初対面は最悪 「名前」 白ひげ海賊団の船長に呼ばれ、顔の上に乗せていた狐面を少しずらして目を開く。 白ひげの巨体によって自分を照らしていた太陽は隠れてしまい、逆光で表情が見えなかったが、先ほどの声色だけでどんなに機嫌がいいかすぐに解った。 「父様(とうさま)、俺に用かい?」 「新しい家族が増えたから挨拶してこい」 「また連れてきたのか。どんだけ家族増やしたいんだ」 「大家族のほうが楽しいだろうが」 「うるさいの間違いだろ」 やれやれ…。と息をはきながら、狐面を頭の後ろに結び付け、立ちあがる。 チリン。と足首につけた小さな鈴が歩くたびに鳴り、名前は新しい弟がいる場所へとゆっくりとした足取りで向かった。 「にしても今日は暑いねェ…」 「そんな恰好してるからだ」 「コンコン。露出狂な父様からしたら暑苦しいだろうよ」 独特な笑い方で白ひげに笑いかけると、白ひげは口角をあげて答える。 名前は笑い方だけではなく服装まで独特。ワノ国出身である彼が身にまとっているのは狩衣(かりぎぬ)。 とは言っても正装よりもっとラフで、上だけ狩衣で下は甚平のような半ズボン。それでも白ひげにとっては暑苦しい恰好らしい。 「今回はどんな奴なんだい?」 「やんちゃ坊主二人だ」 「なんだ、いつもと同じかい」 その新しい家族の元へと行くと、たくさんの仲間達に囲まれていた。 大柄な仲間達からぴょこっと覗く金髪の髪の毛。 「…バナナか」 「アホンダラ、よく見ろ」 「パイナップル?」 「確認してこい」 白ひげが笑いながら集団に近づくと、仲間達は邪魔にならないよう左右に避ける。 すぐに新しい仲間の元へとたどり着いた白ひげは、一言二言会話をして名前を振り返った。 「名前、マルコだ」 「あー、そう」 興味ない。とでも言うような台詞と態度に、周囲にいた仲間達は「だよなー」と笑い出した。 彼は仲間とは言え、あまり他人に興味がない。というより、会話をしたり遊んだりすぐのが億劫。 ボリボリと首をかきながら近づいたあと、その手を差しだす。 「よろしく」 無表情でそう言ったあと、パァン!と乾いた音が響いた。 名前の手を拒絶した新しい仲間、マルコは鋭い視線で名前を睨みつけ、その場から逃げ出してしまった。 「あー…。嫌われちゃったな。ショック」 「ショックを受けるようなたまじゃねェだろうが。もっと兄らしくしねェか」 「いてっ」 白ひげに頭を殴られたあと、その場は笑いに包まれた。 それを物陰から見ているのはマルコと一緒に連れて来られた少年、サッチ。 本当は、マルコとサッチが仲間達に囲まれ、いじられていたのだが、隙をついて逃げ出すことができた。 どうにかしてこの船から降りなければ。それより、何故自分がこの船に連れて来られたのか解らない。 本来ならいつものように街の不良どもを倒して、奪ったお金でタバコや酒や女を楽しんでいた。 「コンコン。で、お前さんは誰だい?」 「ッ!?」 サッチの後ろから声をかけたのは笑い声の中心にいる人物だった。 「な、何でだよ…。だってあそこに…!お前何者だよ!」 「お前もバナナと一緒に来た小僧かい?こりゃまた元気そうだねェ」 「俺の質問に答えろよ!」 「テメェこそ俺の質問に答えろよ、クソガキ」 「うるせェ!」 隠し持っていたナイフを取り出し、名前に向けて突き刺す。 しかし、名前はトン…と軽く地を蹴って空へと逃げる。 鈴の音がサッチの耳に届いたかと思うと、鳩尾に鋭い痛みが走った。 空を飛んだ名前に見惚れている間に、もう一人の名前がサッチを殴っていたのだった。 倒れこむサッチの見下す二人の名前。顔は変わらず無表情。 「ゲホッ…!て、テメェ…」 「父様の言ってた通りだな。で、お前さんの名前は?」 「人の名前が知りたきゃ自分から名乗るのが筋だろ!」 「コンコン、そりゃあそうだ。俺は名前。この船の戦闘員で、悪魔の実の能力者」 「なんの能力か知りたい?知りたいよなー。同じ顔に挟まれちゃあイヤになってくるもんな」 「説明なんて面倒くさいから簡単に言う。俺は狐。んでお前を殴ったのは俺の分身」 「よろしくー」 分身がマルコのときと同じく手を伸ばすが、やはり叩かれ拒絶される。 拒絶されるのが解っていたのか、それとも手を差し出しておいてさほどサッチに興味がなかったのか。 特に驚く素振りは見せず、手を引っ込め、分身は消えた。 「ま、父様が連れてきたからには仲良くしようと思っている。お前らも早く慣れるといいな」 鈴がついた足で片方の足をかいたあと、その名前もドロンと音をたてて消えた。 驚いて集団のほうを見ると、先ほどまでここにいた名前は白ひげと何かを話している。 「あれも分身かよ…。気持ち悪ィ…」 サッチから名前への印象は最悪だった。 ( ← | → ) ▽ topへ |