狐のお兄ちゃん | ナノ

兄というもの

「オラァ!かかって来やがれ!」
「ケンカ売ってきたのはテメェらだろい?相手してやるから早くしろよい」


ミーティングで聞いた通り、お昼過ぎぐらいに目的の島へと到着した。
クルーのほとんどを島に降ろしたモビー・ディックは、白ひげや隊長数名に連れられ、島の造船ドックへと運ばれた。
その間マルコはサッチに誘われ、街を適当にぶらつく。
本当はイゾウも誘ったらしいのだが、最近の彼は十六番隊長につきっきり。
二人じゃあ楽しくない!と文句を言うサッチだったが、マルコと二人が不満なのでない。
それも解っているマルコは適当に彼を慰め、人通りが少ない路地裏へと進んでいく。

港についてから目をつけられていた相手を誘い込むために。

路地裏に入り込み、人の気配がなくなるとやっぱり襲われた。
しかし、白ひげ海賊団に入ってからさらに強くなった二人には街の不良では少々役不足。
擦り傷などを作ったものの、あっという間になぎ倒し、二人は拳を合わせて喜んだ。


「―――ッ!?」
「サッチ!」
「クソガキが…!調子に乗りやがってッ…」


しかし、倒したと思っていた一人の男がフラフラになりながらも立ち上がり、油断していたサッチの後頭部を近くにあった木材で殴りつけた。
倒れるサッチに手を伸ばすマルコだったが、マルコも殴られ、一緒になって地面に倒れる。


「覚悟しやがれ!」


何度も殴りつけられ、意識が薄れていくなか、男が大きく振りかぶったのが見えた。
サッチもマルコも動かない身体を無理に動かそうとしたが、ピクリとも動かず、覚悟を決めるよう目を固く閉じた。


「バカなことはするなって言っただろう」


そこへいきなり現れた名前。
マルコの隣にしゃがみこみ、かついでいた酒瓶を地面に置く。


「な、何だテメェ!」
「あー…そのなんだ。弟が世話になった」
「弟…?テメェも白ひげ一味か!」
「うん、正解」
「じゃあテメェもぶっ飛ばしてやるよ!俺ァテメェら海賊が大嫌いなんだ!」


言うや否や木材で名前を殴りかかる。
しかし、素人の攻撃が当たるわけがなく、空に飛んで逃げていた名前は男が持つ木材の上に降り立った。


「ぶっ飛ばす?何言ってんるんだい、お前さんは。俺がお前を粛清するんだよ。不純なもんは清めないとね」


そのまま男の顔を蹴ると、男は木材を手放し名前は地面に落ちる。
顔を抑える男の両こめかみを片手で掴んで、勢いよく地面へと叩きつける。
骨が軋む音が聞こえ、男は悲鳴をあげることなく意識を飛ばした。


「あー、疲れた」


狩衣についた埃を払いながらマルコに近づき、置いてあった酒瓶の隣に腰を下ろす。
マルコもサッチも意識は取り戻しているのだが、身体中が痛くて何も喋れない。


「マルコ、サッチ」


いつもと変わらない表情で二人を順番に見て名前を呼ぶ。
ただ呼ばれただけなのに何だか怖くなり、名前の顔を見ることができない二人。


「別にお前らがどうしようと勝手だけど、一応言っとく。海賊と不良の喧嘩は違うよ。意味解る?」
「……」
「…」
「お前らは「虚勢」を張るために海賊してるの?違うよね。こいつらが戦うべき相手かちゃんとよく見ないと」
「名前、俺…」
「コンコン。まァでもサッチはケンカセンスあるよなー。俺より強そー」
「…」
「マルコは身軽だな。俺より速そー」
「悪、かった。俺らもうただの不良じゃねェのにな…」
「………ったよい…」
「んー?あー、解ってくれたならいいよ。でも、俺が言ったことが正しいってわけじゃないからちゃんと自分達で考えてね。じゃあ俺お昼寝してくるわ」


バイバイ。と手を振って、二人に背中を向けて高く飛び立つ。
残された二人は名前を見送って、ケガした場所を抑えながら人通りが多い道へと向かった。


「なーマルコ」
「…」
「俺、名前のこと知れば知るほどよく解んねェや。人型のときも強ェし…」
「……そうだな」
「でも、名前が一番隊長務めてる理由が今なら解る!いつか名前に勝ちてェなァ!」
「そうだな…」
「うし、さっさと傷の手当てして修行しようぜ!」
「サッチは修行バカだな」
「人間が化け物に勝つためには相当な努力が必要なんだぞ!」
「仕方ねェから俺も付き合ってやるよい」



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