狐のお兄ちゃん | ナノ

兄を知る

「サッチ、そこにいると危ないよ」
「え?―――いでっ!」
「ほら」


最近名前に懐いてきたサッチとマルコが仕事を終わらせ、名前の近くで鍛錬を行っていた。
何故寝ている自分の近くでするのか疑問に思った名前だったが、それすら考えるのが面倒臭くなり、寝ることにした。
一度横になり、狐面を顔に乗せたあと、すぐに起き上がってサッチにその場から離れるよう注意したのだが、逃れることはできなかった。
遠くで遊んでいた仲間達が駆け寄り、サッチの頭に当たったボールを持って笑いながら謝罪するが、サッチは許すことなく喚きながら仲間を蹴る。


「おいダメ隊長」
「あー…マルコは俺を敬うように」
「無理な話だよい。それより何で今サッチが危ないって解ったんだい」
「そうだな、マルコが「お兄ちゃん」って呼んでくれたら答えてあげる」
「オヤジに聞いてくるからいいよい」
「冷たいねェ…」


そうは言うも相変わらず表情は悲しそうな顔はしておらず、無表情のまま再び横になった。
でも少しずつ名前の感情を読み取るようになったマルコは、今の表情から「少し寂しい」といった感情を読み取ることができた。
マルコ達が入団し、無関心だった名前が次第に仲間達と心を通わすようになってきた。
名前に懐かなかったマルコやイゾウも心を開くようになり、前まではしなかった質問を名前にするようになった。


「……教えてくれよい」
「まァ、最初はそんなもんだよな。サッチもおいで」


まだ喚いていたサッチの首根っこを名前の分身が掴んで、自分の近くまで持ってくると姿を消す。
マルコもサッチの横に座り、名前をジッと見つめた。


「俺な、少しだけ未来が視えるんだ」
「頭打ったのかい?」
「ギャハハハ!名前のジョークは最高だな!」
「だからお前らは俺を敬うべきだって」


横になったまま呆れたように名前が息をつく。


「とは言っても人型のときは危険予知な。未来は天狐になったときにしか視れない」
「…そう言やァ名前が言う天狐とか野狐ってなんだ?お前は狐だろ?」
「ああ、そこからね。はいはい」


よっこらせ。と起き上がり、面倒だ。と言わんばかりのやる気のない態度で自分の能力について説明をしてあげた。

名前は動物系「幻獣種」。“イヌイヌの実”モデルは「妖狐」。
人型でいるときは危険予知ができ、また動きも俊敏。化けるのも分身するのも得意。これがマルコやサッチが見ているいつもの名前。
動物系ということは狐になることもできる。その狐にも4パターンの姿に変身することができる。


「何でだ?だって動物系は、人獣型・獣型・人型の三つだけだろ?」
「幻獣種だから普通の動物系とは訳が違うんじゃないかな。俺もそこまで詳しく知らない」


通常時は九つの尾が生えた「九尾の狐」。毛質は白が混じった銀色。
気分がいいときなどは二つの尾が生えた「白狐」。毛質は真っ白で、近くにいると小さな幸運をもたらしてくれる。
偵察や少し先の未来を視たいときなどは四つの尾が生えた「天狐」。毛質は金色で太陽の光を受けると光り輝く。


「ああ、それなら全部見たことあるぜ!」
「どうだ、凄いだろう?」
「隊長ならそれぐらい当然なんだろい」
「あー…、マルコくんはお兄ちゃんのこと嫌い?」
「き、嫌いだよいお前なんか!」
「コンコン。そうか。じゃあ続きな」
「まだあんのか!」
「野狐の説明してないだろ。サッチは可愛いけどバカだな」
「バカじゃねェし!あと可愛いって言うな!」
「バカな子ほど可愛いもんだ」
「うるせェ!」


頬を赤く染めたサッチが名前に殴りかかっているのを、マルコは羨ましそうな目で見ていた。
最初に比べて嫌いじゃないし、寧ろ最近名前のことを知るようになってから「兄」として認め始めていた。
しかし、年頃なのか性格なのか、名前が好意を向けると照れたように全力で拒絶してしまう。
言ったあとに後悔をしても遅い。唯一の救いは名前が傷つかないこと。
だが、逆を言えば名前は自分達に無関心。
一人で考えながらちょっとだけ心を痛めた。


「野狐は戦いのときにしか変身しないようにしてる」
「何で?ダッセェのか?」
「綺麗とは言えないな。化け物だ」


コンコン。と笑ったあと、横になって狐面で顔を隠した。
どうやらあれで説明は終わりらしい。
スッキリとしない説明と、終わりにマルコとサッチは顔を見合わせて眉をしかめる。
しかし、名前がそれ以上喋ろうとしなかったので、渋々諦めた。


「なー名前ー。白狐になってくれよ。幸運を運んできてくれんだろ?」
「うるさいなァ。幸運って言っても小せェもんだよ」
「小さいってどれぐらい小せェんだ?」
「スッキリ起きれた。とか、快便だった。とか」
「小せェ!」
「だから言っただろ。いいからもう寝かせてくれ」


そう言うと数秒も経たないうちにイビキをかきだした。


「寝るのだけは早ェな。俺こんなダメ隊長にはならねェぞ」
「そもそもサッチが隊長になることなんてねェよい」
「マルコが隊長になったらその隊潰れるな。口うるせェ。あー、名前の野狐見てみてェなー」


サッチの言葉通り、名前のタイプ「野狐」を見ることができたのはすぐだった。



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