今日もあなたを守ってます !ワンクッション! 企画夢「あなたと見る世界」シリーズより。 結婚夢でマルコ夢。 「マルコさん、ちょっといいですか?」 「ん?」 愛しのマルコさんはソファに座って、最近買った小説を読んでいた。 その隣に座って、膝の上に乗せた手を見つめながら少し震える唇を無理に動かす。 「明日一緒に行ってもいいですか?」 「ダメに決まってるだろい」 「…うん」 会社へはマルコさんは車で、私はバスで通っている。 時間が合わないのもあるけど、私が公私混同しちゃうからダメだって言って滅多なことがない限り一緒に行かない。 最初はイヤだったけど、最近は慣れてきた。それでも一緒に行きたいのは変わらないけど。 呆れた顔で溜息をついて、本に視線を戻す。だけど片方の手で頭をぐしゃっと撫でてくれた。 「どうした?」 「え?」 「声が震えてるよい」 視線は本に落としたまま、私の不安を聞いてくれた。 素っ気ないフリをしつつも私のことを気にしてくれるマルコさんに胸がきゅんと締めつけられ、頭を肩にくっつける。 「私も車で行きたいです」 「それはダメだい。お前いっつもニヤけるだろい」 「…解りました」 「名前?」 ダメだ。と言われるのは解っていたから、そんなにショックを受けていない。 マルコさんから離れ、先に寝室へと向かって今日はすぐに寝た。 マルコさんが何か言っていたけど、なんかダメだ…。元気がない…。 何で元気がないかと言うと、 「(まただ…!)」 いつも乗っているバスで痴漢に合っているからです。 最初は気のせいだと思ってたけど、やっぱり気のせいじゃなく、日に日にエスカレートしていく。 前まで一緒に乗っていた優しい彼は転勤してしまった。だから助けを呼べない…。 いや、多分いても助けてなんて言えない。マルコさんにだって言えなかったぐらいだ。 恥ずかしいし、怖いし…。声が出ないってのは本当だったんだ。 それに会社までは短い時間だし、我慢してればすぐにすむ。騒ぎだけは起こしたくない! 「(ッ!)」 痴漢はいつもお尻を触って撫で回すだけ。 目を強く瞑って痴漢に耐えていると、太ももへと手を移動した。 ぞわっ!と身体中鳥肌が立って、さすがに我慢ができなくなった私は近くのボタンを押して「降ります!」と声があげる。 ダメ!気持ち悪い!まだ降りる駅じゃないけど降りる! 人混みを割って車掌さん近くまで移動したあと、後ろをそっと見ると、皆が私を見ていて気がして顔を戻す。 「ハァ…」 降りた私は走っていくバスを見送りながら溜息をはいた。 時間には余裕がある。だからここから歩いても十分間に合うが、足が重い…。 何で私なんかを痴漢するんだろうか。 スーツは他の女性が着ているスーツとなんら変わりないし、肌も露出していない。 なのに何故だ。何で私なんだ! 会社に向かうまでずっとそんなことを考えていた。 「よう名前。今日は珍しく遅ェな」 「おはよう、名前」 「エースくん、サボくん…。おはよう」 「元気ないな。…もしかして例の?」 「今日もされたのか?」 「うん…」 会社の前で会った二人に挨拶をして、さっきのことを愚痴りながら部署へと向かう。 二人はまるで自分のことのように怒ってくれて、そして励ましてくれた。 単純な性格もあって、少しだけ元気になった。ありがとう、二人とも! 「マルコに言えよ。さすがに助けてくれるだろ」 「そうだけど、恥ずかしいっていうか、なんていうか…」 「まァそこらへんは本人の気持ち次第だからね。でも無理はすんなよ」 「ありがとう、サボくん」 「もし俺の嫁に痴漢したらバスだろうと場所関係なくぶっ倒すな!」 「エースくんは乱闘しそうだね。サボくんは?」 「消す」 「…消す?」 「うん、消す」 「そう…ですか…」 やんわりと笑みを浮かべるサボくんが逆に怖かったです。 「さて、帰ろうかな」 定時の音楽が鳴って、時計に目を向ける。 座ったまま背中を伸ばし、固まった筋肉をほぐすと、隣の席のエースくんに呼ばれた。 「どうかした?」 