80万打部屋 | ナノ

今日は構ってあげれません

!ワンクッション!
風男主で友情夢。





「え、パイナップル風邪引いてんの?果物なのに?」
「いや、冗談言ってる場合じゃねェんだよ。すっげェ重症」


朝だと言うのに騒がしい食堂で、エースと肩を並べて食事をしていたら、サッチがパスタを持ってやってきた。
隣でサラダに顔を埋めているエースの頭を叩き、「飯はちゃんと食え!」と怒鳴ったあと、俺の隣に腰を下ろす。
いつになく真面目な顔だったので飯を食うのを止めると、そんなことを言われた。
だって白ひげ海賊団ですよ?「風邪ってなんだ?苦しいのか」って本気で言う奴らですよ?
そんなバカな奴らのトップに立つ一番隊長様が、まさかの風邪。しかも重症らしい。


「命に別状はないってナースさんに言われたから安心だけど」
「ふーん。普段俺への扱いが酷ェから神様が怒ったんだ。ざまァねェな!」
「なんだァ…?マルコ風邪引いたのか?」
「みたいだぞ。あとから遊びに言ってやろうぜ!」
「そうだな!」


弱ってるパイナップルなんてそうそう見れるもんじゃねェ!こりゃあ今日の楽しみができたな!
頬についたレタスやトマトを口に頬張りながらニィ!と笑うエースと、悪戯を企む俺の頭をサッチが掴む。
「いいか…」と珍しく低い声で顔を寄せた。


「お前がマルコのこと嫌いなのは知ってるが、時と場合というものを考えろ。もしこれでマルコの症状が悪化したら俺はお前らを許さねェぞ」


最後には覇気も加えて睨まれた。
サッチの睨みに背筋が凍り、エースと口を揃えて「お、おう…」と答えると、キッチンへと戻っていった。


「サッチもからかうと思ったんだけどなー…」
「サッチ、マルコと同期だからな」
「あ、そうなの?」
「いや、詳しくは知らねェけど、ほら仲いいだろ?」


基本的に白ひげ海賊団は仲がいい。誰かが誰かの悪口を言ったりすることもない。(その前に手が出るしな)
だけどマルコとサッチはまた違った仲の良さがある。腐れ縁のような、悪友のような…。
古くから一緒にいるから戦闘のコンビネーションもいいし、喋らなくても通じ合ってるところがある。


「大事な親友を守りたいってか?」
「ちょっと笑っちまうよな!」
「だな!よーし、今日はあいつがいねェから思う存分寝れる!仕事もサボり放題だ!」
「名前、お前はもうちょっと真面目に働いたほうがいいぜ。じゃねェと無理やり部隊に入れられちまう」
「そうなったらエースがいる二番隊に入らせてくれ」
「ははっ、朝から冗談はきついぜ」
「マジだよ!爽やかな顔で毒を吐くな!」


パイナップルが風邪を引いて部屋で寝込んでいるおかげで、今日は平和な時間を過ごすことができた。
エースや王子と遊んだり、イゾウの旦那に演習付き合わされたりしたけど、本当に平和だった。
でも残念なことに、サッチとは全然遊べなかった。つーか、朝っきり会話してねェ。
四番隊隊員曰く、ずっとマルコの看病をしているらしい。おいおい、どんだけ症状重いんだよ…。
さすがにそれを聞いたときはマルコに同情したけど、その考えを頭を振って捨てた。


「………んだよ、思ったより普通じゃん」


どんだけ顔色悪いのか見に来たら、普通だった。普通に寝てやがった。つまんねェ奴。


「朝よりよくなったんだよ。俺の看病のおかげでな」
「お前はパイナップルの奥さんか」
「ハァ?仲間なんだし面倒見るの当たり前だろ」
「…やべェ、何も言い返せねェ」


いつもはふざけた奴が、真面目な顔して事実を言うと、心にグッとくるな。


「俺ァ夕食の準備してくっから、ちょっと見ててくれ」
「ハァアアア!?何で俺がパイナップルの看病しねェといけねェんだ!」
「そこにいるだけでいいんだよ。それとも俺に逆らうってか?今日のテメェの夕食はなしだ、なし!」
「それは卑怯だろ!このフランスパンリーゼント!」
「よーし、そのケンカ買った。何倍にして返してほしいだ、あ?」
「―――ケンカならよそでしろよい」


怒ったサッチに胸倉を掴まれた瞬間、聞きたくなかった声が耳に届く。
二人してマルコを見ると、眠たそうな目で俺らを睨んでいた。…いや、あいつの目はいつも眠たそうだ。そしてふてぶてしい。


「気分はどうだ?」
「見たくもねェ顔を見て吐き気に襲われた」
「風邪は引いてもそっちだけは絶好調だな、クソ野郎」
「まァでも寝てろ。お粥持ってきてやるから。名前、テメェはそこにいろ。病人を刺激するなよ」
「じゃあここにいろとか言うなよ!」


