狐のお兄ちゃん | ナノ

兄が弟を守る

マルコが悪魔の実の能力を完璧自分のものにした。
不死鳥になり、先陣をきる姿は白ひげ海賊団の士気をあげた。
隊員達からの信頼も厚く、そして身を呈して仲間を守るマルコに、誰しも憧れの眼差しを向ける。
しかし、名前だけはいい顔をしない。
悪魔の実を食べてからというもの、名前は少し無口になり、あまり姿を見せないようにしていた。
マルコが心配になって白ひげに聞いてみても、どこにいるのか解らないと首を横に振る。
時々姿を見せたかと思えば、擦り傷を負っていたりと、生傷が絶えない。
いくら「何してたんだい?」と聞いても、彼は絶対に話そうとしなかった。


「名前」
「…コンコン。坊主はもう寝る時間だよ」
「話がある」
「俺にはない。眠たいんだから寝かせてくれ」
「名前ッ!」


だけど今日だけはどうしても聞きたかった。
服を血で汚し、足を引きずる名前を見て、マルコは声をあげる。
しかし、マルコがいくら声をあげても名前が引き止まることはない。
さっさと部屋へ帰ろうとする名前の腕を力強く掴むと、ヌルッとしたものがマルコの手を汚した。


「汚れるから離してくれる?」
「このケガ…。どこでしたんだよい!」
「マルコ、俺の話を聞きなさい」
「名前こそ俺の話聞けよい!」


自分より大きい名前を下から睨みつけると、名前は目を瞑る。
すると、汚れていた服は綺麗になり、ケガも綺麗に消えた。


「ほら、治った。だから安心しろ」
「俺を騙せると思うなよい。どうせ幻だろい」
「今さっきのケガが幻かもしれないよ?」
「あんた最近一人で戦ってるだろい」


マルコの突然の言葉に、名前は言葉を詰まらせた。
しかし、すぐに「勘違いだ」と頭を撫でると、手を振り払われ、胸倉を掴まれる。
それでも名前の表情は変わることがなかった。


「何で一人で戦ってるんだよい。なんの為に俺がいると思うんだい!」
「―――なにを自惚れてんだ、クソガキ」


ピリッとした空気がマルコを覆う。
胸倉を掴んでいる手を振りほどき、マルコを睨みつけると、金縛りにあったように硬直した。
何か黒いものが名前の背中からジワジワと出てくる。
野狐の覇気が影となってマルコの足、腿、腹、そして首へとまとわりつく。
息をするのも苦しくなり、言葉を出すことすらままならない。


「なんの為にお前がいる?お前如きに俺が手を借りると思ったのか?能力を得て、何を慢心してやがる」


名前には珍しい荒い口調。
名前が喋るたびにビリビリと覇気が飛んでくる。
油断すれば気を失いそうになるが、気を失わせないようにしている。


「………ッ…で…も、あんたケガして…」


ようやく絞り出した声に、名前は覇気を解く。
するとマルコがその場に崩れ、息を整え始めた。


「―――ああ、すまない。長時間野狐でいると自我を少し失うんだ。悪い…」


頭を抑えながら謝り、乱れた呼吸をするマルコの背中を擦ってあげる。
何度も何度も謝りながら。


「マルコ、頼むから俺を守らないでくれ」


そのままの状態でマルコに優しく語りかける。
マルコはようくや呼吸が整い、恐る恐る名前を見る。
いつも見る名前で、ほっと息をついた。


「な、んでだよい。俺は不死だから死なねェよい…」
「痛いだろう?」
「っ」


名前の言葉は的確だった。
いくら不死でも、銃弾が当たれば痛いし、苦しい。
すぐに治癒はするが、あれだけはそう簡単に慣れるものじゃない。
ケガをするたびに顔を歪め、痛みを耐えているのを名前は知っていた。


「いくら復活するからって痛みから逃げることはできない。俺は…、弟の苦しむ顔なんて見たくないよ」


だから敵船を見つければ一人で片づけてきた。
白ひげを守るため、仲間を守るため、マルコに苦しい思いをさせないため。


「俺はお前らのお兄ちゃんだからな。兄が弟の笑顔を守って何が悪い」


その言葉を聞いた瞬間、目から涙が溢れた。
流すまいと必死に目を見開くのだが、


「だから、そういう能力の使い方は止めなさい。でも、痛みも感じないぐらい早く再生できるようになったら俺から頼るよ。マルコは俺より強いもんな」


名前の優しい気遣いに、溢れた涙は頬を伝って地面へと落ちた。



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