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指先が熱い。神経がおかしくなってしまったみたいだ。腰ゴムの圧迫と、あたたかい皮膚と、その皮膚の向こう側にある骨と…全ての感触が指先に集中している。
他人のそんなところを触ったことなんて無いから、咲弥はどうしたらいいのか分からない。

「悪魔の皮膚は、普通の人間と同じ。魔法の素質が無い人間と同じように白くはならないよ。夏には日焼けして黒くなったり、冬には少し白く戻ったり。それだけ。体毛も同じ」
「あっ…!」

再び手を移動させられた。指をスエットの中へと入れられた状態で前へと誘導される。

『そこは、』

そして更に手を奥へと入れられると、指先にジャリ、とした嫌な感触が。

「やだ…」
「咲弥のツルツルで可愛いココと違うんだ。俺はムダ毛は抜けないし色も白くならない。普通の男と同じように黒く生えたまんま」

その感触は硬い毛で、そんなの考えなくとも分かる。自分に無くて万里にはある、あそこの毛だ。
髪の毛と違って太くて硬いそれが、指先をチクチクと刺激していて「アソコの毛だ」と思うたびに、咲弥の目には再び涙がじんわりと滲んでいく。
恥ずかしくて、でも不思議と嫌ではなくて、でもこれはダメなことで…そんな複雑な感情がぐるぐるした。

「そして…」

そのままの体制で彼は顔だけ横を向いて勢い良くフッ!と息を吹きつける。その息には桃色の色がついたかと思うと、煙のようにモクモクと蠢いて形を作り、咲弥の顔を作り出して浮かぶ。
頭だけが宙に浮いたその魔法は光魔法だ。そしてその光魔法で現れた咲弥の頭を消すように小さな竜巻が起こり、クルクルと竜巻が包んで散らせたかと思うと、竜巻の流れに乗って水が吹き出し、スクリューが起こる。
渦巻く水は荒々しく巻いているが、万里が再び息を吹きかけると、その水は静かに蒸発していった。

「俺はあらゆる魔法を自由自在に扱える。これだけ使えるのに俺の体は白くないよね。王のようなヴィジュアルになってもおかしくないのに、まるで人間みたいだ。そんな俺は醜い?どう思う?」
「あ、天空くん、手を…」
「ここもね、人間みたいに精子出るんだよ。いっぱいさ」
「あ!」

ぐっと押し込まれ、とうとう万里のそれへと触れてしまった。大きくて手のひら全体を張り付くくらい太くて…。
いつからそうなっていたのか、ドクドクと脈打って火傷しそうな程に熱くなっているそこに、指や手のひら全体を押し付けられている。
こんなにダイレクトに触れたのは初めてで、咲弥の顔は真っ赤に染まった。下生えのじゃりじゃりした少し痛い感触と、ゴムのような湿った硬い肉の感触…むわっとした体温がそこに集まっているような熱量に、咲弥は羞恥して涙目になる。

「やめ、やめて…」
「大丈夫だよ。咲弥は俺が好きなんだ」
「好き…?」

小さく震える手が更に奥へと押され、咲弥のよりも大きな双球を揉まされてしまい、ビクッと大袈裟に肩が跳ねた。

「アレックスに虐められたのに、俺のところに来たでしょ?悲しいのに、南野じゃなくて、俺に慰めてほしかったんだよね?」
「私、天空くんしか、頼れな…」
「南野はダメなの?」
「南野くんは、違うよ……」
「俺は違わないんだね」

空いている方の手が伸びて、後頭部を撫でられる。そのまま冷えて固くなった耳を温めるようにしゃぶられながら囁かれ、陰嚢に触れている手に力を入れてしまった。すると、万里のいきり勃った陰茎が更に膨張したものだから、もうどうしたらいいのか分からなくなる。

「耳、や、めて」
「好きだよ。咲弥。咲弥のことを愛しているのは俺だけだ。屋上で咲弥があんなに泣いていたのに南野は気付かなかったね。酷いよな、友達なのに」
「あっ、ぁ」
「そんな南野じゃなくて俺の所に来た。今もこんな格好で俺のところに居る」

唇が耳朶を挟み、息を吹きかけるように囁かれ、背筋がゾクゾクとする。恥ずかしい…

『私、本当に天空くんが好きなの…?怖いだけじゃないの』

彼の胸を押してもビクともしないし、スエットの中にある手を引っ込めようとしても倍の力で抑えられてしまい、更に揉み込むように上から手を重ねられてしまう。
その力強さは今まで経験したことが無い。そう、これまでは彼の腕力で無理矢理押さえつけられていなかったからだ。魔法を使って操られていたから、万里の力強さなんて感じる事が無かった。
でも今はスエットから手を出さぬようにと押さえつけられている。その力強さに恐怖すると同時に、安堵している自分も居た。

もう怖い思いをしたくないのだ。何もかもを認めて万里にめちゃくちゃにされて考えを放棄したかった。
考えると怖い。どうしたらいいのか解らない。それならもう考えなくさせてほしい。