兄の気まぐれ 「あんた…。そこで何してんだい」 「なにって…ミーティングに参加しようと思って」 目を光らせ(とは言ってもいつもと変わらないやる気のない目で)「凄いだろ」といった空気を出すが、隊長がミーティングに参加するのは当たり前のことなので、別段凄いとも何とも思わなかった。 「じゃあ俺は必要ねェよな」 「え、なんで?」 「何でって。隊長のあんたがいるなら俺は必要ねェだろい」 「あー…そっか。うん、でも一緒にいようよ。ね」 あの無関心で有名な名前から、「一緒にいよう」と言われたマルコは激しく驚いた。 表情に出ることはなかったが、心の中では「何があった!?」とたくさんのマルコ達が会議を始めている。 しかし、焦る自分が何人もいる隅っこのほうには喜んでいる自分もいた。 「し、仕方ねェからいてやるよい。どうせお前寝るんだろい」 「コンコン、さすがマルコ。頼りになるよ」 マルコと二人で他の隊長達がやって来るのを大人しく待つ。 それぞれの隊長が来て名前の顔を見るなり、 「今日は雨か…」 驚かれた。 そのたびにマルコは溜息を、名前は笑いをこぼす。 「お、何だ名前がいるとは珍しいじゃねェか」 「二番隊長さんには負担かけてるからね」 「そう思ってんならマルコにもあんまり迷惑かけるなよ」 「あー……………うん」 「間が長ェんだよい」 気だるい足取りで前へと出る名前。 ミーティングを仕切るのは一番隊長の役目。 「よし、……あー…ミーティング始めます」 『うーす』 「二番隊長、あとは任せた」 『おい!』 「ダメすぎだろい、お前」 「疲れた」 「今のどこに疲れる要素があったか逆に聞きたいよい」 呆れを通り越したマルコに一発殴られ、名前は甲板に寝転ぶ。 そうしている間にも二番隊長がミーティングをさっさと進め、マルコもメモを取りながら寝息をたてている名前の身体を何度か蹴る。 「マルコ、俺マゾじゃないから止めて。痛いよ」 「じゃあ働け」 「それは無理。俺は眠たい…」 「昨日寝ただろい」 「昨日は昨日。俺は今眠たいの」 「そのまま冬眠しろい」 「え、いいの?じゃああとのことはマルコに全部任せるよ。そっかー、冬眠って手があったな…。ひと月ぐらいは誰にも会わなくて助かる」 「…やっぱダメだい」 「冬眠しろって言ったのはマルコだろ。ねー、二番隊長さん。君も聞いたよね」 「今ミーティング中だから静かにしてろ。じゃねェと本気で甲板掃除をさせるぞ」 「あ、ごめん。マルコくん、静かにしようね」 「それはテメェだよい!」 「もー、なんなのこの子。最近冷たいわ暴力的だわでお兄ちゃん泣きそう…」 泣き寝入りをする名前を見て、マルコは少し焦った。 もしこのタイミングで「マルコ嫌い。異動して」と言われたらさすがのマルコも泣きそうになるからだ。 勿論そんなことは言わないと信じているのだが、先ほどの台詞は言いすぎた。……ほどではない。 だけど最近、名前に嫌われたくないと強く思ってしまう。 どう声をかけようかと悩んでいる間にもミーティングは終わり、名前も本気で寝落ちしてしまった。 寝息をたてる名前を見て、ちょっとイラッとしたマルコ。自分ばかり気にしててバカみたいだ。 「お前がそんな性格じゃなかったらよかったのにな。もっとオヤジみたいになれよい。あと仕事しろい」 そう言って、羽織っていたシャツを寝ている兄にかけてあげた。 ( ← | → ) ▽ topへ |