兄から学ぶ 今夜もモビー・ディック号の上では宴会が行われた。 サッチはいつものように白ひげの近くで隊員達や隊長達に混じって場を盛り上げ、イゾウは隊長のお酌をしていた。 他人と関わるのが面倒な名前も、宴会は嫌いではないらしく、盛り上がる場所から離れた位置で静かに飲んでいる。 その隣には、若くして一番隊を支えるマルコ。 文句を言いながらも名前の実力は認めており、そして次第に名前の人柄に魅かれていった弟の一人。 「盃に浮かぶ、月の影。なんて風流なんだ」 「フウリュウ?」 特に会話をすることお酒を飲んでいたのだが、名前がいきなり呟いた。 名前の口から聞いたことのない単語が聞こえ、お酒が入ったコップを持ったまま名前を見ると、「コンコン」と笑って頭を撫でられる。 最初は子供扱いされているみたいでイヤだったが、最近はそう思わなくなった。 白ひげに頭を撫でられるみたいで、気持ちいい。 「なんて説明したらいいんだろうな」 「ワノ国の言葉かい?」 「そう。ほら見てごらん。赤い盃に注がれた酒の中に、輝く月。綺麗だと思わないかい?」 名前に盃を渡され覗きこめば、確かに酒の中に月が浮かんでいた。 手が動くたび月も揺らぐ。 「……」 「コンコン。綺麗だとは思わないか」 「…そんなことは…」 「美意識の一つだ。人によって多分変わると思うし、これが正しい意味なのか解らないけど、俺はこれが風流だと思うよ」 ワノ国出身者の名前は時々解らないことを言ったり、行動をする。 そうは見えないけど、人を傷つけないような言い方・言い回しをしたり、さりげない優しさを見せたりもする。 でもその大体は相手に伝わらない。 一度「やってやったんだから言ったらどうだい?」と言ったところ、「これがいいんだよ」と頭を撫でられ流された。 「ワノ国ってのは不思議な国だよい…」 「そうかい?」 「だって人に親切にしたらお礼を言われたいと思うだろい?」 「あーうん、そうだね。言われたら嬉しいよ」 「フウリュウってのも解んねェよい」 「あー…、こればっかは感性だからなァ…。そうだ」 後頭部で結んでいた狐面をはずし、空へと投げる。 狐面は空中で扇子へと変化し、名前の手に落ちた。 「それは?」 「これは扇子。あ、扇だっけ。まァいいや」 パッ!と音を立てて広げると、金色に輝く柄が目についた。 まずは柄をマルコに見せ、前に倒して横にきる。 名前が動くたび、足首の鈴が音を立てて、小さく踊った。 扇子を手にしたまま、見たことのないような踊りをその場でする名前に、マルコは目が離せない。 何をどう踊っているのか、何で扇子が必要なのか…。 この踊りに何の意味があるのか解らないが、黙って見続け、数分も経たないうちに名前は踊るのを止めた。 最後にマルコの目を見ながら、パチンと扇子を閉じると扇子から桜の花びらが舞い落ちる。 桜の花びらは風に揺られながら盃の中へと舞い落ちた。 「踊りは適当だけど、どう?」 「よく解んねェけど…。でも…綺麗、だったと思う…よい」 「多分違うけど、そんな感じのことを「風流」って言います。解った?」 酒に揺れる花びらを見ながら、コクリと頷くと、名前は扇子を狐面へと戻す。 少し息をつき、盃に手を伸ばした瞬間、マルコが「名前」と珍しく名前を呼んだ。 「どうした?」 「これもフウリュウってやつかい?」 指をさすのは花びらが入った盃。 少し自慢げな顔で名前を見ると、名前は盃を手にとって桜の花びらごと一気に飲み干す。 「あー!何すんだい!」 「さすがマルコ。偉い偉い」 「せっかくお前の言うフウリュウってやつを見つけたのに…」 「いいかい、マルコくん。ワノ国にはこんな言葉もあるんだよ」 「何だよい」 「「花より団子」」 また解らない言葉を言う名前に、マルコは眉をしかめて名前のわき腹を一発殴ったのだった。 ( ← | → ) ▽ topへ |