▼ 白濁液は蜜の味‐04
「フェチズムですなぁ」
楓の言葉は、身体を赤く火照らせ、濡れた下着を膝まで下ろしてまるで自ら誘っているかのようなその様のことを指しているのだろう。
それを察した光は顔を一層赤らめて、少しでも楓の視線から逃れようと顔を背けた。
「スカートはどうする? 脱ぐ?脱がない? 俺はどっちでもいいよ」
今の段階で顔から火が出そうなほどの恥辱を受けているのに、スカートまで脱いで全てをさらけ出すとこなど光にはとても耐えられなかった。
「……脱ぎたくない」
「うん。俺もこのままの方が好き」
声を震わせて答えた光に対して、楓はこの状況を心底楽しんでいるように満面の笑みを浮かべている。
今までの人生の中でこれほどまでの辱めを受けたことなどなかった。
それでも身体は楓を求め続け、感じる視線に欲情を込み上がらせていく。
憎むべき男に完全に支配され、いいように手のひらの上で転がされている惨めな己にどうしようもなく憤り、光は手にした玩具を壊れんばかりに握りしめる。
「……やらないの?」
様々な感情の渦巻く脳内を、楓の声がいたずらにつつく。
「早くオナニー見せてくれなきゃ、おちんこさん萎えちゃうよー」
「……っ」
コイツ、ほんっとにムカつく……! いつか絶対ぶっ飛ばす!
光はそう気を吐き、理性を自ら押し殺してバイブを恥部にあてがった。
「……っく……! ふ、ぅ……っ」
力を込めると同時にゴツゴツした感覚がゆっくりと膣壁をこじ開け、深くまで進入していく。
顔を背けていても下腹部に焼け付くほどの視線を感じ、光はギュッと固く目を閉ざした。
「ぅぅ……っは、ぁ……!」
バイブを動かす度に表面に施されている凹凸が膣内を引っ掻いていく。
極限まで欲情を高められた光の身体はそれだけで震え上がるほどの快感を湧き起こしてしまう。
「……ちゃんと入ってる?」
「きゃっ!」
自らもたらす刺激に頭の中が白く霞みかけていたさなか、不意にスカートの裾を捲り上げられ、光は反射的に腰を引いてスカートを押さえた。
「へぇ。ヒメちゃんもそういう女の子らしいリアクションするんだー」
「ばかっ! 勝手に捲んないでよ!」
「だって、入れてるふりしてるだけなんじゃないかなーと思って」
「ちゃんと入れてるからっ!」
「えー。見えないからもっと音出してくれないとわかんないよー」
「……っ」
“もっと激しく動かせ”という楓の要求に光は唇を噛み締めて手に一層強く力を込める。
「ふ……あッ、あぅぅ!」
ジュプッという卑猥な水音とともにバイブが一気に媚肉を突き上げる。
たちまち全身に痺れるような快感が襲いかかり、光は太ももをブルブルと震わせて甘い悲鳴を漏らした。
「くっ、ふぅ……っあ! あっ、ふぁ、あ……っ!」
溢れ出る愛液が潤滑液となり、バイブの抽送が滑らかになっていく。
リズミカルに奥を突くと、下腹部から脳天へと絶え間なく熱い刺激が突き抜け、光の心は次第に悦楽に溶かされていった。
「ぺろーん」
「ひゃっ!」
せっかく羞恥心を忘れて快感に身をゆだねたのも束の間、再びスカートを捲られ光はまたしても我に返って慌てて楓の手を払いのけた。
「なんで捲るの!?」
「いやー、ヒメちゃんの反応可愛いからまた見たいなーと思ったりなんかして」
「余計なことしてないであんたもさっさとヤりなさいよ馬鹿!変態っ!」
激しく怒鳴られ、楓は渋々といった様子で自身のものに手を添える。
「ヒメちゃんだって手止まってるよ?」
「あんたが邪魔するからでしょ! 黙ってしごいてろ!」
「相変わらずキツいなぁ。……本当にちゃんと反省してる?」
「してるからっ」
「えー。何を反省してるの?」
ねっちこい質問責めのせいでバイブの刺激に集中することもできず、快楽と恥辱の狭間で揺れながら光は忌々しく眉をひそめて吐息の漏れる口を開く。
「だからっ……、お金、盗んだこと……っ!」
「へー。誰の?」
「誰のって、そんなのわざわざ聞かなくたってっ……」
「俺の名前。忘れちゃった?」
「……っ……、か……かえ、で……っ?」
名を口にすると妙な気恥ずかしさが湧き立ち、光はそれを強引に快楽によって掻き消そうとバイブを荒っぽく動かす。
「ちゃんと覚えてくれたんだ。嬉しいー。見て見てこれっ、喜び勃起」
「うっ、うっさい! そんなもん、誰が見るか……っ!」
「あ。ちなみにヒメちゃんの本名はなんていうの? ヒメって源氏名でしょ?」
