クリスマス夢 | ナノ

面倒を見てくれる人の話

マルコは言わずもがな超過保護で、名前バカ。
エースもいい兄だが、虐めたり泣かせたりすることが多い。あとちょっとシスコン。
ハルタもいい兄。というより、友達に近い感覚。
イゾウはマルコに続く過保護者。敵に回すと厄介なタイプ。
そして意外と知られていないが、サッチは面倒見のいい兄ということだ。

名前を扱き使うことはあるが、女だと知ってから絶対に無理なことはさせない。
重たい荷物はできるだけ自分で運び、名前には名前が持てそうなものを運ばす。
名前がワガママを言ったり、悪いことをしたらちゃんと叱る保護者でもある。(マルコは鬼になりきれない)
暇な時間ができれば修行に付き合うこともあるし、一緒に料理を作ることもある。
白ひげ海賊団の中で一番まともな保護者である。(白ひげは放任主義)


「ほら名前。しっかり運べよ」
「はい。…んしょ」
「…。おい名前」
「どうかしましたか?」


新しい島につき、四番隊の隊員達と一緒に物資を船へとつぎ込んでいたその日。
サッチは名前には名前が持てそうな荷物を持たせ、運ばせていた。
中には軽めの食材だけが入った木箱で、他の仲間達に比べて一番小さい。
これがマルコだと、もっと軽めの木箱だったり、エースだともっと重たい木箱だったりする。
仕事をするときはちゃんと真面目にする。これがサッチのポリシー。持続力はあまりないが。


「お前、元気ねェな。どうかしたか?」
「そうですか?」


いつもなら「重たいですよー」とブツブツ文句を言いながら運ぶのに、今日はやけに素直だった。
不思議に思ったサッチが名前の肩を掴み、自分に向かせるとキョトンとした顔で見上げてくる。
名前も普通だし、何もないと思ったが、ジッと見ると頬がほんのり赤い。
手の甲を頬に当てるとやっぱり温かい。
もしかして。と思うが、名前は意味が解らないと言った顔。


「おいお前ら、ちゃんと仕事してろよ」
「へーい」
「名前、部屋に戻るぞ」
「へ?でもまだ仕事が…」
「悪くなる前に寝とけ!じゃねェと保護者がうるせェんだよ」


名前から木箱を奪い、近くにいた隊員に渡して名前の腕を掴んで歩き出す。
サッチの歩くスピードについていけない名前が何度も転びそうになると、溜息を吐きながら肩に担がれる。
前は見えないが、過ぎていく背景はとても見覚えがある。


「特別にベット貸してやるから大人しくしてろ!」
「サッチさんの部屋…?」


ついたのはサッチの自室。
そう言えば久しぶりにサッチの部屋に来たと、部屋をキョロキョロ見渡す名前に、サッチは名前の額をペチンと叩いて無理やりベットに寝かせる。


「ナースさん達もいねェし困ったな…。とりあえず様子見て……、いや先に薬か?風邪引く奴なんていねェからあるかなァ…」
「風邪?サッチさん風邪引いたんですか?」
「テメェだよ!」


バカか!と声を上げるサッチに、名前は驚いて目を瞑る。


「俺風邪引いてませんよ?」
「頬がほんのり熱い。あと元気がねェ。ともかくそこで寝てろ。体温計取ってくる」


起き上がろうとする名前を抑え、シーツを適当に乗せて「起きるなよ」と釘を刺す。
適当にベット近くを整理し、部屋を出て行ったサッチ。
残された名前は重たいシーツに耐えながら悶々と考える。

風邪を引いたと言われ、自覚すると身体がしんどくなってきた。
そう言えば今日起きたときから気だるい感じはあったが、風邪だとは思ってなかった。
昨日からナースもいないし、マルコやエースも街に遊びに行ってるから寂しいんだと思っていた。


「しんどい、かも…」


風邪を引いたのはいつ以来か考えてみたが、それすらも面倒くさくなる。
寒気が名前を襲い、シーツを口元までかけ直したが、寒気が治まることはない。
こういったときナースがいれば安心するんだが、いない。いるのは船番の四番隊のみ。


「お、静かに寝てたみてェだな」
「サッチさん…」
「どうした?」
「寒い」
「ま、マジか!つってももうねェしな…。よし、ちょっと待ってろ」


体温計を持って帰って来たサッチはまた部屋を出て行く。
数分もしないうちにすぐに戻ってきて、大量に持ってきたシーツや毛布を名前にかけてあげた。
寒いと言うから、風が入らないようにシーツを名前とベットの間に挟んで密閉を作る。


「まだ寒いか?」
「ううん…」
「じゃあ体温測るか。ほれ、これくわえとけ」


体温を測り終えるまで、散らかった部屋を片付け始めるサッチ。
名前はそれをボーッとした目で静かに見ていた。
相変わらず片づけるの適当だ。今度また「掃除屋名前」をしよう。
色々考えていると、サッチがこっちを向いた。


