▼ 一夜の獣に‐02
「シワになっちゃうから、服脱ごうか」
「ん…うん」
樹さんに促されるまま服を脱ぎ捨てる。
自分だけ裸になっていくのが恥ずかしくて私はブラを外す前に彼のワイシャツに手をかけた。
ボタンを一つ一つ外していくと、40手前には見えない引き締まった体が姿を見せた。
「肌も綺麗ですね」
思わず呟いて私は樹さんの胸元をペロリと舐め上げた。
男物の香水が淡く鼻腔をくすぐって頭の中をトロンと溶かしていく。
私はそのまま舌を肩まで這わせて、さっきのお返しと言うように首筋に口付け、軽く噛み付いた。
時折聞こえてくるかすかな吐息が嬉しくて夢中で彼の感じるポイントを探っていると、温かい手のひらが優しく私の頭を撫でた。
「…ん…っ」
髪に差し入った指先が耳の輪郭をたどっていく。
せめぎ合う気持ちよさとくすぐったさに体がゾワゾワと疼いて、私は熱っぽい吐息を漏らしながら肩を小刻みに震わせた。
「可愛いね。結花に会えて良かった」
「…っ!」
耳元で囁かれた言葉が心臓をドクンッと跳ね上がらせる。
不意に呼び捨てで呼ばれたことにときめきを抱いている間もなくブラのホックを手早く外され、胸の鼓動が一層激しく高鳴った。
「あっ! あ…っんん…!」
さらけ出された乳房の頂点を樹さんの唇に捕らえられ、途端に走った疼きにひときわ大きな声がこぼれる。
固くなっていくそこをきゅっと吸われて舌先で舐め転がされて、みるみるうちに理性が揺らいでいく。
「…っん…」
震える肩をそっと押されて、私はベッドに横になった。
火照った頬をあの綺麗な爪の先で撫で上げられ、ゾクゾクッと細やかな快感が湧き立つ。
その代わりに、中途半端に刺激を与えられた胸が切なげに疼いて私の中の欲望を煽る。
私は荒くなる呼吸を抑えながら、涙で滲む瞳で樹さんを見上げた。
「その顔、“もっと”って誘ってるの?」
「…っ! そっそんな顔してないっ」
「そう? でも凄いそそられるよ」
「ん、…っん…!」
背けた頬を掴まれ、再び深く唇を落とされる。
最初のキスよりも激しく口の中を舌で掻き乱され、胸の奥を揺さぶるような甘い衝動が瞬く間に込み上がってくる。
獣のように本能的な口付けに頭の中が真っ白に溶けて、私はさっきの羞恥心も忘れて、自ら顔の角度を変えて彼の唇をより深く求めた。
「ん、ふっ…! んんんっ!」
過敏になった胸の先端をギュッとつねられ、突き抜けるような快感が胸から下半身へと響きわたった。
ギリギリ痛みには届かないその強引な刺激に、淫らな情欲が一気に沸騰し始める。
「ふぁっ…! っは…ぅんんっ!」
ようやく唇から解放され、足りない酸素を補おうと深く息を吸い込むと同時に彼の指が口の中にねじ込んできて、私は突然のことにビクンッと体を強ばらせた。
「あっあ…! んっんんぅ…っ!」
グチャグチャと人差し指と中指で口内を犯しながら樹さんは私の耳に舌を這わせていく。
どんな刺激でもいちいち反応してしまう私を弄ぶように、耳の隅々までジックリとたどって緩く歯を立てる。
甘い痺れが耳から絶え間なく流れ込んできて、全身がトロトロに溶かされてしまうような感覚に私は彼の指を舐めながら甘ったるい吐息をこぼす。
「さっきよりももっとイイ表情になったね」
「…っ…ふ…」
唾液まみれの私の唇を親指で撫でながら樹さんは挑発的に微笑む。
「ん、ん…!」
もう片方の手が私の耳をくすぐり、そして首筋、肩、胸元へと滑り降りていく。