「……光っ」
この男に名前を教えるのは癪だったが、苦い記憶しかない源氏名でいつまでも呼ばれるよりはマシだと、光は投げやりにそう答えた。
「ひかる? 可愛い名前だね」
「──っ……!」
楓の声が“ひかる”と言葉を紡いだその瞬間、光の身体に電流のような感覚が駆け抜けた。
名前を呼ばれただけで喜悦を感じてしまった自分に動揺しながらも光はすぐに気を持ち直して下半身へと意識を集中させる。
「光」
「ふっ……!」
「その玩具、気に入った?」
「ぁ、あっ、んん……っ!」
自分の名を呼ぶ楓の声が再び頭の中を甘く疼かせる。
光、と言われた途端に体を跳ね上がらせてしまったことが恥ずかしくて、光は『バイブの刺激で身体が反応しただけ』だと誤魔化すようにがむしゃらにバイブを抜出しした。
「随分夢中になってるね。……でも気持ちよくなってばかりじゃダメだよ?」
「ふあっ……?」
「まだ光の口から大事なことを聞いてないよ」
「だっ、いじな……っこと?」
「悪いことをしたらさ、なんて言うの?」
その問いかけに対して答えとなる言葉はすぐに脳裏に思い浮かんだ。
けれど光は今までその言葉をまともに口にしたことなど一度もなかった。
ましてやこの男にその一言を言うだなんて……。
しょうもないプライドがこの期に及んでよみがえってしまい、光は言葉を詰まらせる。
「光、こっち向いて」
「ん……ッ! ふ、ぅぅ……っ」
少しトーンの低くなった声が光の心を鷲掴む。
……ダメ……無理っ、今……コイツの顔なんて見たら……っ!
ゾクゾクとざわめき続ける身体。
それは恥部からくる刺激のせいだけではない。
楓の視線や声が、光の意識を惑わせて、眩暈がするほどの快感へと導いているのだ。
この状態のまま楓と目を合わせてしまったら、自分の身体はどれだけ暴走してしまうのか。
光は怖くて素直に顔を上げることができなかった。
「光?」
「……くっ……!」
「俺の目が見れないの?」
「うっ……るさいな! あんたのキモい顔なんか見たくないだけよっ!」
挑発的な口調に苛立ち、光は勢いに任せて楓の方へと見向いた。
それと同時に、ゾクッとひときわ大きな疼きが体の中枢を突き抜ける。
──眼鏡の奥の真っ黒な瞳。
それに心も体も射止められ、うまく呼吸ができなくなってしまうほど体中の神経が強張っていく。
「手、止まっちゃってるけど」
「……っ! ん……っく、ぅ、うぅっ!」
「そのまま、もう顔を背けちゃダメだよ」
楓の言葉の一つ一つが光を追い詰める。
もう誤魔化すことはできない。逃れることはできない。
冷たく怪しい視線に捕らわれ、光はなす術もなく目の前の男に支配し尽くされていく。
「で……、なんて言わなきゃいけないか、わかるよね?」
「ふ……っぅ……!」
頭の中に浮かぶその一言が光の心を激しく揺さぶり立てる。
ここまで光は、精液をもらうためだと自分に言い聞かせて罪の意識からは目を背けて楓の言うことに従っていた。
けれどその言葉を口にすれば、完全に自身の過ちを認めてしまうことになる。
己が世界の中心だと考えて生きてきた光は両親にすら本気の謝罪の意など見せたことはなかった。
罪を認めた弱い自分をさらけ出すことは光にとってこの上なく悔しく、そして未体験の恐怖でもあった。
「ちゃんと言える?」
ズキズキと痛いぐらいに脈打つ心臓。
しかしいつまでもためらっていられる余裕など光には残されていなかった。
光は眉間を歪め、楓を真っ直ぐに見つめて、初めてその言葉を本心から口にした。
「……ご……めん、なさぃ……っ」
下腹部から漏れる水音にさえ掻き消されてしまいそうな弱々しい声。
それをしっかりと聞き入れた楓は、毒のあった笑みをふと柔らかく崩して光に優しく微笑みかけた。
「うん。もういいよ。怒ってないから」
「……っふ……! ぁ、う、うぅ……っ!」
張りつめていた緊張の糸が切れ、安堵感が光の体に満ち満ちていく。
罪を償い、そして許される。
そんな誰もが経験することを今初めて体感した光は、心が解きほぐされて泣き出したくなるような、今までにない熱い衝動に駆られて全身をぞわぞわと震わせた。
「バイブ気持ちいい?」
「ふぁっあ……! ぅ、ん……っ!」
「もう好きなだけ気持ちよくなっていいんだよ」
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