それでも君が好き!! 火竜親子・♀



「ガジル、最近肌艶良いわよね」

テーブルに頬杖を突き、ルーシィは目の前で鉄を食べるガジルに問いかけた。
ん?と首を傾げてビスを飲み込み、ガジルはペタペタと両手で頬を触る。
確かに最近肌触りが良いような気がする。

「うん、確かに」
「確かにって…あんた、肌のお手入れした訳じゃないの?」
「いんや、一度もした事ねぇけど」
「ちょ、何それ、毎日お手入れしてる私への当て付け!?」
「んー…そう言えば、あいつらからあの鉄貰ってからかなぁ…」
「まさかのスルー!!?」

憤怒するルーシィをサラリと流し、スプーンをくわえて最近の記憶を呼び戻す。
そう、あれは確か…



〜一週間前〜



「ガジル、ただいまぁ!!」
「暑苦しい近寄んな変態!!」

ここ数日このやり取りを見ていなかったような気がする。
と、ギルドメンバーの心の声が重なった。
額に青筋を立てるガジルの腰に抱きつくナツ。
そして、最近もう一人増えた。
茜色の髪を靡かせ、ガジルを後ろから抱き締める色男。
ナツと同じマフラーをしている男はガジルの黒髪に頬を擦り寄せた。
最近この親子を見なかったのは、二人でクエストに行っていたかららしい。

「寂しかったぜガジルちゃん!!」
「あんたもか変態親父っ」
「離れろよイグニール。ガジルは俺の嫁なんだからな」
「お前が離れろバカ息子。ガジルちゃんはお前のお母さんになるんだぞ」
「どっちもねぇよクズ親子」

尻や胸を撫でる二人の手の甲を思い切りつねってやった。
それはもう千切れるんじゃないかってくらい。
案の定地面をのたうち回る二人を鼻で笑い、ガジルは女王様のようにカウンターの椅子に座って見下ろした。

「静かだと思ってたのに………ホント邪魔」
「イグニール、ガジルって怒ると色っぽくなるのな」
「わかるわー、ピンヒール履いて踏んで欲しい」
「勿論ボンテージで!!布部分少な目で!!」
「ナツ冴えてへぶしっ!!」
「あ、イグニふべらっ!!」

キラキラと何かを期待する視線を寄越す二人の顔面に鉄竜棍をぶちこみ、カウンターに突っ伏した。
何でこんな変態共に好かれてしまったのだろう。
確かに、幽鬼時代は人に誉められるような事はあまりしていなかった。
だがしかし、こんなにセクハラを受けるなんて、殴られるよりも辛い。
しかも何か求愛されてる。

「泣いちゃうガジル萌えす」
「泣き顔ならベッドの中で見たいものだな」
「テメェらの耳にララバイ突っ込んで思いっきり吹いてやるぞゴラ」
「ガジルちゃんの吐息が入るなら何度でも」
「助けてメタリカーナ、グランディーネ!!」

キリッとかっこよく決めたイグニールを背負い投げして青い空に向かって叫ぶ。
いつも助けてくれるメタリカーナとグランディーネは、クエストに出ていてここにはいない。
昨日、通信用ラクリマで「一週間後に帰る」と、宣言されたばかり。

「鬱だ、死のう…」
「え、なになに、俺のマグナムでぶっ刺されて昇天したいって?」
「むしろガジルちゃんに二輪挿しして俺達が昇天しちゃったりして」
「死ね!!!!」

毎度のごとく変態発言をかます二人に涙を流しつつ、ガジルは膝をついて項垂れた。
そんなガジルの肩を抱きながら二人は小さな箱を取り出した。
赤いベルベット地の小箱。

「何だよこれ…」
「俺達からの気持ち。ガジルちゃん、受け取ってくんねぇかな」
「クエスト先で見つけたんだぜ!きっと似合うと思って…ほら、開けてみろよ」
「うん…」

前に婚姻届けやコンドーム、妊娠検査機など様々なプレゼントがあった。(どれも燃やしたが)
今回は何だと思いつつ小箱を開けると、何の変哲もないリングが納まっていた。
匂いからして鉄らしい。
しかもすごく美味しそうな匂い。
なるほど、変態親子にしたら気の利いたプレゼントを持ってきたものだ。

「旨そう」
「そう、旨そ…へ?」
「ちょ、ガジルちゃん!!」
「んむ?」

ぱくん、とガジルの口に消える二つのリング。
バリッボリッと音をたてて噛み砕かれていく。
そろそろ助けてやるか、と立ち上がったエルザは頬を痙攣させた。
あれはどう見ても婚約指輪。
それをお菓子のように食べたガジルは、ごくん、と飲み込んで笑顔を浮かべる。

「美味い!!お前らにしては良いもん買ってくるじゃねぇか!!どこの鉄だ?今までで一番甘いし歯応えも良かった!」

婚約指輪を「お菓子」と勘違いしているらしく、もっとくれよ、とガジルがねだる。
いやいや無理だろう!!とエルザや他のメンバーが心の中で突っ込んだ。

見間違いでなければ、ナツとイグニールは泣いている。
あの二人が泣いているのだ。
そんな事は露知らず、ガジルは二人のマフラーをグイグイと引いて先を促す。
今までの報いだな、とため息を溢すエルザ。
これで少しは大人しくなるだろうと思ったが、相手は誰にも手がつけられない、あの火竜親子。
ぐい、と涙を拭い、空になった小箱を投げ捨てた。

「そうかそうか、気に入ってくれたか!!」
「だから言っただろ?ガジルに似合うって!!また買ってきてやるからな!!」
「おぅ、こんなプレゼントならいくらでももらってやるぜ!」

婚約指輪だと気付かずに笑うガジル。
ガジルが幸せならそれで構わない火竜親子。
なんとも言い難い雰囲気に誰も口を出せず、静かに目を逸らしたのだった…








「…………そりゃあ、良質な鉄でしょうね」
「ルーシィにも食わせたかったぜ」
「ごめん、いくらなんでも無理だわ!!」

ざまぁ見ろと思う反面、ルーシィの良心が痛む。
ガジルが本当にわかっていないのも質が悪い。
呆れるルーシィを余所に、あの親子が現れた。

「ガジルちゃんただいまぁ!!はい、プレゼント!!」
「俺だってただいまだぞゴラ!!ガジル、先に受け取ってくれ!!」
「んだよそんなに急かすなっての…ん、何でガラスなんかついてんだ?ルーシィ、やるよ」
「ってこれダイヤモンドだからぁぁぁあああ!!」

ブチッと指輪からダイヤモンドを外し、ルーシィに投げ渡す。キラキラ、ナツとイグニールの涙が光った、そんな気がした。



E N D



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