まるで触診してるみたいにゆっくり丁寧に皮膚を撫でていく指。
今の私にはその繊細な刺激がもどかしくて、無意識に腰をくねらせてしまう。
「焦れったい?」
「……っ」
わざとらしく聞いてくる樹さんを、不満を訴えるように睨み上げる。
大人の余裕たっぷりの憎らしい笑顔。
きっとこの人には私みたいな小娘の誘惑や挑発なんて一切通用しないんだろうと睨んでいるこっちが尻込みしてしまう。
「その顔もいいね。いじめたくなる」
「っふ…! ん…んっ!」
太ももを撫でていた指先が散々刺激を待ちわびていた下腹部に触れ、私は大げさなくらい体をしならせた。
けれど指は下着の上から割れ目を優しく上下に撫でていくだけ。
余計に熱情を煮やされ、焦れったさに我慢できず私は「んんんっ」とダダッ子みたいな淫声を上げた。
「…何?」
「っん…うぅっ」
そんなこと、聞かなくたってわかってるくせに…っ
口内で舌を撫でている樹さんの指をきゅっと噛んで、いかにも物欲しそうに瞳を涙で揺らめかせて彼を見つめ返す。
「直接触って欲しい?」
「……っ」
その問いに私は恥じらいもなく大きく頷いた。
「こんなにグチャグチャに濡れてるなら、指一本入れただけじゃ足りないよね?」
「っあ! …ふあ、ぁ、あ…っ!!」
極限まで緊張を高められた媚肉を彼の指が溢れる蜜をまとわせてこじ開けていく。
体内で煮詰められた衝動が一気に狂い咲き、全身を包み込んでいく快感に私は感嘆の喘ぎを上げて酔いしれた。
「痛くないの? 一気に3本も入れたのに…。やらしいね、結花の中。嬉しそうに指に絡みついてくる」
「あっ、あ! んん…っ!」
悦楽に満たされていく恍惚感に意識をたゆたわせたのも束の間、電流のように突き抜けた熱い痺れが浮遊する私の心を叩き起こした。
奥まで侵入した指が肉壁を抉り、深い情欲を掘り起こしていく。
早くも訪れた絶頂への疼きに体は戸惑いながらも今以上の快感を求めて熱を高めてしまう。
「い、や…っあ! あぁっ!」
「“イヤ”って、ここを擦られるのが?」
「あぁっ!や…ッあ!」
ひときわ激しい疼きが弾ける箇所を執拗に掻き乱され、指の動きに合わせて体中がビクビクと跳ね上がる。
容赦なく迫り来る狂喜の高波。
こんなにも呆気なく絶頂を迎えようとしている自分が恥ずかしくて、私はキツくシーツを握り締めて必死に快楽に抗う。
「ここがイイんだ? ふふっ、結花は反応がわかりやすいね」
「ああぁっ! あっ、ふ…っうぅう!」
羞恥に悶える私を彼の指が慈悲の欠片もなく猛烈に肉悦の極致へと追い込んでいく。
荒々しくなっていく指の動きに比例して大きくなる喘ぎ声と卑猥な水音。
身体の奥でグツグツと煮え立つ衝動によがり狂いながら私は少しでも刺激を逃がそうと腰元をくねらせて敏感な箇所から彼の指をそらせる。
「何で逃げるの?」
「っだ…って! イッちゃいそうになる、から…っ!」
「俺の前でイクのが恥ずかしい?」
「ん、んぐ…っ!ふあっ!あ、ううぅッ!」
問いに答えようと開いた口におもむろに指を突き込まれ、言葉が物怖じた泣き声へと変えられてしまう。
指は荒く獰猛に口の中を掻き回して舌を扱き、捻り上げる。
彼の静かな怒りが伝わってくるようで、本能的な恐怖を感じた体がゾクゾクとわなないて固く閉ざした目から涙が溢れた。
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