狐のお兄ちゃん | ナノ

兄はアメのみ

「マルコは名前が好きだよな。ブラコンだ」
「ハァ!?」


同じ部隊の隊員に言われ、マルコは驚愕した。
ブラコンになったつもりもないし、好きになったつもりは……少しある。
だけど、ブラコンと言われて熱が顔に集中した。
周囲を見回し、名前がいないことを確認して隊員に向き直る。


「テメェ、ふざけたこと言ってんじゃねェよい!」
「ちょ、落ちつけって!熱くなると余計怪しいぞ!」


ギリギリと力いっぱい胸倉を締めつけ、これでもか!というぐらいの殺意を向ける。
しかし、チリンと鈴の音がマルコの耳に届いた瞬間、手を離してイスに座った。


「おー、マルコ。ここにいたのかい」
「…何だよい」
「なんか二番隊長から書類渡されたんだけど全然解らなくて」
「あんた隊長だろい。ちゃんと仕事しろよい」
「いやー、マルコがよく働いてくれるからついつい甘えちゃって。できる弟を持つと鼻が高いよ」


声だけ笑いながらマルコに近づき、二番隊隊長から渡された書類を机に置いて、代わりに果物を手に取る。
マルコは怪訝そうな顔で書類に手を伸ばし、目を通した。
近々行われる大掃除のことについてのお知らせ。誰が読んでも絶対に解る内容だ。
呆れた溜息をもらして、名前を見上げると丁度視線がぶつかった。


「宜しくね」
「テメェも参加すんだよい」
「あー…俺お部屋の掃除があるから…」
「部屋には何にもねェだろうが!分身して掃除しろい!」
「だって疲れるじゃん。掃除した場所で寝るのは好きだけど。ともかく任せた。俺ちょっとこれから用事があるんだ」
「どうせ寝るだけだろい」
「いや、これからサッチと組み手すんの。あの子努力家だよねー、コンコン」


サッチ。という名前を聞いた瞬間、持っていた書類をグシャリ!と握りしめた。
表情は変わらないが、口を閉じ、名前を黙って見る。


「仕事を全部俺に押し付けて遊ぶのかよい」
「だってサッチがうるさいんだもん。それにあの子と遊ぶの楽しいし」


その言葉を聞き、さらに書類を握りしめる。
隣にいた隊員は「あーあ…」と言いながら握りしめられている書類を見ていた。


「サッチも一番隊にくればいいのに」
「サッチなんかいらねェよい」
「でもパシリに使える。きっと使える」
「俺も使ってんだろうが」
「あー…コンコン、そうだね。マルコがいるからいいや。マルコはいい子だよ」


よしよし。と頭を撫でてあげると、書類を握りしめるのを止めた。


「ガキ扱いは止めろよい」
「はいはい、ごめんね。じゃあお仕事任せました。疲れたら俺の部屋で寝ていいから」
「い、いいのかい!?」
「あー、うん。マルコちゃん繊細だもん。俺あんまり部屋で寝ないし好きに使ってよ。じゃ」


また鈴を鳴らしながら名前はサッチが待つ甲板へと向かう。
マルコは黙って名前を見送り、撫でられた場所を確かめるように手でおさえる。
ほんのり笑みを浮かべ、書類に目を向けると、隣から視線を感じた。


「マルコはほんと名前が好きなんだな」
「……」


隊員の言葉に、さすがに言い返すことができなかった。



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