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唾液で濡れた唇を優しく親指で拭われて、嬉しそうに目を細める彼を見てやっと気付いた。咲弥のファーストキスであったと。

「わ、わたし、はじめてで…」
「何が?」
「キスしたの」
「え、ほんとに?キスしたこと無かった?」
「ない、こんなの、し、したことない」

そうだ、ファーストキスだった。そんなもの全く興味が無かったから気にしていなかったけれど、いざ、初めてのキスをされてこんなに激しいものだと知った。
舌と舌を絡ませ合い、唾液を吸って、呼吸すら奪うようなキスは、以前ドラマで見たソフトなものとは大違いで、なんとも淫猥だ。

「……っ!」

あまりのことに恥ずかしくて両手で顔を覆うと、万里に肩を押されて勢い良く押し倒される。予期せぬことに体を震わせると、申し訳程度に纏っていたバスタオルは引っぺがされ、足の間に万里の体が入った。
そしてその勢いのまま両手首を掴まれると左右に引き裂くように離されて、咲弥の赤い顔が万里の目の前に。

「………」
「なに…」

リンゴのように赤くなっているであろう顔をじっくりと観察されて、今度は梅干くらい赤くなったかもしれない。いたたまれなくて、視線を下げると、ボソリと低い声が耳に届く。

「あー、堪んない」
『え?』

それは今まで聞いたことがないくらいの低音で、尚且男っぽかった。思わず出てしまったという感じの声はセクシーで、本性と本能を垣間見させるような呟きにドキリとすると、万里からは遠慮が消え失せる。
まるでその呟きが合図かのように。

「ん!うう!」

再び唇が重なり合い、噛み付くように貪られ、咲弥の眉間にシワが寄った。しかも二回目のキスはキスだけではなくて、万里の手は膨らみも何も無い咲弥の胸を遊び出した。

「んー!んぅ!んっ!待っ、んん!」

薄い胸を肉を集めるように脇から寄せて揉まれたかと思うと、肌の色との境の無い乳首をキュッと摘まれる。その痛みに抵抗するが万里の力の方が強くて、抓るように乳首を捏ねられてしまい、脚をジタバタさせた。
踵でシーツを蹴ると、指の動きは柔らかなものへと変化して、人差し指と親指で挟んでいたそれを解放し、指の腹で撫で付けるような動きになる。
それはそれでくすぐったくて、シーツを蹴るのではなく今度は膝で万里の脇腹を挟むようにして悶えた。

「ううっ、んっ!んっ、んっ!」

ピリピリとしたような、ザワザワとしたようななんとも言えない掻痒感が胸から下半身へと伝わっていくのが嫌な感じだ。
くすぐったいし、いつもそこを触られるのに違和感を覚える。
腕や腹を触られている時よりも、万里の硬い指の腹をダイレクトに感じてしまうし、ほかよりも敏感みたいで体が過剰に反応してしまう。
つんつんと乳頭をつつかれながらも撫でられると、勝手に尖ってしまって恥ずかしい。

「ふぅ、うっ。んん、ゃぁ、んっ」

だからやめてほしくて肩を押したり少し身を捩ったりしているのだが、万里はやめる気配を見せなくて、脇を締めるようにがっちりと咲弥の体を挟むのだ。

「んうっ、うっ、あ、まぞ、くん、それ、やだっ」
「痛い?」
「痛くな、けど、じんじんする…」
「だよね。咲弥はいつもここ触られてちんこビンビンにするくらい好きだもんね」
「っ、やぁ…」
「はあ、舐めていい?」

いいよ、と言う前に彼の舌はもうそこへと伸びている。
言葉と同時に乳首にしゃぶり付き、唇で皮膚ごと挟んで舌の先で乳暈を撫で付けた。

「ひゃん!あっ、んんぅ」

指でいじめられるのとは違う優しい感触に、自然と背を仰け反らせる。柔らかく温かな粘膜がソフトに触れて吸っていく感覚は、ざわざわとしたいけない官能を誘い出して、力の篭った指先をいやらしくほぐすのだ。

「ん、そ、れは…んんっ」
「ちゅ、ちゅうっ、んちゅ」
「あっ、ひぁ、ぁぁっ、だめぇ…」

勝手に語尾が蕩けた声が漏れてしまって、万里を楽しませた。甘い愛撫は心底気持ちよくて、彼の腹に勃起したそれがあたってしまう。硬い腹筋が呼吸の度に膨れ、咲弥の陰茎を擦りあげるような動きに、「ひん!」と間抜けな声が出た。

「ゃ、なんか、いつもより…んっ、ふっ」