狐のお兄ちゃん | ナノ

兄の性格

「こりゃあなかなか可愛いな」
「なんだよマルコ!ぶっさいくすぎだろ!」
「いや、元が不細工だから仕方ないよ」


名前とサッチとイゾウの目の前には小さな青い鳥がちょこんと座っている。
青い羽根は美しいが、どうも目つきが悪く、「可愛い」というより「不細工」といったほうが正しい。
サッチがお腹を抑え、大笑いをする横で、イゾウも口端をヒクヒクさせ笑いを耐えている。


「テメェら…!笑うために来たんならどっか行けよい!」


二人の反応を見て、マルコは二人の頭を嘴でつっついた。


「こらこら、止めなさいって」
「うるせェ!こいつらの脳みそ引きずり出してやる!」
「怒った顔も不細工だな」
「ギャハハハ!ちょ、イゾウッ。それ以上言うなって!」


両翼を広げ、今度は羽ばたかせながらサッチの頭を蹴った。
嘴で髪の毛を引っ張ったり、足で蹴ったりするマルコを、三人の兄である名前が止めようとするのだが、怒り狂っているマルコの暴走はなかなか止まらない。


「マルコ、俺は可愛いと思うよ。ほら、いい子だから止めなさい」


少し真面目な声でマルコの両翼根っこを掴む。
身動きがとれなくなったマルコを自分の膝の上に乗せ、いい子いい子と頭を撫でてあげると大人しくなった。


「にしても、マルコが食った実も幻獣種だったとはな…」
「すっげェ希少なんだろ?いいなー…俺も食いたかったぜ…」
「サッチが食ったとこで、どうせ宝の持ち腐れになるよ。俺が変わりに食ってやる」
「イゾウはダメだ!それ以上強くなるな!」


マルコが悪魔の実を食べてしまった。
どんな能力なのか解らなかったが、先日の戦いでその能力を開花させた。
いくら傷を負っても、青い炎をまとって再生する。
とある情報によると、動物系「幻獣種」“トリトリの実”モデル不死鳥。ということが解った。
これで皆を守れる!と喜ぶマルコだが、名前はあまりいい顔をしない。


「早く飛べるようになりてェよい…」
「鳥なのに飛べねェってダメだろ!お前鳥失格ー!」
「サッチうるせェ」
「サッチはいつもうるさいよ」
「ぐっ…」
「マルコくんもイゾウくんも、あまりサッチを虐めないの」


トリトリの実を食べたというのに、何故か飛ぶことができないマルコ。
羽ばたいても数秒ぐらいしか飛べず、鳥の意味をなしていない。
なので、船にいる間は極力不死鳥になって、飛ぶ練習をするようにしたのだが、不死鳥マルコを見ては仲間達は笑い転げる。
文句を言いながらも、マルコは不死鳥に変身し、飛ぶ練習を続けているのだった。


「マルコ。あんまり無理しないほうがいいんじゃない?そのうち飛べるようになるって」
「やだ。早く飛べるようになりてェんだい」
「何で?」
「オヤジや名前が海に落ちたとき、俺が鳥になって助けるから!」
「あー……コンコン」


また頭を撫でると、今度は「止めろよい」と抵抗された。

いつもは素直じゃないのに、不意打ちで素直になる弟に、名前の心は温かくなる。
ずっとこのままでいたい。ずっとずっと可愛がっていたい。
今の時間が幸せだ。幸せすぎて辛い。
いつか訪れる別れがフッと脳をよぎり、マルコを膝の上からおろした。


「そりゃあ助かるよ。頼りにしてる」


緩んだ口元をいつものように無に戻す。
マルコは名前に「頼りにしている」と言われ、少し嬉しそうに顔を背けた。
隣に座っているサッチとイゾウにも、「お前らも助けてやるよい」と言うと、二人は笑いながらマルコをいじる。
と、その時。激しい風が吹き荒れ、名前がいつもつけている狐面が空へと飛ばされた。


「あー…」
「おい名前。なに呑気な声出してんだよ」
「早く取らねェと海へ―――」


サッチが狐面を追うも、狐面は風に遊ばれ、海へと落ちてしまった。
「あー…」とサッチと名前が同じような声をもらし、海へ伸ばした手をひっこめようとすると、何かが横切った。


「マルコ!」
「空飛んで取りに行くつもりか」
「マルコはいい子だねェ」
「いや、その前にあいつ飛べねェだろ!?」


マイペースなイゾウと名前に、サッチがツッコミを入れて再びマルコを目で追うと、マルコはフラフラしながらも海面近くまで下降していた。
嘴で浮いている狐面を取ろうとするも、波に揺られ、なかなか取ることができない。
次第に羽ばたきも怪しくなり、そしてとうとう、


「あ、落ちた」
「落ちちゃったねェ」
「だから!お前らもっと慌てろよ!マルコーッ!」
「浮き輪投げてやろよ。サッチが行っても邪魔だろ…」
「やれやれ。仕様のない弟だ」


バシャン!と音を立てて、サッチが海へ飛び込む。
沈んだマルコを救出しようとするサッチだったが、モビー・ディックから立つ激しい波にうまく泳ぐことができない。
呆れるイゾウ。その隣に立っていた名前が尾が四本生えた狐へと変身し、空中へと飛び出した。
しかし、重力に逆らって下へ落ちるはでなく、そこに階段があるかのように空をピョンピョンと跳ねながら海面近くまで降りる。


「ほら、大丈夫かい?」


サッチの首根っこを咥え、ポーンと空へ投げると、そのまま名前の背中に乗った。
咳き込む二人を乗せた名前は空を蹴り、船へと戻る。


「な、っげほ!…んだったんだ?」
「お前…空飛べるのかよい…」
「飛べはしないよ。今のは神通力っていうもの」


二人を甲板におろし、人間に戻ってマルコが握っていた狐面をお礼を言って受け取る。


「じんつーりき?」
「ある条件を満たし、天狐のときにしか使えない不思議な力のこと」
「…なんだよい。俺が空飛べなくても全然余裕じゃねェかよい!」
「え?…あー、そうだね」
「ッ!テメェなんか海王類に食われちまえ!」
「あ、マルコ」


名前の制止も聞かず、マルコはその場から走り去ってしまった。
特に慌てた様子を見せない名前を見て、イゾウとサッチは呆れた目で名前にこう言った。


「お前、前俺に、「イゾウくんは優しい心を持とうね」って言ったよな」
「言ったっけ」
「今のは名前が悪いと思うぜ。マルコ一生懸命なのによ」
「…あー…もしかして傷つけちゃった?」
「「謝ってこい」」


弟二人に睨まれ、名前は頭をかきながらマルコを追い、素直に謝ったのだった。


「やっぱりマルコは繊細だね」
「テメェが無神経すぎなんだよ」
「イゾウくんは的確なことしか言わないね。お兄ちゃん泣きそう」
「泣けば?」
「本当、容赦ないね」



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