狐のお兄ちゃん | ナノ

兄とイゾウ

「イゾウは嫌いを通り越して無関心だよな」
「そういう名前も俺らに無関心だろ」
「コンコン」


月が煌々と輝く空に不釣り合いな白い雪がモビー・ディック号に降りそそぐ。
仲間達は子供のように白ひげが座っているイスの回りではしゃぎ、騒いでいる。
どの騒ぎの中でも中心にいるのはまだ若いサッチ。それを呆れたように見ているのが同期のマルコ。
またそれから離れた場所で静かに酒を飲んでいたのがイゾウだった。
マルコとサッチが入団したあとに入ってきた新しい仲間。
名前と同じワノ国出身だということで、イゾウは一番隊に所属しているのだが、隊長である名前にまったく懐こうとしなかった。
それはマルコも同じなのだが、イゾウはマルコ以上に名前に無関心。


「嫌われたもんだ」


赤い盃に少しだけ入ったお酒をくいっと飲み干せば、隣に座っているイゾウも飲み干す。


「坊主がそんなたくさん飲むもんじゃないよ」
「ガキ扱いすんなよ化け物」
「コンコン。そりゃあ父様のことかい?」
「ここにゃあテメェしかいねェだろうが」
「化け物ねェ…」


空になった盃に一つの雪が落ちた。
近くに置いてあった酒瓶を取り、イゾウと自分の盃にたっぷり注いで「コンコン」といつものように声だけで笑う。


「ワノ国出身ってことは俺のことも知ってるよな」
「ああ。テメェの悪行は国全土に轟いてる。とある場所にゃあ石碑も建てられて」
「あの頃の俺は若かったからねェ。まァでも、そんな昔のことは忘れて今を楽しく生きようじゃないか」
「お前の「楽しく」ってなかには俺らが入ってねェ」
「……んん?」
「お前は俺らに無関心だ。だから俺もお前に無関心。「楽しく」なんて嘘だ」


最後は吐き捨てるように言い放ち、注いでもらったお酒を勢いよく喉に通した。
イゾウの言葉を理解できなかった名前は盃に口をつけたままゆっくり考える。


「ああ、お前は繊細なんだな」
「あ?」
「傷つきたくないから無関心を装ってるだけだ」
「な…に言ってんだ?」
「俺も好かれたもんだ」


一人だけ楽しそうに酒を飲み続ける名前を見て、イゾウは怪訝そうな顔を浮かべながらもその場から一時たりとも離れようとはしなかった。
夜は始まったばかり。宴会はまだまだ続く。



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