夏休み 桃くらむ様・「金曜日の逢瀬・番外編」
「いやぁいいんだぜガジル、俺も良い歳したオヤジだけどさ、高校生くらいの学力ならあるから俺に頼っても…」 「夏休みの宿題なら全部終わってる」 「え、マジか」 「マジ」
夏休みもあと一週間で終わる8月のある日。 麦茶を冷蔵庫から取り出してぐびぐびと飲むガジルに、ギルダーツは切なそうな視線を送った。
「んだよ気持ち悪ぃ…」 「ひっで…!!いや、この前ナツの宿題付き合わされただろ?ガジルはないのかなーって…」 「ない」 「そんなかっこよく腰に手を当てて男らしく言うなよ!!」
あぁ…!!とぴっかぴかに磨かれたフローリングに項垂れるギルダーツに、ガジルは面倒くさそうにため息を吐いた。 ちなみに、リリーと暮らす様になってこの方、夏休みの宿題を残した事は無い。 早く終わらせなければ夕食がわびしいのだ。 口で言われるよりも行動で示される方が効いて来る。 とまぁ意外にもしっかりしているところを見せた所で、項垂れるギルダーツを追い越してソファに座った。
「いいじゃねーか、仕事以外で頭使わなくてもいいんだから」 「いや…でもよぉ…ここの問題終わったらご褒美あげるぜ、とか…」 「アホか。ギルダーツって時々ナツ以下だな」
とどめの一発とでも言うように放たれた言葉がギルダーツの胸を刺す。 ぶわっと涙が溢れそうになる気持ちを押さえ、ガジルの隣にどかりと座って唇を真一文字に結んだ。 隣に座られた事でソファが沈んでガジルも揺れる。
「ガジルの為に無理言って夏休み貰ったのに…」 「何だその拗ね方!!勉強だったらテストの前にしてんだろ!!」
子供か!!と怒鳴りたい衝動を抑えてひくりと顔を引きつらせる。 まぁ、まさか8月に夏休みを取ってもらえると思えなかったので、それは感謝したい。 だからそんな貴重な夏休みを勉強なんてつまらない事で潰したくなかった。 だってよー…と唇を尖らせる姿に、こいつ本当に自分よりも一回り以上大きな大人なのか?と疑いたくなりつつ、この前駅前で見たポスターの内容を思い出す。
「おいギルダーツ」 「…なんだよ」 「それ以上拗ねんなら今夜ある花火大会一緒に行こうって誘わねーぞ」 「花火大会!?行くに決まってんだろ!!」
さっきの表情が一転、まるで褒められた犬のようにパッとみを翻し、ギルダーツは笑顔を浮かべた。 良かった、喜んでくれた。 気付かれないようにホッと一息吐いて微笑めばギルダーツも嬉しそうに笑顔を浮かべる。 と、何かを思いついたのか、そうだ!と声を上げた。
「今からデパートいくぞ!!」 「は?」
何で? ガジルの疑問もどこ吹く風、ギルダーツは嬉々として立ち上がり、寝室へ消えて行く。 部屋着から着替えるのだろうと聴かずとも分かるが、何故デパートに行くのかは聴かなければわからない。 1枚上を行ったと思えばすぐに1枚上を行くのがギルダーツ。 ガジルも後を追って寝室へ足を向ける。
「ちょ、ちょっと待った!」 「ん?」 「出かけるのは夕方からでいいだろ?何でわざわざデパートなんかに…」 「そりゃあ夏祭りに行くんだから準備ってもんがあるだろ」
ぽいと着ていたシャツをベッドに投げて濃紺のポロシャツを着る。 夏の始めに一緒に見に行ったポロシャツだと思い出しながら、やはり意味が解らずに眉間に皺を寄せた。 そんなガジルにギルダーツは笑みを浮かべ、ちょいちょいと手招きをし、招き寄せる。 意味が解らないと表情に出ているガジルは手招きされるままに近づき、太い腕に捕まった。 ちゅっ、と額に軽く口づけられて顔が赤くなった。
「夏祭りって言やぁ浴衣だろ?俺が見立ててやるよ」 「はぁ!?見立ててやるって…まさか買いに行くのか!?」 「当たり前だろ?」
俺持ってねーからな。 当然のようにあしらわれて目眩を感じた。
耳をつんざくように鳴く蝉の声を背に、楽しそうなギルダーツの隣を歩く。 浴衣を買ったらそのまま祭に行くから車は必要ないだろ? 爽やかに汗をかくギルダーツを見上げ、ガジルは苦笑を浮かべた。
夏休みもあと少し。 それでもまだまだ夏は続きそうだ。
E N D
桃さん、お待たせいたしました…!! 「金曜日の逢瀬・番外編」と言うことで、久しぶりにダメ大人なギルダーツにワガママを言わせてみました。 ガキみたいにはしゃぎやがって…と呆れるガジルも、浴衣姿のギルダーツを見てドキドキしちゃうんですよリア充め!!!! と、秋の空の下書かせていただいました。 リクエストありがとうございました!!
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