狐のお兄ちゃん | ナノ

兄というもの

海賊は自由だ。
そうは言うが、白ひげ海賊団には細かな規律があった。
なにせ大所帯で、油断をすれば敵船のスパイが潜り込んだり、食糧が尽きかけたり…。細かな仕事も山積み。
内部崩壊しないためにも、一から十六まである部隊の隊長は毎朝ミーティングを開く。
十六人の隊長が集まったミーティングで場を仕切るのは代々一番隊長の役目なのだが、


「あんた…またこんなとこで寝てたのかい」
「あー…んー…気持ちいいよー…」
「ミーティング始まるみたいだよい」
「あーうん、そう。マルコ代わりに出といてよ。どうせ守備の確認とかそんなんだろ。面倒なら二番隊長に任せればいいし」


現在の一番隊長を務める名前は一度もミーティングに参加したことがなかった。
他の隊長達や白ひげも名前の性格をよく知っているため、無理に参加させるつもりはない。
というより、参加させてもどうせ寝てるのが目に見えて解っている。
だから、一番隊隊員達がローテーションでミーティングに参加するようにしていたのだが、最近はマルコが頻繁に顔を出すようになった。
ここに入団する前は街で不良をしていたのに、根は真面目で仕事熱心。
隊員達とも仲がいいので、若くして一番隊隊長代理を務めている。


「たまにはあんたが出ろよい。隊長だろい」
「どうせ名ばかりだから。ほら、俺隊長って柄じゃないでしょ。隊長の座もマルコにあげるからさ」
「いらねェよい」
「そんなこと言うなよ。俺は早く隊長から降りたいんだ」
「テメェのお下がりなんかいらねェ。俺は俺の手でお前を隊長の座から引きずり落としてやりたいんだい!」
「そう。じゃあ早く俺より強くなってね。おやすみ」


甲板の真ん中で寝ていた名前はもそもそと起き上がって部屋へと戻って行った。
それと同時に他の隊長達が出て来て、名前と軽く挨拶をしたあといつものミーティング場所へと移動する。


「マルコも大変だな」


二番隊隊長がマルコに気づいて近づく。
いつもと同じく名前の代わりに出席するマルコの頭をポンポンとたたきながら、何枚かの書類を手渡した。


「よーし、始めるぞー」
『うーす』
「今日にでも新しい島につくみたいなので、いつもみたいに買い出し組と居残り組を決める。予定だったんだが…。今回モビー・ディックをメンテに出すことになった」


その日のミーティングは無事終わり、マルコはメモを書いた書類を持って一番隊の大広間へとそのままの足で向かう。
まだ寝ている隊員達を叩き起こし、ちゃんと座らせて先ほどの説明を簡潔に話した。


「つーわけで、三日ぐらい外で自由行動してくれ」


モビー・ディック号をメンテナンスに出す間、隊員達は各々好きに過ごすよう告げると、朝だと言うのにテンションの高い声が部屋いっぱいに響いた。
次の島は相当大きいらしく、遊びには困らない。大きい島ということは女もいるということ。
盛り上がる大広間を、マルコは耳を抑えながら出て行くと、廊下で寝ている名前がいた。
入るときはいなかった。と言うことは、食堂に向かおうとしてここで力尽きたんだろう。


「こいつは本当、どこでも寝るんだな…。おい、起きろよい」
「……マルコちゃん、どうかしたかい?」
「その呼び名は止めろって言ってんだろい!それよりお前はどうすんだい」
「え、何が?」
「廊下にいても俺の声が聞こえなかったのかい?」
「うん、寝てたもん」
「…ハァ」


だらしのない兄の姿に、溜息しか出てこないマルコ。
そんなマルコを見て名前はいつものように「コンコン」と笑って、「何かあるのかい?」と聞いた。


「三日間ぐらい島で過ごせ」
「解った」
「……あれだけで納得できるのかい」
「マルコが言うからね」
「な、何だよい…それ…」
「だってマルコは嘘をつかないだろう。だから俺はそれに従うよ」
「そうかい…」
「あー…何しようかなァ…。マルコはどうするの?」
「別に…。多分サッチと出ると思う」
「コンコン、仲良しだねェ。まァバカなことするなよ」
「……おい、どこ行くんだい。朝食後は一番隊が甲板の掃除だよい」
「ごめんなマルコ。それだけは従えないや」


こういうときだけは足取り軽く、廊下を跳ねるように逃げ出した。
最近のマルコも、「追っても無駄」ということを学び、書類を一番隊専用のコルクボードに張り付け、食堂へと向かったのだった。



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