憧れと恋心 ローグ・♀



「あ、ガジルさん」
「へ?あぁ、スティングじゃねぇか。マグノリアに来るなんて珍しいな、どうしたんだよ」

食材が入る袋を抱えたまま、ガジルは優しい笑顔を浮かべた。
今は背丈も年も同じ、いや、背丈は完全に追い抜かされているが、可愛い弟分にパタパタと駆け寄る。
七年前とは見間違える程逞しく成長した弟分は、買い物袋を片手で取り上げた。

「あ!」
「ちょっと妖精の尻尾に用事があったんで。コレ、持ちますよ」
「私はそんなに鈍ってないぞ!」
「オレがやりたいだけッスから。手持ち無沙汰ならコレでも握っててください」

ん、と差し出されたのは、自分よりも大きな左手。
その手とスティングの顔を交互に眺めてから、ガジルはどこか得意げな表情を浮かべる。
差し出された手を掴み、ギルドへ歩き出した。

「お前はいつになっても甘えん坊だなぁ〜」
「いえ、あの、これって俺がガジルさんをエスコートしてるように見えるんじゃ」
「あ゛?」
「ナンデモアリマセン」

そう、俺達はガジルさんから可愛い可愛い弟のように可愛がられていた。
その度にナツさんが怒って、俺達はガジルさんに助けを求めて、ガジルさんが俺達を庇ってナツさんを殴り飛ばして…
思えば、俺はその強さに憧れ、ローグは彼女の女性の部分に惹かれていたのだろう。
アプローチをしているつもりだろうが、ガジルさんには可愛い弟が甘えてきているとしか思えない。
こんな関係がいつまで続くのだろうか。
ま、俺は可愛がってくれるだけでも十分幸せな訳だけど。

「なぁスティング」
「なんスか?」
「最近ローグが変なんだ。家に遊びに来たから一緒に風呂に入ろうとしたら全力で拒否されるし、一緒に昼寝しようとしても拒否されるし…あいつ、反抗期なのかな」

赤い瞳が悲しそうに揺らぐ。
いや、反抗期じゃないッスよ、貴方が好きだから理性を抑えてるだけで…
と言えたらどれほど楽だろうか。
左手を握る手に微かに力が籠り、隣でガジルが小さくため息を吐いた。

「ローグはガジルさんが大好きッスよ?」
「でも、昔は一緒に風呂だって入ってくれたのにっ…七年も何も言わずに消えてたから、もしかしたら怒ってるのかもしれないし」
「あー…ほら、俺達も年頃ッスから」
「年頃…あぁ、火竜みたいにセクハラしたり?」
「断じて違います。ナツさんと俺達を一緒にしないでほしいッス」

なるほど、と頷きかけたガジルへ、スティングは全力で首を振った。

「うーん…難しいな…」
「じゃあ、ローグに直接聞いてみたらどうです?」
「だってあいつ逃げるんだもん。お風呂に乱入したら避けられるんだもん」
「お願いです、あいつを虐めないでやってください」

いっぺんに入った方が後が楽だろー!!
はあぁ…と大きなため息を吐いたスティングに、ガジルが吠える。

「逆セクハラッスよ、ソレ!」
「な…!私を火竜と一緒にすんな!!お前なんかシャンプーが目に入って泣いたくせに!!」
「それは昔の話です!!ガジルさんだってナツさんにセクハラされて泣いてたじゃないッスか!!」
「おい…それは本当なのか?」

きゃんきゃんと騒ぐ二人に、背後から数段低い声が聴こえた。
ぞくりと悪寒さえ感じる声に振り向けば、何故か腰の刀に手を添える、渦中のローグの姿。
無意識の内に身を寄せ合った二人に、端正な顔が歪む。
ガジルに手を挙げなくても、スティングには刀を振り下ろしそうだ。

「スティング、詳しく話せ」
「い、いや、あれは七年も前で…」
「七年前でも十年前でも百年前でも同じ事だ。しかもガジルさんの手を馴れ馴れしく触るな低能ヘタレ野郎」
「低能ヘタレは言い過ぎだろ…」
「で、どうなんだ。ナツさんがセクハラをしてガジルさんを泣かせたと言うのは本当なのか?」

スティングと違い、ローグは表情が読みにくい。
それは七年前も同じだった。
なので、今のローグはかなり怖い。
ビクビクとスティングに身を寄せて、彼の代りにガジルは小さく頷く。

「ふ、風呂に乱入されて、あの、ヤられそうになっただけって言うか…」
「ガジルさん、ソレってセクハラじゃないッスよね?既に強姦に近いものを感じるんスけど!!」
「でも直ぐにリリーが助けてくれたから胸を揉まれたくらいで終わったし…」
「なるほど…そう言う事でしたか…」

自分が風呂に乱入されるのは苦手なんだぁ…と思いつつ、うっすらと口許に笑みを浮かべるローグに、更なる寒気を覚える。
あぁ、これはナツさん死んだな。
ローグ?と弱々しく名前を呼んだガジルに、ローグは笑顔を向ける。
想い人へ向ける顔はいつだって優しく、だ。

「俺は少し用があるので失礼します。おいスティング、ガジルさんに変な事をしてみろ、たとえ貴様でも跡形も無く消し去るからな」
「しねぇよ!!」
「あ、ローグ!!」

スティングの手を掴んでいない白い手が、ローグの手を掴んだ。
振り向いて見下ろしてくる長身にガジルは笑みを浮かべる。

「用事終わったらうち来いよ。昔みたいに三人で風呂入ろうぜ!」
「え…ガジルさん、三人って、俺も入ってる感じがするんスけど…」
「当たり前だろ!また頭洗ってやるからな!!ローグも、いいよな?」
「……わかりました。でも、風呂には入浴剤を入れてください。濁ってるやつを」
「わかった!」

満足げに微笑む彼女は七年前と同じ魅力を持ったまま。
なのだが、もう少し年月の流れと言うものを感じてほしい。
いってこーい!とローグの後ろ姿に手を振るガジルを見下ろして、スティングは気付かれない様にため息を吐いた。



E N D



「ガジルさん、タオル!!タオル巻いて下さい!!」

「風呂にタオル入れたら汚いだろ。お前らも何で腰に巻いてるんだ」

「ぎゃぁぁあああ!!お願いします剥がそうとしないでください!!一生のお願いッス!!」

「細かい事気にすんな!!男だろ!!ローグは…って、お前何前屈みになってるんだよ」

「生理現象です」

「ローグ、助けて!!マジで助けて…!!」



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