月見酒に酔った人の話 「名前ちゃん」 「は、はいィ!」 「好きだぜ。もっと顔をよく見せてくれ」 「うー…イゾウさん、お酒飲みすぎですよ!」 「そんなこたァねェよ。名前ちゃんにお酌してもったお酒を飲んでるだけだ。だから、酒に酔ったんじゃなく、名前ちゃんに酔ったんだ」 「イゾウさん!?」 月明かりの下で今日も宴会が行われた。 私もいつものように隊長さん達や仲のいいクルーのお酌をして回っていた。 すると突然静かな夜空に銃声音が響き渡り、宴会は静まる。 犯人はイゾウさん。 いつもなら赤い盃に少しだけお酒を注ぎ、ゆっくりと飲む。 文句を言いながらも暴れる隊長さん達の面倒を見たりする頼れる隊長さん。 それなのに今日は酔っているみたいだった。しかも悪酔い。 近くで飲んでいたハルタさんがイヤそうな顔をしてイゾウさんから離れ、隊員さん達もイゾウさんから離れて行く。 そう言えば酔ったイゾウさん見たことない…。(一度あるが、名前も酔っていて覚えていない) 誰も近寄れない雰囲気が漂い、私も近づくのを躊躇った。なんか怖い…。 足を立て、お酒をグイッ!と飲み干すイゾウさんは少しだけ違う人に見えた。 飲み干した盃を見て、「酒」と言葉をこぼすが、今さっきも言ったように誰も近寄らない。 それに機嫌を悪くするイゾウさんは周囲を睨んで、私と目が合う。 すると一気に機嫌がよくなり、私に近くに座るよう言ってきたので、素直に従った。 それからイゾウさん専属のお酌係をしているが、ずっとこの調子…! 怖い通りこして普通に恥ずかしいですから! 「名前ちゃんは可愛いなァ」 「あ、ありがとうございます…」 「名前ちゃん」 「はい」 「好きだぜ」 「もう解りましたよー!」 イゾウさんの胸の前に座り、お酌をしていると間(ま)を置かず褒めてくれる。 髪の毛を触ったり、時々抱き締められたり。 普段されないことばかりされ、恥ずかしさで顔が熱い! だけど離れたらきっと怒る。…ような気がする。 「名前ちゃんは柔らけェな」 「イゾウさん…!あんまり触らないで下さい…」 頭、髪の毛、頬、首…。と順番に触られ、さすがに恥ずかしくなって、恥ずかしいです。と付け加えて拒絶すると、触っていた手を離し私をジッと見つめてきた。 いつもは優しくて、女の人らしい雰囲気を漂わすけど、今ばかりはそんな風に見えない。 心拍数があがり、身体に無駄な力が入ったのが解った。 そんな私の頬に手を添え、顔を近づけて口を開く。 「愛しい人に触れたいと思うのはダメなのか?髪の毛がダメなら首ならいいか?首もダメって言うなら手はいい?それとも頬だけならいいか?悪ィが俺も男なんだ。我慢にも限界がある」 そう言って手を取り、甲にキスをされた。 そこから熱が頭に伝わって、オーバーヒート。 手を払い、すぐにその場から脱出することにした。ダメだ、ここにいられない! 「親父殿ー!」 「名前ちゃーん」 「た、助けて下さい!」 親父殿の背中に隠れて、イゾウさんから逃げ出すことに成功。 その日の宴会は最後まで親父殿の傍にいることにしました。 イゾウさんが今日のことスッパリ忘れていますように! 2010.12.19 ( ← | → ) ▽ topへ |