄ちゃんに正座させられた。目の前には取り出したDVD。
エースお兄ちゃんもサボお兄ちゃんの横に座って、険しい顔でルフィを睨んでいた。
ルフィは口を尖らせ、小さくなっている。


「ルフィ、お前だって男の子だ。それに対してとやかく言うつもりはない」
「サボは意味わかんねェことばっか…」
「サボはエロビは見ていいけど、名前と一緒に見るな!って言ってんだ!」
「だって二人がこれ「最高だったな!」って言ってたから俺も見たくなったんだ!」
「うわっ、お前聞いてたのかよッ!」
「だからって何で名前と…」
「面白ェなら名前と一緒に見てェだろ!二人ばっか楽しむのずりィぞ!」
「ルフィ、お前が純粋なのはよく解った。でも頼むからそれ以上喋るの止めてくれるか?」
「頼むから喋んな!」
「そしたら名前そっくりな女がいきなり脱ぎだしたんだ!俺は悪くねェ!」
「だから喋んなって!」


慌ててエースお兄ちゃんがルフィの口を抑えようとするけど、ルフィが怒ってエースお兄ちゃんに噛みつく。
寝室で暴れる二人を見たサボお兄ちゃんは、壊れないようにと今さっきのDVDを後ろに隠したのを私が奪う。


「……名前、ごめん」
「ごめん?何に対しての謝罪か私には解らないよ…。隠してたこと?私似だったこと?ルフィにバレたこと?」
「全部とその他諸々…」
「バカ兄二人、そこ座れ!ルフィは離れてなさい!」
「「はい」」
「名前こえェ…」


ルフィの教育上と自分達の部屋がないからエロビは禁止だってあれだけ言ったのに…!
私がどんな思いしたか解る?!恥ずかしかったし意味解んないし怖いし緊張したし…!今でも手震えてるの!ほらッ!
何よりルフィを怖がった自分が情けない!可愛いルフィを拒絶した私のバカ!
しかも私似とかなんなの!?そんなもの見ても楽しくないでしょ!?


「「最高に興奮した」」
「最低!当分の間顔も見たくない!」


二人の目の前でDVDを割ると同じような悲鳴をあげた。
もう最低だよこの長男ズ!家出させて頂きます!
簡単に荷物をまとめ、家を飛び出す。後ろで名前を呼ばれているけど無視無視!


「こんばんは、マルコさん!夜分遅くにすみません!」


出て行ってすぐ隣に住む小説家マルコさんの扉を叩く。
返事があって、扉を開けてくれたので間髪いれず中に上がらせてもらって、すぐ扉を閉める。
ドンドン!と扉を叩いているのはバカ兄二人。


「どうしたんだい?」
「家出しました。当分の間ここに住まわせて下さい。家事は全部しますんで」
「そりゃあ俺は助かるが…。ケンカかい?」
「外のうるさいバカ二人に聞いて下さい!お邪魔します!」


失礼ながらも勝手にあがらせてもらい、マルコさんの仕事部屋へ入る。
たくさんの紙や本などが乱雑に積まれていて、私達の部屋と同じ構造だというのに別空間に感じた。


「少しはマルコさんを見習えばいいんだ!」


でもルフィには悪いことしちゃったな…。
ルフィはエロビだと解らず誘ってくれたわけだし…。
明日ルフィのお弁当は作ってあげよう。うん、そうしよう!


「で、あの妹をどうやったらあそこまで怒らすことができんだい」
「ちょ、どけよマルコ!名前に会わせろ!」
「うちの事情ですから…。名前ー、出てこーい」
「理由によっては味方してやるよい」
「……名前似のエロビが見つかっちまった…」
「は?」
「エースが見つけたんですが、それがかなり名前に似ててこの間見たんです。それをルフィに見つかって今さっき一緒に見てました」
「…なるほどな。そりゃあ残念だったな」
「ほら言ったぞ!さっさと名前を出せ!」
「一つ条件がある」
「何ですか?」
「俺にも見せろい」
「「名前、今すぐそこから出てこい!」」



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