狐のお兄ちゃん | ナノ

兄は素直

「俺思うんだけどよ、やっぱ名前って最強じゃね?」


今日はあまりにも天気がいいから甲板でお昼をとっていた。
名前は寝転がったままサッチが作ったサンドウィッチを口に頬張り、ジッと見つめながら口だけを動かす。
隣ではマルコとイゾウが「失敗作かよ」と文句を言っていた。
しかし、大事な食糧を捨てるわけにもいかないので、失敗したサンドウィッチを眉間にしわを寄せながら食べる。


「………うん、まずい」
「だから失敗したって言っただろ!マルコとイゾウも無理して食うなよ!」
「いや、大事な食糧だから食べるよ。それに不器用なのに俺らの為に作ってくれたんでしょ。捨てられないよ」
「サンドウィッチを失敗するなんてどんだけ不器用なんだよ…」
「俺でもこれぐらい作れるよい」
「まァまァ二人とも」
「うるせェ!」


しっかり噛み、喉に通して素直に感想を告げれば、サッチは涙目でサンドイッチを取り上げた。
四番隊隊長の趣味が料理であることから、サッチも手伝っているのだが、不器用で大雑把なサッチにはなかなか難しい。
それでも最後まで作り上げ、少しずつではあるが上達してきた。
その努力を知っているからこそ、名前もマルコもイゾウも、文句を言いながらでも絶対に全てを食べてくれる。


「で、俺が最強だって?」
「だってそうだろ。野狐になれば無敵じゃねェか」
「あー…」


トマトが潰れているサンドウィッチを手にし、口につめる。
ご飯を食べている間の名前は絶対に喋らない。ちゃんと口の中のものがなくなってから喋る。
それはイゾウもで、ワノ国ではそういった習慣があるのか?とサッチが聞いたところ、二人は口を揃えて「しつけだ」と答えた。


「サッチは単純だなァ」
「何でだよ!」
「詳しくは説明してないけど、能力には限界があるんだよ。例えば今俺が野狐になるとする。そして、サッチに向かって「雷に打たれて死ね」と言ったところで、それが現実になるとは限らない」
「でも前に「言ったことが現実に起きる」って言ったじゃねェか」


前に野狐についての説明を聞かされた。
説明を覚えていたイゾウが矛盾を指摘すると、名前は「コンコン」と笑う。


「あのね、俺は魔法使いじゃないの。天気までは操れないよ。それに、そういったことは負のオーラが集まる場所でしかあまり発揮されないの。「よくないもの」は負を好むからね」


意味解る?と小首を傾げると、マルコとイゾウは顔を見合わせ、なんとなく頷いた。
対象に、サッチは全く意味が解ってない表情を浮かべている。


「名前ー、お前説明ヘタすぎだってー」
「あー…うん、サッチくんには難しいだろうね。えーっと、戦場には絶対に剣とか銃があるでしょ?」
「おう。俺も剣使う!」
「うん。で、敵に「剣で斬られて死ね」って言うと、それは現実になる」
「…おう」
「逆にそこにないもので「死ね」って言っても現実にはならない。だって「ない」んだから」
「お、おう」
「コンコン、ちゃんと理解できたかい?」
「………ようは名前が強ェってことだろ!?」
「んー……サッチくんはおバカさんだね」


少しの間、名前に言われたことを考え、「解った!」と目を輝かせて言うと、マルコもイゾウも呆れるように溜息をついた。


「野狐のときの言葉は絶対だ。その通りにしかならない。だから一つでもその言葉の条件から当てはまらなかったら、現実にならないんだ」
「うやむやな言葉じゃあ敵は死なないってことかい」
「そうそう、マルコは賢いね」
「サッチがバカすぎなんだよ」
「うるせェぞイゾウ!俺より年下のくせに生意気な!」
「コンコン、兄弟でケンカはダメだよ。落ちつきなって」
「でもイゾウが…。あいついっつも俺をバカにすんだ!」
「本当のことしか言ってねェだろ」
「イゾウくんはもうちょっと優しい心を持とうね」


サッチのほうが年上なのに、イゾウには口で勝てない。腕っぷしでも勝てない。
今日は名前が仲裁をしてくれたからここまでですんだが、いつもはイゾウに酷いことを言われては涙目・涙声で泣き寝入り。
若干泣きそうなサッチの頭を撫でてあげると、大人しくなるサッチ。口元ではまだ文句を言っていたが、イゾウもそれ以上何も言わなかった。
そんな二人と名前をマルコはジッと見ていた。
イゾウは一番隊から十六番隊に異動し、名前と関わることが少なくなったから、こうやって久しぶりに集まると名前に甘える。
甘えると言っても、態度は素っ気ないし、口も悪い。だけど名前の傍から離れようとはせず、名前の言うことを素直に聞く。
サッチは誰よりも名前に甘えている。修行にも付き合ってもらっているらしく、会話もよくかわす。
何より、一番の甘え上手。だから、名前がサッチを一番可愛がっているようにも見え、少し胸がもやもやしてしまう。


「野狐は怖ェけどよ、やっぱ名前は強ェや!戦いのプロだな!俺も名前みたいに強くなってオヤジと仲間を守りてェ!」
「コンコン、こんなの呪いだよ。…でも、サッチに言われると嬉しいかな」


そう言って滅多に浮かべることのない優しい表情でサッチを見る。


「何だよい…。お前四番隊だろい…」
「え、何か言ったか?」
「不味いって言ったんだい」
「だから!文句があるなら食うなって言っただろ!?」
「不器用で大雑把なお前ェに料理なんてできるわけねェんだ。諦めろよい」
「うるせェ!例え失敗しても、俺は止めねェぞ。それに結構楽しんだ!」
「まァ頑張りなよ、サッチ。きっといつか上達するって」
「ほら見ろ!名前は俺の味方だよなー!」
「んだよい、それ…」
「俺やっぱサッチ嫌いだな」
「それに、食べ物なんて噛んで飲みこめば結局は一緒だろ?」
「名前酷ェ!」
「だが心理だ」
「よい」
「うわああん!お前らなんか大嫌いだァ!」


その一時間後には「寂しい!」と言って戻ってくるサッチだった。



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