愛で虐める人の話 面白そうな子分が入ってきた。と、サッチと喜んだあの日が懐かしい。 こいつ本当に男か?と、疑問に思っていたあの頃もあったっけ? あ、女だったんだ。と、何故か安心したあの時、俺はこいつに何かを求めた。 可愛い妹として見れなくなったのはいつからだろうか。 「エースさん、俺の話聞いてますか?」 「んー」 表情がコロコロ変わる名前を見ながら、ぼんやり考え事をしていた。 名前の顔は見てて面白いし、名前の声を聞くと不思議と心がホッとする。 だけど名前の会話に興味はねェ。 生返事をすると「エースさん!」と怒りをこめた声で俺の名前を呼んだ。 名前を呼ばれるとぼんやりしていた意識を取り戻すことができて、謝りながら笑うと下から睨んできた。 名前が睨んでも全然怖くないって言ってんのに、何でこいつは睨んでくるんだろうな。 両頬を掴んで左右に引っ張ると「いひゃい!」と俺の手を叩いてくる。 だけど控えめに叩くから全く痛くない。やられてんのにそんな抵抗でいいのか? 「エースさんのバカッ!」 頬を抑えながらまた睨んでくるから、また引っ張ってやる。 学習しねェよな、こいつ。 「エーフさん!」 「名前ぐれェちゃんと呼べよ」 ちゃんと「エース」って呼べ。 「マルコ」とか「サッチ」とか「イゾウ」とか、そんな名前じゃなく、俺の名前を呼べ。 「俺はお前にちゃんと呼ばれたい」 引っ張っていた手を離して、な?と問いかけると、名前は解ってない顔で両頬をさすっていた。 マルコに新聞を読んでもらった話とか、サッチと一緒に料理作ったとか、イゾウから銃の扱いを教えてもらったとか。 そんな話まるで興味がねェ。 俺と一緒のときぐらい俺のことを見ていてほしい。それに、わざわざ報告しなくたってイヤでも目についてんだ。 「エースさん最近おかしいですよ…?」 「そんなことねェよ」 笑ってみせると、そんなことは…。と口元でモゴモゴ喋る。 困ったような顔で俺の様子を伺うように見てくる名前に、また虐めたくなった。 名前の笑顔は嫌いじゃねェけど、泣いた顔も好きだ。言い方がおかしいかもしれねェけど、すっげェ興奮する。 何でだろうな。なんか最近名前を見てると変な気分になる。 あ、やっぱ名前の言う通りおかしいのか? 「だってハルタさんと一緒にいたら割って入ってくるし、機嫌悪いこと多いじゃないですか…」 「ハルタとそんなに仲良くなかっただろうが」 「仲いいですよ!それに、イゾウさんと修行中邪魔してくるし、サッチさんと料理作ってるときも邪魔してきますよね」 「修行は俺が付き合ってやるって言ってんだろ。何でいっつもイゾウばっか頼ってんだよ。サッチが変なこと言わないように見張ってんだ」 「変なことって…。最近のエースさんのほうが変ですって…。マルコさんの名前出すと絶対「あー、うっせェなァ!」……ほら怒る…」 暗い表情で俯く名前を見て、罪悪感が芽生えると同時に、「もっと困らせたい」と思う自分がいてビックリした。 ダメだ。最近の俺はほんとダメだ。やっぱりおかしい。何だこれ。 「マルコさんと仲悪そうには見えないのに、俺が喋ったらなんで…」 「俺と一緒にいるのに何で他の奴の話をするのか意味わかんねェ」 「それは…、そうですけど…。でも面白かった話をエースさんにも聞いてほしいから喋ってるわけであって…」 「だからって、マルコと一緒に寝たとか、マルコの夢を見たとか報告すんのか?」 「……エースさん、俺のこ「うるせェ黙れ。黙らねェとキスするぞ」 思わず胸の奥から出てしまった言葉だったのに、何だかスッと身体に馴染んだ気がした。 ああ、俺は名前が好きなんだな。妹としてではなく、一人の女として。 それすらも素直に飲み込むことができた。寧ろスッキリした! 「ッ…なにを…!」 逆に名前は顔を真っ赤にさせ、泣きそうな顔をして俺から視線を反らした。 やっぱ名前は泣きそうな顔もよく似合う。 こんな顔になった名前は絶対初めてだ。そしてこの顔をさせたのは自分だけ。 そう思うと自然と顔が笑っていて、名前はさらに泣きそうな顔になって俺から離れていく。 「その顔やべェ。したくなった」 「エースさん!」 腕を掴んで引き戻し、わざと耳元で言ってやると抵抗する素振りを見せた。 だけどそれすら興奮する材料にしかならない。 力で適うはずもなく、すぐに両手首を掴んで甲板に抑えつけてやると「やだ…」と小さな悲鳴をもらした。 「お前わざとやってんのか?」 目を潤ませ、小声で何度も「やだ」と抵抗し続ける名前はさらに加虐心を煽る。 そして、それが可愛いと思う俺はもう末期だ。 だから名前に聞いてみると、名前は解っちゃいねェ顔で首を横に振る。答えになってねェよ。 もっともっと泣かせたい。完全に怖がられたら楽しくねェけど、もう少しだけなら大丈夫。 「名前」 耳元に口を寄せて名前を呼ぶと、くすぐったそうに身をよじる。 両腕を頭の腕で固定して、空いた手で腰を触るとさらによじって、聞いたことのない名前の悲鳴がもれた。 顔は若干引きつって、涙を流している。 ここまでは大丈夫だな。 そう思ってパッと手を離して、名前から離れる。引き際が大事だ。 「と、まァ。名前で遊んでみたんだが…。怖かったか?」 「……」 「ほら泣くなって。ってか俺の声聞こえてっか?」 「………エースさんのバカッ!」 「いてッ」 と言ったものの、全く痛くない。 わあああ!と泣きながら胸や腹を殴ってくる名前を見て笑いながら、ごめんな。と謝れば、 「バカ!エースさんのバカ!あんなエースさん嫌いだ!」 と、泣き続ける。 本当に嫌いになったのなら、きっと何も言わずこの場から立ち去るだろう。 だけど名前はしない。だから嫌われてないと確信が持てる。 もしくは、腰が抜けて立てねェとか。 「腰が抜けて」か。多分そうだろうな。それを思うとまた虐めたくなってきた。 「解った解った。もうしねェから」 「ほんとですか…?」 「多分」 「た、多分ってなんですか!次やったら俺ほんとにエースさんのこと嫌いになりますからね!」 「そりゃあ寂しいな」 「え?……あ、嘘です…よ。えっと…、ちょっとの間口ききません」 「できるのか?」 「で…、できます…」 「俺はお前と話したいのに残念だ」 「あー…!もう、エースさんのバカァ…」 「ハハッ!」 困った顔の名前を笑い、頭を撫でてやると、少しだけ機嫌を直した。 今日はこのぐらいにしとくけど、明日は今日より先に進もうと思う。 今が楽しいから長期戦は苦じゃねェが、早く俺の気持ちに気づいてくれ。 2010.12.19 ( ← | → ) ▽ topへ |