「名前、帰りも気をつけろよ」 「帰りは痴漢いないよ?」 「そうだけど、一応な」 ボールペンを耳に引っかけたままニィっと笑って苦手な書類処理に戻る。 目の前のサボくんは帰る準備をしていて、私と目が合うなり、「途中まで一緒に帰ろうか」と誘ってくれた。 今日はエースくんを助けてあげないらしい。エースくんが涙目になっていたけど、サボくんは笑って私の背中を押す。 「とは言ってもバス停までだけどね」 「ううん、ありがとう。嬉しい!」 「でも本当にマルコさんに言ったほうがいいよ」 「今日また相談してみる」 今日はちゃんと伝えよう。きっと助けてくれる! 「他の男に触られたと思うと嫉妬に狂うよい」とかなんとか言っちゃってー! きゃー、マルコさん素敵!きゅんきゅんしちゃう! 「名前、そういう妄想はここでしないほうがいいよ」 「…ごめん、つい理性が…」 「もし今のが名前じゃなくて嫁だったらキスしてた」 「サボくんも周囲を気にしたほうがいいよ」 笑い合ってると丁度バスが来たのでそこでサボくんとは別れた。 この時間は社会人も多いけど、学生も多い。座れないので前へ移動して、吊革を掴む。 今日も疲れたなー…。帰ってご飯作って、ちょっと掃除しよう。あー、でもその前に休みたいかも。 「(え…?)」 帰ってから何をしようかぼんやり考えていると、お尻に違和感を覚えた。 一気に身体中に緊張が走り、吊革を握る手に力が入る。 全神経をお尻に集中させ、当たっているのか、触られているのかを確認。 「(ち、痴漢だ…!)」 きっと朝と同じ人。触り方が一緒だもん…! 今まで夕方のバスで痴漢されることはなかった。なのに何で…! 下唇を噛みしめ、痴漢に耐えていると、今日の朝のように太ももを触ってきた。 飛び跳ねる肩に悪寒が走る背筋。 あまりの気持ち悪さに胃が熱くなって、口を抑えた。 涙がじんわり滲んで、心の中で何度も「助けて」と叫ぶ。 「(助けて…。マルコさん、助けて!)」 「―――おい」 願いが叶ったのか、聞きたかった声がすぐ後ろからした。 顔をぱっとあげて確認すると、不機嫌オーラを出してるマルコさんが知らない男性を睨みつけている。 お尻から違和感も消え、マルコさんが痴漢を捕まえた。ということがすぐに解った。 緩む涙腺。だけど騒ぎになってほしくないので、マルコさんをじっと見つめると、解ってくれたのか掴んでいた痴漢の手を離してくれた。 周囲も横目で私達を見るぐらいで、痴漢があったことに気がついていない。 「今何してた」 「何も。それよりあまり大きな声出さないほうがいいんじゃないですか?ねェ、お姉さん?」 痴漢は思っていた以上に若かった。 戸惑いつつも彼の言葉にゆっくりと頷き、マルコさんに近づく。 痴漢は捕まってほしいけど、騒ぎにしたくないという矛盾に、マルコさんは怪訝そうな顔を私に向けた。 「よく澄ました面でそんなことが言えるな、小僧」 「だって俺は何もしていませんからね」 「ずっと見てたんだよい」 「当たってただけですよ。こんなに混雑してればイヤでも当たるでしょう」 「テメェ…」 「そのお姉さんに聞いてみたらどうですか?俺は痴漢をしていましたか?」 最後の台詞だけ大きめの声で私に聞いてきた。 すると静かだった車内は少し騒ぎだし、近くにいる人達は私を見てくる。 恥ずかしさと恐怖で答えることができず、彼とも目を合わせることができない。 マルコさんの腕をぎゅっと握り、首を横に振った。 マルコさんは怒って私の名前を呼んだけど、もういい。これ以上騒ぎにしないでほしい。助けてもらえればそれでいいんだ。 「ほら、本人が違うって言ってるんだから違いますよ」 「名前!」 いくら怒られようが私は首を横にしか振らなかった。 そのたびに痴漢の彼が笑いを含めた声でマルコさんに文句を言っていた。 「ごめんなさい、マルコさん…。ごめんなさい…!」 助けてくれたのに何も言えなくてごめんなさい。 彼が悪いのに文句を言われてごめんなさい。 何もできない弱い私でごめんなさい。 