狐のお兄ちゃん | ナノ

兄とマルコ

「おい」


トゲトゲした声に名前はゆっくりと目を開いた。
狐面のせいで視界は狭く、声の主を見つけることはできなかったが、こういった声で自分を呼ぶのはこの船には一人しかいない。


「どうしたんだい、マルコちゃん」


また目を閉じ、声の主であるマルコに答えると、腹部を軽く蹴られてしまった。
「いて」と声を出しながら狐面をずらしてマルコを見上げれば、青筋を浮かべた弟が自分を睨んでいる。


「ちゃんづけで呼ぶんじゃねェよい!」
「そりゃあ悪かったな、マルコくん」
「それも気持ち悪ィ!」
「ワガママな坊主だ。で、何のようだい?」
「仕事。仕事しろよい!」


マルコの言葉にさらに無表情になる名前。
ずらしていた狐面を元に戻し、再度寝転がってすぐに寝息をたて始めた。


「ここにいるならちゃんと働けよい!」
「おーおー、言うようになっちゃって」


マルコとサッチが白ひげ海賊団に入団して、一カ月が経っていた。
最初は野良猫のように自分や仲間達を警戒していたが、すぐに白ひげの良さに魅かれ、あっという間に馴染むことができた。
これも若さ故なのか。と、名前は特に会話をすることなく彼らを見守ってきていたが、そのせいで二人、特にマルコは自分に懐こうとしなかった。
そんなこと全く気にしていなかったのだが、最近マルコの風あたりが冷たい。
一言目には「仕事しろ」。二言目には「邪魔」。三言葉目には「役立たず」といった罵声を浴びせられる。
それでも名前は傷つくことなく、「そう」とだけ返して前みたいにのんびり毎日を過ごしていた。


「何でテメェは働かねェんだよい」
「俺が働かなくてもマルコ達が働くだろ」
「お前それでも一番隊隊長かよい!」
「これでも一番隊隊長だよい」
「ッ!バカにすんじゃねェよい!」


名前の軽い挑発にマルコは再び蹴りをお見舞いするのだが、寝転んでいたはずの名前は葉っぱへと変わり、風に乗って空へと消えていく。


「血気盛んだねェ…」


狐面をずらし、大きな欠伸をしながら呟けば、マルコが腰を捻らせ、再び蹴ってきた。
それが解っていたのか、ドロンと音を立てて獣型、狐へと変身してかわす。


「コンコン。もっと冷静になれよ、マルコ。じゃ、俺の分まで仕事頑張ってな、未来の一番隊隊長さん」


そう言うと空へと消えていった葉っぱが狐の名前を包み込み、ザアアアと音を立てて姿を消したのだった。



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