真田弦一郎


 さてと、お湯を張り替えて顔を洗ってと。あ、髪にも精液ついちゃってる……急いで洗い流さなきゃ。
 そんなバタバタしている時だった──

「ぬぅ、やはり噂は本当であったか。こんなたまらん…ぃゃゴホン、破廉恥でいかがわしいバイトをするとは不二、けしからん!」
 立海大附属中3年の真田弦一郎くんが凄い剣幕で入ってきた。
「あ〜…真田、これはね悩み相談のバイトで決していかがわしくは……」
「不二!!」
 ずんずん迫ってきたかと思うと彼は背後から覆い被さるように僕を抱きしめた。
「分かっておる、みなまで言うな。苦労しておるのだな」
「えっ、えっ?」
 耳に息がかかって……
「だがな、自分の身体はもっと大切にせねばならん」
「ちょっ、何を言って」
 やだぁ乳首クリクリしないでぇ……
「よいか、俺とのまぐわいを最後にこの仕事から足を洗うのだぞ」
「もっ、やめ……ぁン!」
 彼の指が僕のお尻を左右に割り広げようとする。さすがに身の危険を感じた僕は後ろ手に彼の玉袋をきゅっと抓った。
「ぐぅぉぉぉおおお!!」
 断末魔の叫びを上げ彼はその場に倒れた。ごめんね、真田──。

 数分後、改めてセラピストの説明をすると彼は平謝りしてくれた。泡姫のバイトと勘違いしてたんだって。案外そそっかしいよね。(ところで泡姫って何だろう?)
「・・・本当にすまなかった」
「もういいよ。僕のことを心配して来てくれたんでしょ、優しいんだね」
「そのっ、……俺の悩み相談にものってくれるか?」
 照れてるのかな、ばつが悪そうに彼は悩みを打ち明け始めた。
「他校に練習試合に行った時にな、よく顧問の先生と間違えられるのだ。どうすれば不二のように若々しくなれるだろうか?」
 そんなのウチの手塚もだよ、っていうのじゃ解決にはならないよね。
 そうだ!
 僕はあるモノを彼に手渡した──お風呂で遊べるクジラのぬいぐるみ。
「可愛いでしょ? お湯に浸けると色が変わるんだよ」
「ほう」
 彼の表情が柔らかなものに変わる。
「そう、その顔! 可愛いものを可愛いって思える素直な気持ちがね若さの秘訣なんだよ」
「本当に……可愛いな」
「でしょ。よかったらあげるよ?」
「いや、ぬいぐるみではない。可愛いのは不二だ……今しばらく愛でさせてくれ」
 湯船の中で正面から抱きすくめられ背中を優しく撫でられる。
「不二……かわいい」
「うん……真田もね」

 そうして真田は「また来る」と言い残して満足げに帰っていった。
 怒鳴られたり撫でられたり、僕も父さんと一緒にお風呂に入っているみたいで楽しかったな。


 END


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