全部の気持ちをこめて謝ると、マルコさんは喋るのを止めた。 私の肩に腕を回し、ぐいっと自分の胸に引き寄せる。 力を込めて私を抱き締めるマルコさんを見て、彼がバカにしたように笑った。 「こんなところで何考えてんですか」 「いい加減黙れよい。ぶっ飛ばすよい」 「今度は脅しですか?ハハッ、いい大人がみっともないですね」 「もう一度言うぞ。黙れって命令してんだい」 「お願いの間違いでしょう?」 私を抱き締める手を離したと思ったら、近くに座っていた男性にそこから離れるよう会話をかわす。 マルコさんの形相を見てか、男性は怯えるように座席を離れた。 その間に彼が私に近づいてきて、笑顔を向ける。そこでようやく彼の顔をしっかり見た。 「名前って言うんですね。明日から楽しみです」 その言葉に彼が痴漢だということに確信が持てた。 だけど、それよりも明日からの恐怖に固まっていると、ドン!という鈍い音がした。 目の前にいた彼はいつの間にか消えており、慌てて姿を探すとマルコさんが彼の胸倉を掴んで男性に離れてもらった座席に無理やり座らせていた。 今にも殴りそうなマルコさんを見て、彼を解放するよう言うが、怒っているマルコさんの耳には届かない。 「な、何かありましたか!?」 さすがにここまで騒がしくなれば車掌さんもバスを停めて私達に近づいてきた。 騒がしくなる周囲と、怒っているマルコさんを交互に見て、私もどうしたらいいか解らない。 会社に迷惑がかかる。とも考えたけど、それ以上にマルコさんに迷惑をかけてしまった。 「―――ああ、こいつ俺の部下でな。ちょっとふざけてただけだい。降りるから見逃してくれよい」 彼の耳元で何か囁いたあと、解放した。 車掌さんに「迷惑かけた」とだけ告げ、私の腕を掴んでバスを降りた。 何も言わずグングン進んで行くマルコさん。 顔が見れないからどんな気持ちなのか察することができない。だからと言って私から声をかけるのは勇気がいる。(そして私にはそんな勇気がない) 「何で黙ってた」 バスから十分離れ、賑やかなレストランへと入った。 目の前に座っているマルコさんからは「不機嫌ですオーラ」が見え、何も言えず縮こまる。 「………何でバスに乗ってたんですか?」 「サボとエースから聞いた。サボとの会話に夢中で俺の存在に気づいてなかったろい」 「なるほど…」 「で、お前の口から聞いてねェよい」 何これ取り調べですか? 言葉からも圧力がかかって、口がうまく動かない。 でもちゃんと言わなければいつまでもこのままだ。マルコさんは妥協という言葉を知らないし、許さない。 「一週間ぐらい前から……――されてました…」 「痴漢」という言葉を出すのに抵抗があって、濁して告げるとマルコさんの右手が動いたのが解った。 ビクリと身体が震えたあと、温かい手が頭に乗って、そのままゆっくりと撫でてくれる。 「そうかい」 顔を恐る恐るあげると、マルコさんが泣きそうな顔をしていた。 「気づいてやれなくてごめんな」 「……いえ…。私がちゃんと言わないから…」 「サインを出していたのに気付かなかった俺が悪い。すまない」 マルコさんの優しい気遣いに目が潤んだ。 もう、何でマルコさんはこんなに優しいんだ!私が悪いのに! 「明日から一緒に行くかい?」 「いいんですか?」 「そっちんが安心だろい?」 「…はいっ!」 よし。と笑って今日はレストランで夕食をすませた。 「名前、痴漢された場所はまだ気持ち悪いかい?」 「んー…そうですね、違和感はあります」 「そうかい。じゃあ違う印象を与えようかと思うんだが、どうだい?」 「違う、印象ですか?」 「尻を触られる、イコール痴漢になってるだろい?」 「そうですねェ」 「尻を触られる、イコール、俺に触られる。にすれば万事解決だと思うんだが」 「え?……えッ!?」 「別の言い方をすりゃあ、「調教」」 「イヤです!」 「残念だったなァ、名前。そりゃあ却下だよい」 「イヤああああ!」 ( ← | → ) ▽ topへ |