ねぇ、好きだよ ♂エルザ・♀



カウンター席に腰掛けるルーシィ、同じように隣に腰掛けるガジル。
ガジルの指先に真っ赤に染まったハケが滑る。
熟したサクランボのように鮮やかで甘そうだが、塗られているガジルは眉を顰めた。
鼻を突くシンナーの香り。
滅竜魔導士の鼻には些か強すぎたようだ。
一度ハケを小瓶に戻したルーシィは、手で風を送りながら苦笑した。

「そんなに怖い顔しないでよ、すごく綺麗に塗れてるのに」
「臭くて頭がおかしくなりそうだ…」
「確かにあんた達にはキツいかもね…」

そう言っても止める訳もなく、ルーシィはもう一度ハケを取った。
斑がないように重ね塗りする為だ。
勿論、ガジルのテンションは下がっていく。

「もうやだ…」
「何よ、塗ってくれって言ったのはあんたじゃない」
「そ、そうだけど…」

真っ赤なマニキュアを手に、塗ってくれ、の一点張り。
断る理由もなければ引き受けるのは必然だった。
化粧もろくにしないガジルからの申し出には驚いたが、興味が勝ったのかもしれない。
なぜ突然マニキュアを塗りたくなったのか、と。

「重ね塗りが終わったらトップコートも塗るからね?」
「何だそれ」
「マニキュアが傷付かないようにする為の仕上げみたいなものよ」
「指の感覚がおかしい。こんなもんよく塗ってられるな」
「じゃあ何であんたも塗ってるの?」

大きな瞳がガジルを写す。
次第に頬は赤みを増し、耳まで赤くなってしまった。

「え、ちょっと、何よその反応!!」
「うっせぇバニー!!早く終わらせろ!!」
「バニーじゃないわよ!!はっは〜ん…さてはあんた、好きな人でも出来たわね?」

プスプスー!とわざとらしく笑うルーシィに、ガジルはろくに反論も出来ずに唸って俯いた。
両手が空いていればちゃんと顔を隠す事が出来るのに。
暗に秘密が露呈されてしまい、どうする事も出来ない。
頭から煙を出すガジルをルーシィは微笑ましく思った。

「誰?誰なの?言わないから教えなさいよ」
「絶対に嫌だ」
「あ、わかった、この色に関係してる人でしょ」
「………………」
「…あんたってすぐに顔に出るわよね」
「うっせぇ!!」

耳まで赤くしたガジルに苦笑し、再びハケを滑らせる。
赤と言ったら彼しかいない。
朝焼けに染まった髪を靡かせる、誇り高き妖精の王。
男女問わず高い人気を誇る美青年だ。

「ほお、珍しいな、ガジルがマニキュアなんて」ニヤニヤと笑うルーシィに反論しようとした瞬間、背後から聴こえた心地良い声。
ピシリ、ガジルが固まった。
そんな様子も気にせずに、声の主であるエルザはガジルの後ろから二人の間を覗く。

「あ、エルザ。仕事は終わったの?」
「あぁ、思ったより早く終わったんだ。それにしてもルーシィ、巧く塗れているじゃないか」
「でしょ?ガジルにちゃんと塗れって言われてるから」
「なんだ、ガジルが言い出したのか?」

ルーシィの唇が綺麗な弧を描く。
石のように固まっていたガジルの中にふつふつと怒りが込み上げるが、エルザに顔を覗き込まれて急いで首を縦に振った。

「た、たまには塗ってみようと、思って」
「良いんじゃないか?ガジルの瞳と同じ色だ」
「あ、えっと…うん」

綺麗に微笑む妖精の王。
あんたの髪の色だよ、とは言えなかった。
言えるほど心臓は強靭でないし、気付かれなくて良かった、と反対に安心した。
しかし、これでは自分が大好きなナルシストみたいだ、とガジル。

「しかしあれだな」
「ん?」
「俺の髪の色みたいで気分が良い」

いくつもの修羅場をくぐってきた大きな手のひらが、パチパチと瞳を瞬くガジルの頭を撫でる。
そこでエルザはマカロフに呼ばれて二人から離れていった。
ガジルは再び石のように固まり、ルーシィは抑えられないニヤケを晒しながらガジルの指先を扇ぐ。
あれはどう見たってアピールされていた。
あぁもう、可愛いんだから!!

「もうあんた達付き合っちゃいなさいよ」
「なん…!!」

誰が見たって妖精の王が恋してるお姫様はあんたなんだからさ。



E N D


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