あいつ俺のこと嫌いじゃん!嫌いな奴がそばにいたら刺激になっちゃうよね!?なにこの矛盾!
文句を言ってもサッチは笑いながら部屋を出て行った。


「マジでありえねェし…。てかパイナップルの部屋に入るとかマジねェし…」
「……」
「しかも予想通り部屋むっちゃ綺麗だし。ムカつく。エロ本ねェのかよ。テメェの性癖教えろや」
「…」
「本棚の奥も、引き出しの奥もどこにもねェ!え、お前本当に男?それともヌく元気もねェってか?」
「…」
「なんか喋ろやゴラァ!独り言みたいですっげェ恥ずかしいんですけど!」
「…」
「総スルーか!」


いくら嫌味を言っても、いくら毒を吐いても、マルコは全く喋らなかった。
あ、もしかして寝てんのか?
そう思って顔を覗き込むと、頭を思いっきり叩かれた。いてェ!つか病人の力じゃなかったぞ!?


「テメェ何しやがる!」
「顔近づけんなよい。吐く」
「何も喋らねェから死んでんのかどうか確認しただけだ!」
「バカと付き合う元気もねェんだ。黙ってろい」
「毒を吐く元気はあるんですね、さすがですクソ野郎!それよりマジでエロ本持ってねェのか?俺が予想するお前の性癖はねっとり系だと思うんだが、どうだ?正解だろ?正解すぎて何も言えねェだろ?」
「妄想はお前だけにしろ」
「え、俺お前の妄想でできてたの?どっちでもいいが、お前が俺のことをすきなのはよく解った。そのままくたばれ」


これ絶対病人じゃねェよ…!例え病人だとしても、こんな口の悪い病人を病人を言うのはおかしい!


「おい、暑い」
「服脱げ。でもお前の裸なんか見たくねェから脱ぐな」
「俺が暑いと言ったら風を送れってことだい。それぐらいも解んねェのかよい…。解っていたけど、お前はバカだな」
「ハァアアア!?何言ってんのお前!俺がお前の為に働くなんてありえねェよ。マジアリエンティ」
「…」
「……お前今笑っただろ。くっそくだらねェオヤジギャグに笑っただろ」
「今のはなかなかだったよい。44点」
「よかったとか言いながらも辛口審査だなちくしょー!」
「ぎゃんぎゃんうるせェよい。吠えてねェでさっさと風送れ。病人の言うことは聞くもんだよい」
「お前元気になったら覚えてろよ…!今日はサッチの献身的な看病に免じて俺も看病してやらァ」
「気持ち悪いよい」
「死ね」


人差し指を理不尽大魔王に向け、小さな風を送る。
よくよくマルコの額を見ると汗が滲んでいた。だからと言ってもっと風を送ってやろうとは思わねェけどな。


「初めてお前が役に立ったな」
「俺はいつでも役に立ってます」
「…」
「お前さ、都合が悪いこと全てスルーするの止めろよ。突っ込めよ、せめて。芸人失格なんだよターコ」
「そもそも芸人じゃねェよい、バーカ」
「それが看病している人に対する言葉か」
「人だったのかい?」
「その言葉にリボンつけてお前に返したい。お前はパインだったな、すまん」
「……」
「おい、病人なら寝てろ。起き上がんな」
「名前…」


風邪で頬が紅潮したマルコがゆっくりと上半身を起こし、額に乗せてあったタオルを握りしめる。
真面目な顔で俺の名前が呼ばれ、ちょっとだけ緊張する。もちろん、悪い意味で。
マルコから離れようとする前に、風を送っていた手を反対の手で握り、グッとマルコに引き寄せられた。うわ、マジで止めろ…。このパターンは……


「ベェックション!……あー…、すっきりしたよい」
「…ッテんメェは…!」
「ほら、笑ってねェで早く風送れよい」
「怒ってんだよクソ野郎!人様に向かって咳もくしゃみもしないってオヤジに言われなかったか!?」
「お前、人間だったのかい?悪魔の実食ってっから「人間」じゃねェだろい」
「お前のそういうとこ嫌い!大嫌い!サッチィ、もう無理ー!」


いくら大嫌いな奴でも、病人は殴ることができない。ていうか、殴ったら人間としてダメだと思う。
だから震える拳を握ったまま、部屋から飛び出し、サッチがいるキッチンへと向かった。
今さっきのやり取りをサッチに全部話すと、苦笑しながらも頭を撫でてくれて、俺の為に作ってくれた好物を出してくれた。


「俺、パイナップルは嫌いだけどサッチは優しいから好きだ!いただきます!」
「マルコのストレス発散のためとは言え、悪いことしたからな」
「なんか言ったかァ?」
「いや。おかわりあったら言ってくれ」
「おう!」
「名前が単純でよかった」


そして三日後…。やっぱりと言うか、今度は俺が風邪をひきました。


「名前、この間は看病してくれてありがとよい。そのお礼に今日は俺が看病してやる」
「楽しそうな顔で笑うんじゃねェ!部屋から出てけ!」


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