「どれどれ…、7度な。まだ大丈夫か」
「寒いけど、熱い」
「完璧風邪の症状だな。ちゃんとジッとしてろよ?」
「ん」
「俺は仕事に戻るからな」


静かに頷くといつものように笑うサッチ。
体温計を近くの机に置き、シーツをかけ直す。
適当に片づけ出たゴミを持って部屋から出て行った。
シーンと静まるサッチの部屋。寂しくなったがワガママも言ってられないので、名前は目を閉じる。
耳鳴りがして睡眠の邪魔をされたが、いつの間にか深い眠りについていた。


「―――」
「面倒くせェなァ…!てか、いちいちこんなもん書かせるなよ!」
「サ…チさん…」
「おお、目ェ覚めたか」


一瞬の暗闇のあと、再び目を覚ました名前。
あれから何時間か過ぎたのか、サッチが仕事を終わらせて帰って来ていた。
珍しく机に向かっているサッチを見て、フッと笑ってしまったが、寝る前より身体がしんどくなっていてすぐに顔を歪める。


「気分は……あんまり良さそうじゃねェな」
「頭痛い…」
「風邪薬見つけたんだ。飲むか?それとも医者に診てもらうか?」
「薬飲みます…」
「じゃあ水持ってくるからそのまま寝てろ」


汗で滲んだ名前の額に手を置き、いつもは見られない優しい笑みを浮かべる。
その笑みに何だか安心感を覚え、素直に「はい」と返事をする。
熱いが、身体の芯は寒い。奇妙なその感覚に名前はハァ…と溜息を吐いた。
いつも船番は隊員に任せ、街へと向かうサッチだが、今日は自分のために残って面倒を見てくれる。
凄く嬉しいが、それと同時に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「薬飲む前になんか食わねェとな。リンゴとバナナとオレンジ、どれがいい?」


帰ってきたサッチの手には大量の果物が入った木箱とコップ一杯の水。


「……ほしくない」
「バカか。食わずに薬飲んだらよくねェんだぞ!」
「サッチさんのくせに…」
「俺のくせに何だよ!テメェこそ病人のくせにいちいち皮肉言うな」


ベットの隣にイスを寄せ、文句を言いながらリンゴの皮を剥き始めるサッチ。
さすが毎日料理を作っているだけあって、あっという間に全部を剥き終わり、一口サイズに切ってくれた。
いらないと何度も首を振る名前だったが、さすがにそこまでやってくれたら食べないわけにはいかない。
一つだけ食べ、それ以上は口にしなかった。


「どんだけ繊細だ。まァいい、薬飲め」
「苦い?」
「知らね。俺薬飲んだことねェもん」
「……本当に人間ですか?」
「健康優良児なんだよ」


無理やり名前を起こし、薬と水を手渡す。
苦い薬はイヤだとワガママを言う名前を怒りつつ、ちゃんと飲むかどうか見張っている。


「うええ…」
「よし、飲んだな。寝ろ」
「まずい…」
「リンゴ食うか?」
「一つだけ…」
「ほら」


口を開ける名前にポイッと投げ込んでやり、自分も口に含む。
薬も飲んだし、あとは寝れば大丈夫だろ。とまた机に戻る。
サッチがサボらないようにと、マルコが報告書を書けと言ってきた。
部屋にいてもやることはないので、肘をつきながら適当にペンを走らせる。


「どこまで書いたっけ…。あー…買い出し組の十六番隊から食材を受け取り、隊員と一緒に船へつぎ込む。途中名前の様子がおかしいから部屋に戻り、体温計で測ったら微熱だった。………それから…、えーっと…仕事に戻って、部屋戻って、リンゴ切って、名前の面倒みてる。以上!」


最初まではちゃんと書いていたが、途中から面倒になり適当に書き終える。
絶対にマルコに怒られるな。と解っているものの、自分に報告書を書かせるマルコが悪いと決めつけ、背中を伸ばした。


「お前の保護者は口うるせェよな。そう思わねェか?」
「優しいです…」
「お前にはな。俺達にゃあ口うるせェし厳しいし容赦ねェし…。優しくされたらされたで気持ちわりィけどな!」
「…サッチさん」
「あん?」
「ベットごめんなさい…。寝れない…」
「ガキがんなこと気にすんな!それとも部屋に戻りてェのか?」
「ううん…。ここがいい」
「じゃあ気にすんな。寂しいなら手ェ繋いでてやるぞ?」
「……うん」
「や、やけに素直だな…。よし特別だ、繋いどってやるから寝ろ」


地面に座り、名前の布団に手を突っ込んで手を握る。
思ったより中は熱く、名前の手は湿っていた。
先に氷とか持って来ればよかったな。と後悔しても、握られた手を離すわけにはいかない。
反対の手で頬を触ると最初のころより熱くなっていた。


「もしかしたら明日もこのままかもな。マルコ達が留守でよかったぜ…」


きっと大慌てで医者を呼びに行くだろう。エースもきっと騒ぐに違いない。
イゾウやビスタもうるさそうだ。今回の船番が俺でよかったぜ。
あいつらの名前への過保護っぷりったらねェぜ。
静かに眠る名前を見ながら一人で考え、プッと吹き出す。


「街に遊びに行かず、ガキの面倒を見てる俺も言えねェか」


結局のところ、自分も相当甘い保護者だということに気がついたのだった。



2010.12.21



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